未来の台所を創造する「SKSJ 2019」から見えてくるもの--ソニーがキッチンに注目する理由

近藤克己 (プラスワン・クリエイティブ)2019年08月22日 10時00分

 ITコンサルティングサービスを提供するシグマクシスは、「スマートキッチン・サミット・ジャパン 2019」(SKSJ 2019)を8月8~9日の2日間、東京・日比谷で開催した。

 スマートキッチン・サミットは2015年に米国シアトルで初めて開催され、日本では2017年に初開催し、3年目となる。「食&料理×テクノロジー」をテーマに、フードテック企業、キッチンメーカー、キッチン家電メーカー、サービスプロバイダー、料理家、起業家、投資家などが集結し、日本のキッチンの未来を語り合い、協業の道を模索することを目的としている。

 2019年は「MOVE」をキーワードに、国内外から約50人のイノベーターが登壇し、スマートキッチンやフードイノベーションの動向、食産業が解決し得る社会課題などについて情報共有、ディスカッションが行われた。

 今回は、「ホームクッキングの未来(ホームクッキングを“楽しく”する)」と題したセッションを紹介する。同セッションでは、レシピサイトを運営するクックパッドでスマートキッチンサービス「OiCy」の立ち上げに取り組んでいるクックパッド スマートキッチン事業部 部長の金子晃久氏と、ソニーのAIコラボレーション・オフィスにて食のプロジェクトを担当している、ソニー AIコラボレーション・オフィス 2課 統括課長の西村征也氏が登壇。それぞれの立場で今取り組んでいるプロジェクトを紹介した。

クックパッドレシピのマシンリーダブル化がもたらす“気づき”のループ

 クックパッドの金子氏は2018年も登壇し、「クックパッドのレシピをマシンが読み取れるようにする」と宣言。その後それが現実化した中で、レシピのマシンリーダブル化で実際に何ができるようになるか、具体的な提案を今回は提示した。それは、水の硬度を自在に操るマシンだ。

 
「スマートキッチンは人間に新たな気付きを与えてくれる」とクックパッドの金子晃久氏
「スマートキッチンは人間に新たな気付きを与えてくれる」とクックパッドの金子晃久氏

 「私はあれから、水の硬度に注目してきた」と金子氏。「水の硬度が料理に影響を与えるらしいと聞き。スーパーで片っ端からミネラルウォーターを買い集めた。まず、硬度によって沸騰の仕方が異なる。軟水はすぐに沸騰するが、硬水はなかなか沸騰しない。次に肉を入れてみた。硬水からはあっという間に肉のアクが出てきた。食べてみると、アクが出たせいか肉のうま味が閉じ込められ、噛んだ瞬間に肉の味がぐっと感じられる。さらにカレールーを入れたらもっと衝撃的なことが起こった。硬水はスパイスが効いて深みがあり大人の味、軟水はまろやかで子どもが好きそうな味とはっきりと違いが現れたのだ」。

 
水の硬度が高いと肉のアクがすぐに出るて、旨味が閉じ込められる
水の硬度が高いと肉のアクがすぐに出るて、旨味が閉じ込められる

 このほか、昆布で出汁をとると軟水のほうがよく出汁が出るので、和風だしは軟水がおすすめとか、パスタは硬水で茹でればまず間違いなくアルデンテに仕上がるとか、料理によって軟水・硬水を使い分けると驚くほど仕上がりに差が出るという。

 「しかし、いちいち硬水と軟水を使い分けるのは面倒だし、そもそもどの料理にどの程度の硬度の水が必要なのかは分からない」(同)。そこで開発したのが「OiCy Water」。軟水と硬水のペットボトルをセットするだけで、自在に硬度をコントロールできるウォーターサーバーだ。

 中央の操作部のボタンで硬度を設定すると、自動的に軟水・硬水のボトルから適切な分量を抽出してくれる。「これではまだ不十分。硬度を見ただけではどの料理に合うのかは分からない。そこで、レシピの中に硬度を書く。レシピのマシンリーダブル化は実現しているので、スマホと連携することで自動的にレシピがOiCy Waterに転送され、レシピに記載されている硬度と必要な分量の水が自動的に注がれる仕組み」(同)。

 
参考出品した「OiCy Water」。中央の操作部のボタンで自由に硬度を設定できる
参考出品した「OiCy Water」。中央の操作部のボタンで自由に硬度を設定できる
クックパッドのレシピの中に水の硬度と使う量を掲載し、「OiCy Water」に情報を飛ばせば自動的にレシピどおりの水が抽出される仕組み。なお、このレシピは、自分の好みに合わせて修正できるのが面白いところ
クックパッドのレシピの中に水の硬度と使う量を掲載し、「OiCy Water」に情報を飛ばせば自動的にレシピどおりの水が抽出される仕組み。なお、このレシピは、自分の好みに合わせて修正できるのが面白いところ

 「クックパッドのミッションは料理の作り手を増やすこと。そこで大切にしているのが気づきの力。料理の作り手になるとさまざまなことに気づく。最初はレシピ通りに作るけれど、段々と、自分の好みの味に合わせるために味付けを変え、食材を変え、調理方法も工夫していく。自分だけでなく、食べてくれる相手のことも考えるようになる。相手の好みや健康のこと、さらには食材がどこでどのように作られて、どうやって運ばれてきたか。そして社会のこと、環境のこと、最後は地球の未来にまで思いを巡らすのではないかと、クックパッドは真剣に考えている」と金子氏は説明する。

 スマートキッチンは単に調理が自動化すること、人間の仕事がロボットに取って代わられることではなく、スマートキッチンだからこそ気づくことがあるとする。「水の硬度を自由に操れるようになると、世界各国の料理の美味しさを引き出すにはその土地の環境、すなわち、その土地の水に近い硬度で作るのが一番ではないかと気づく。この気付きのサイクルがうまく回ることでワクワク感が生まれてくる」。スマートキッチンによってこれまで作れなかった料理が作れるようになると、さらに視野が広がる。一緒に食べる相手のことから地球環境にまで思いが巡るようになる。スマートキッチンはそんな可能性を秘めているとする。

人間が気づく→やってみたくなる→機械にやらせる→作業が見える化する→気づく。スマートキッチンによってこのループが完成する、と金子氏は期待する
人間が気づく→やってみたくなる→機械にやらせる→作業が見える化する→気づく。スマートキッチンによってこのループが完成する、と金子氏は期待する

 クックパッドはサミット会場にてシャープのウォーターオーブン「ヘルシオ」との連携も参考展示していた。ヘルシオはもともとネット連携しており、シャープ独自のレシピサイトからメニューをダウンロードして調理の自動化ができるが、クックパッド掲載レシピのマシンリーダブル化を利用することにより、さらに多くのレシピがヘルシオで利用できることになる。

 
シャープのウオーターオーブン「ヘルシオ」とクックパッドが連携することで利用できるレシピ数は格段に増える
シャープのウオーターオーブン「ヘルシオ」とクックパッドが連携することで利用できるレシピ数は格段に増える

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