ーー岡村さんは、ニコ生やイベントなどでファンの前に立ってきたわけですけど、そこで何か感じたことはありますか。
岡村氏 :最初はIT企業らしからぬ、セオリー無視のアナログ的な宣伝手法だったと思います。声優の方と一緒に表に立って、ファンの方とどのような距離感を保つかを考えていました。
イベントだったりニコ生を見てくれているファンの方が、必ずしも全員の方がサービスを使っていたわけではないんです。そしてキャラクターだけを見てハッカドールをお気に入りにしているかというとそういうわけでもないと。声優を通じてのファンの方もいれば、アニメを見て面白いと思ってくれたファンなど、さまざまなファンの集合体が、ハッカドールの“マスターさん”だということに気づいたんです。
今だと、ひとつの展開からはスケールしづらい状況があると思うのですけど、マンガやアニメ、ゲーム、そのほかいろんなものがあって、その人のお気に入りになれると、今やっと整理できた感じですね。
初期のころは、IT企業らしくサービスの発展に何をすべきか、ということにとらわれていたところもあって。イベントなどで楽しんでもらっても、サービスを使ってくれないことにもどかしさがありました。やはりインストールや継続率で一喜一憂したり、もどかしさを抱えながら、人前に立つということを続けていました。
そのあとでも、裏側では苦しんでいる要因として、テクノロジー、プラットフォーマーとの価値観や解釈、文化の違い、あとはテクノロジーと法律の解釈とかありましたけど、そこはユーザーさんには関係のない話なので。そことの境目にいた人間としては、盛り上げることでアクティブの寄与にはつながっているけど、本質的な解決になっているのかという悩みはありましたね。
荒巻氏 :やはりアプリだけで収益基盤を作るのが難しいだけに、ハッカドールは本当にいろんなことをやってきたんです。それゆえに、終了告知でたくさんの方が惜しんでくれたのは、アプリを利用した方以外にもファンがいたということの裏返しでした。いっぱいやってきたことのすべてが、アプリのダウンロードに直結するわけではないけど、ユーザーがコンテンツに出会って楽しんでくれたからこそ、無くなると悲しいと思ってくれるわけで、その役割にはなっていたと。ひとつひとつは無駄になっていなかったですね。
寺嶋氏 :アプリやサービス運営のなかで分析ツールを見ていると、本当に数字が数字にしか見えなくなってしまうことってあるんです。でもイベントでユーザーの方を実際に見て、ニコ生とかで声優の方も見たりしていると、感情移入の度合が違うんです。それを体験すると、数字の見方も変わってくると思ってて。
チームとして、ユーザーのためにならないことはやらない、ということは一貫してしていたと思います。ダウンロードを増やしたり、リテンションレートを上げないととは思いつつ、基本的に顔を見ながらやっていたと思います。
岡村氏 :振り返れば、こんなにイベントをやっているサービスもなかったと思います。
荒巻氏 :ゲームならともかく、ニュースアプリですから。
岡村氏 :コミケのイベントは理解していましたが、TGSあたりは耳を疑ってましたね(笑)。ニコ生も含めて、ユーザーとのタッチポイントが多かったと感じています。
ーーサービスの終了にあたって、アルバム機能やアラーム機能を持つメモリアルアプリの配信と、声優陣によるイベントが行われますが、この取り組みについてどのような経緯があったのでしょうか。
荒巻氏 :チームのメンバーにサービス終了を伝えたときに、8月までに何をするかという話し合いをしました。そして、大きくふたつやりたいことが挙がりました。ひとつはハッカドールのキャラクターを愛してくれたマスターさんがいて、イラストも多数配信していたので、終わるならそれを残したいということ。あとはマスターさんへのお礼として、自分たちで企画したリアルなイベントの機会があるといいということ。まず形にして残すことはやろうと決めました。
岡村氏 :そのエンジニアはすでに異動先が決まっていて、早く合流してほしいと言われているのに「ハッカドールのアプリを作りきらないと行かない」と主張して残ってました。それだけの意気込みをかけたものなので、使ってほしいと思います。
荒巻氏 :全然違うアプリといっていいですし、イチからアプリを作るのと変わらない労力がかかるものを頑張って作ってました。
岡村氏 :ハッカドールはいろんなクリエーターの方々に協力していただきましたし、みなさん協力的でした。
荒巻氏 :終了することをお知らせしたら、多くの方にありがとうございましたというメッセージをいただきましたし、8月15日に向けてイラストを描き下ろしていただきました。
ーーイベントのほうも、早い段階から開催を決めていたのでしょうか。
荒巻氏 :そちらはそうではなく、告知したあとで決めました。イベントは会場や声優のスケジュールの確保もありますし、さらに気持ちは採算度外視といきたいのですが、そういうわけにもいかず……。なにより終了の告知で反応がなにもなければ、イベントそのものも成り立たないと思って、その反応を待ちました。それであれだけの声と反応をいただいたので、やろうと。なんとか会場を探し出してこぎつけた感じですね。
いろんな形でハッカドールを好きでいてくれたマスターさんがいらっしゃいますので、これがサービスの終わらせ方の一番いい形になるものを見せられたらと思います。いろんなマスターさんの気持ちに応えられるイベントになればと思って、構成を練っています。
岡村氏 :ハッカドールは苦戦している状況もあったのですけど、得体のしれないパワーとポテンシャルがあることは、社内でも理解されていました。一方で、このままずるずると続けてしまうのも、誰にとっても幸せではないので、2018年はいろんな挑戦をして、ある時点で見極めることを決めて。いろいろとやったけど、その時定めた目標には届かなかったので、そこから終わらせ方を考え始めたんです。やりたいことと、みんながやってほしいことを考えて計画できたのが良かったですし、会社から一方的に終わらせられたというような感覚はないです。
荒巻氏 :ハッカドールは収益面では苦労しましたけど、初めてテレビアニメ化したりコミケでも展開していましたから、好きなようにとまではいかなくても、いい終わらせ方をしていくことには会社から同意をしていただけました。なので、やりたいことを出し切って8月25日のイベントを迎えられるのは、DeNAのサービスの終わらせ方としてもいい形になるのではと思います。
岡村氏 :粘って細々と続けようと思えば、まだ許してもらいながら続けられたところもあったかと思うのですけど、一番いい終わらせ方のタイミングはここだろうと。それで騒いでもらうことは重要でした。Twitterのトレンドとか、いろんなところでニュースに取り上げられたからこそ実現したことでもあるので。
荒巻氏 :ゲームのサービス終了は、キャラクターに思い入れがあったり投じているお金もあるので、騒がれやすいのですけど、ニュースアプリですから。それでリツイートが少なかったら悲しいですけど、どういう反応をされるのかが読めなかったので。思いのほか「ありがとう」と言っていただけたのはうれしかったですね。
岡村氏 :Twitterのトレンド入りしたのはびっくりしました。
荒巻氏 :そこそこの反応はあるかなとは思いましたけど、そんなに言ってくれるんだと思いましたし、アプリのレビューもありがとうという言葉で埋まってますね。……でも、そこまで言うなら、使ってほしかったという本音もあります。実は終了の告知をして、ユーザーが増えるかなと思ったんですけど、増えたのは一瞬だけで。アクセスも、あまり立ち上げて無かった方が思い出したように一度立ち上げたということはありましたけど、すぐに戻りました(苦笑)。
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