LINE代表の慎ジュンホ氏が表舞台に出ることにした理由--素顔に迫る独占インタビュー

 2011年にメッセージアプリとして誕生した「LINE」は、いまや日本を代表するコミュニケーションツールへと成長した。それも、単なるメッセージツールに留まらず、ニュース、ショッピング、ゲームや決済など、多種多様なサービス・機能を統合したプラットフォームへと進化している。

 このLINEの“生みの親”とも言えるのが、慎(シン)ジュンホ氏。これまでほとんど表舞台に姿を現すことがなかったため、2019年4月に同社の代表取締役CWO(Chief WOW Officer)に就任し、代表取締役社長CEOの出澤剛氏と並ぶ“2大代表”となるまで、彼の存在を知らなかった人も多いだろう。

LINE代表取締役CWOの慎ジュンホ氏
LINE代表取締役CWOの慎ジュンホ氏

 そんな慎氏が今回、CNET Japanの独占インタビューに応じた。長年にわたり姿を現さなかった同氏が、このタイミングで表に出ることにした理由は何なのか。また、LINEの将来をどう見据えているのかーー。知られざる素顔に迫った。

「サービス作りに集中したかった」

——慎さんはこれまでメディアに露出する機会はほとんどありませんでした。いきなりですが、その理由を教えてください。

 私はもともと人見知りというか……(笑)。インタビューは苦手で、韓国で働いていたときも一切受けてきませんでした。サービスを作ることに集中したかったからです。社内でサービスを考えたり、制作部隊と会議したりするのが好きなので、なるべく外には出ないようにしてきました。ただ、代表取締役になったこともあり、今回はインタビューにお応えすることにしたんです。

——2大代表の1人に就任したことをきっかけに、表に出ることにしたと。

 経営体制は変更しましたが、実質は今までとほとんど変わりません。日本に来てから11年が経ちましたが、当初からの役割もあまり変わっていないですね。

 今までは肩書きをつけなくても、現場のみんなが私の役割をなんとなく理解してくれていました。ですが、今ではここ3年ほどの間に入社した人が、社員のほぼ過半数を占めていたりする。社員が7000名もの規模になってしまい、自分の役割を肩書きとして明確にしておかないと、入社したばかりの人に「何でいきなり会議に入ってきてダメ出しするんだ」と思われてしまいます(笑)。

 もう少し役割を明確にした方がいいと取締役会のメンバーに3〜4年前から言われていて、そのたびに「嫌です嫌です」と断っていたんですが、それもいよいよ抑えきれず今年(2019年)から正式に今の体制になりました。ただ、社内的にはこれまで通り肩書きを意識することはないですね。

——LINEは、慎さんのほか、もう1人の代表である出澤剛氏と、取締役CSMOの舛田淳氏の3人による“トロイカ体制”で経営されているそうですが、役割分担はどのようにしているのでしょう。

 (経営陣の2人とは)LINEで毎日やりとりしてコミュニケーションを取っています。多い時は何十回もメッセージを送り返したり、冗談も言い合ったり、けっこう緊密にやっています。

 役割分担としては、私はLINEのサービス全般を見ています。出澤は典型的な社長タイプで社長歴も長いので、経営や事業の売上管理、人材獲得など、まさに社長らしいことをすべてしています。舛田は頭の回転が早く、事業戦略を立てる際にアグレッシブに動いています。今はマーケティングを担当していますので、ユーザーの目線に立って、サービス戦略やマーケティング戦略などを幅広くカバーしています。

「ユーザー目線」で徹底的に触ってみる

——慎さんは“LINEの生みの親”と言われていますが、これまでLINEではどのようなことをしてきたのでしょう。

 私はサービスの制作がメインで、どの事業領域に参入するか、どのサービスを作るか、どの部分に注力して差別化するかといった、サービスの方向性や内容の検討などのすべてのプロセスに関わっています。

 個人的には、その中でもチャレンジングだったのがゲームです。かつて、メッセンジャーだけでは事業として厳しいと考えていた時に、他社のメッセージアプリなどを見て、SNSとゲームの親和性が高いことに気付きました。ただ、僕はゲームがあまり好きじゃなくて……(笑)。それでも、まずはひたすら1カ月、毎日12時間くらい頑張ってカジュアルゲームをプレイしてみたんです。

 1カ月くらいゲームをプレイしていたら、なんとなく事業の方向性が見えてきて、(やり込みが必要な)RPGのようなゲームは難しいけれど、カジュアルゲームなら作れそうだなと。特にパズルゲームが我々にとって一番親和性が高いのではと思い、制作チームを集めて議論しながら作りましたね。

 最近はブロックチェーン技術を活用した「LINE Token Economy」関連のサービスや、「LINE Pay」に代表されるFinTech関連のサービスも手がけています。この分野もあまり自分は詳しくなかったのですが、新しい成長の柱としても有望ですから、サービスとしては拡大させないといけない。他社のいろいろなサービスを使ってみたりして、自分なりに研究して方向性を決められるようになりました。

——毎日12時間のゲームはすごいですね……。事業参入する前に、自らで徹底的に使ってみて判断しているんですね。

 もともと私は大学院でAIや検索技術を研究していましたので、こういう新しい分野を開拓するのが面白くて、そこにチャレンジすることも好きでした。インターネットサービスのいいところは、難しい理論ではなく、ユーザーの感覚が一番大事であることですよね。

 ユーザー目線で触ってみて「WOW(ワオ)」があるもの。驚きや感動があって、友達や家族に教えたくなるものがあるかどうかが重要です。そういう観点でビジネスとして大切なのは、サービスに競争力があるかどうか、ユーザーのどのような課題を解決できるかだと思っています。

——LINEでは日々新たなサービスが生まれていますが、ご自身ですべてのプロジェクトに関わるのは難しいのではないでしょうか。

 定期的に取締役会のメンバー全員が集まり、そこで全体のプロジェクトの進捗報告を受けるのですが、その時のフィードバックで問題がありそうなプロジェクトだけピックアップして、サービスPMOという形で自分が見るようにしています。問題がありそうなところ、自分が管理すべきところは徹底的にやっていますね。サービスの競争力を保てるかどうかに主眼を置いてチェックしています。

判断基準は「WOW」があるかどうか

——新たなサービスを作る際に、共通の「LINEらしさ」のようなものを意識していますか。

 先ほどもお話しましたが、それは「WOW(ワオ)」ですね。どの分野のサービスをやるか、やらないかを判断する際には、「我々がWOWを提供できるかどうか」で判断しています。そうしないと中途半端になってしまいます。そのWOWを通じて狙っているLINEらしさというのはイノベーションです。LINEは常に最先端を走ることを考えています。

——ただ、ここまでサービスが多いと、ユーザーによっては使わないものもあると思います。より多くのサービスを使ってもらうための最適化なども考えているのでしょうか。

 いまはAIを活用して、アプリ画面上部でユーザーに合わせて表示する内容をパーソナライズしています。これにより、実際にCTR(クリック率)が上がっています。やはり、自分が興味・関心を持っているものに特化して表示される方がいいですよね。このように、ユーザーごとに最も適切なサービスを適切な場面でいかに提供するかというのは、AIが貢献しやすい領域だと思います。

 個々人が好みのサービスを組み合わせて、自分のライフスタイルにあったアプリにできる世界がLINEで実現できれば、今の複雑さは乗り越えられると思います。UXについては日々テストしていて、今は複数パターンのUXをユーザーごとにテストする体制も整っていますので、実際の反応を見ながらこれからの方向性を決めていくことになると思います。

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