未来の台所を創造する「SKSJ 2019」から見えてくるもの--ソニーがキッチンに注目する理由 - (page 2)

近藤克己 (プラスワン・クリエイティブ)2019年08月22日 10時00分

ソニーがキッチンに注目する理由

 「ソニーがなぜクッキングなのかと不思議に思うかもしれないが、今日は、ベンチャーを問わず、一緒に組むパートナーを探しに来た。ソニーを使えばさまざまなことができる」と、西村氏は壇上で話しはじめた。実はソニーはかつて、キッチン家電の開発を手掛けたこともあった。1945年、井深大氏がライスクッカー、いわゆる炊飯器を開発したが実用化は失敗。その後、1980年代には電磁調理器の開発にも手を出している。近年では「Syneco Culture Project」としてアフリカで農業を通じて緑化を促進する協生農法プロジェクトに参画し、一定の成果をあげている。

「フードサイエンス分野で協業できるパートナーを探しに来た」と西村氏
「フードサイエンス分野で協業できるパートナーを探しに来た」と西村氏

 「今現在、ソニー内部ではフードサイエンス分野に関してさまざまなプロジェクトを動かしているが、残念ながらまだリサーチ段階で外に出せるものはない。しかし、嗅覚と味覚の関連性や視覚情報、聴覚情報、温度・湿度情報、身体のリアクション情報など、ソニーが得意とするセンシング技術や画像処理技術、データ解析技術を駆使してさまざな情報を解析し、そのデータをもとにオーディオビジュアル技術やVR技術、メカトロニクス技術により形あるものへと昇華できる」。例えばロボット犬のAIBO。AIBOには各種のセンサーが内蔵され、すべてのAIBOから情報がクラウドに上がって集合知となり、解析されて再度個々のAIBOへとフィードバックされる。この仕組みをスマートキッチンに応用できないかと研究中なのである。

AIBOは各種のセンサー情報がクラウド上でAI解析され、それをもとにアップデートしたデータが個体へとフィードバックされていく仕組
AIBOは各種のセンサー情報がクラウド上でAI解析され、それをもとにアップデートしたデータが個体へとフィードバックされていく仕組
ソニーが持つ各種センサー技術とメカトロニクスで、人の手がまったく介在しないキッチンの開発も可能になるかもしれない
ソニーが持つ各種センサー技術とメカトロニクスで、人の手がまったく介在しないキッチンの開発も可能になるかもしれない

 でもなぜキッチンなのか。「ソニーグループではこれまでさまざまなアーティスト、クリエイターを技術の力でサポートしてきた。ソニー・ピクチャーズはムービークリエイターを、ソニー・ミュージックはトップクラスのミュージシャンを、ソニー・インタラクティブエンタテインメントはゲームクリエイターを支えるテクノロジーを提供してきた。ミュージシャンがギターを弾く技術や作曲する技術を持つように、シェフも食材をカットする技術、調理する技術、味付け、盛り付け、さらにはメニューを作るといったクリエイティビティを持っている。それをソニーのAIエンジニアがサポートできるのではないかと考えている」。

 また、ソニーグループには、各分野のアーティスト、クリエイターをプロデュースするプロデューサーも多数抱えている。技術と人の力でシェフをサポートし、料理もエンターテイメントとして盛り上げ、人々を感動させたい。それがソニーの野望だという。まさに、総合エンターテイメント企業らしい発想といえよう。

世界中の人々にオニギリを

 講演会場に併設されたキッチンスタジオブースでは、パナソニック、シャープといったおなじみのキッチン家電メーカーも出展していた。パナソニックは、企業や組織の枠組みを超えて新規事業を創出する「ゲームチェンジャー・カタパルト」プロジェクトから、「Dish Canvas」と「ONI ROBOT」を参考出展。「Dish Canvas」は皿の中にディスプレーを内蔵し、料理によって皿の柄を変えられるもの。スマホと連動して動画やレシピの説明文なども表示できるが、将来的にはセンサーを搭載して食事が進んで重量が減るごとに絵柄が変化したり、熱い料理・冷たい料理で色・表示が変わるなど、新しい料理の楽しみ方を提案していく考え。「ONI ROBOT」はオニギリを握るロボット。手で握ったものと同様のふんわり感を再現できるだけでなく、有名店の握り方もプログラミングできる。キッチンカーなどの移動販売や海外の日本食レストランからも注目されているという。

 
スマホと連動して皿の図柄を変えられる「Dish Canvas」
スマホと連動して皿の図柄を変えられる「Dish Canvas」
「ONI ROBOT」は有名店の握り方を再現でき、職人がいなくてもオニギリをメニュー化できるためレストラン業界から注目が高い
「ONI ROBOT」は有名店の握り方を再現でき、職人がいなくてもオニギリをメニュー化できるためレストラン業界から注目が高い

 シャープは新しいアプリ「だんどりナビ」を参考出典していた。自社のキッチン家電と連携する従来のレシピサイト「COCORO KITCHIN」は、季節や手持ちの食材、食べる人の好みに合わせてレシピを提案するものだが、「だんどりナビ」は2、3品の料理を同時に作るときの段取りを提示するアプリ。ヘルシオやホットクックなど保有している家電を登録し、冷蔵庫にある食材を入力すると、主菜・副菜・汁物の3品のメニューを提案し、その3品が同時に出来上がるようにそれぞれの作業手順を示す。これにより、献立を選ぶ手間から解放されるとともに、流れるように作業できるので家事にゆとりが生まれる。

 
キャプション
キャプション
3つのレシピが1時間以内で完成できるようの調理の段取りが示される。事前に登録しておけばヘルシオとの連動も可能。ヘルシオがなければガスコンロで作る段取りになる
3つのレシピが1時間以内で完成できるようの調理の段取りが示される。事前に登録しておけばヘルシオとの連動も可能。ヘルシオがなければガスコンロで作る段取りになる

 未来を描いたアニメのように、人間が命じれば調理済みの料理が出てくる、という世界にはまだまだ遠いが、スマートキッチは確実に現実化している。単に機械に任せて人間が楽をするためのものではなく、「食」という生きる上で必要な行為をより楽しく、誰でも美味しく、そして文化としてさらに発展へと導くこともできる。スマートキッチンは多くの可能性を秘めており、IoTをはじめさまざまな業種を巻き込みながら成長しそうな分野である。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]