企業はいつブロックチェーンを活用すべき?

企業はいつブロックチェーンを活用すべきか--できることの“現在地”を探る(前編) - (page 3)

呂相吾(Sun Asterisk)2019年08月06日 08時00分

 しかし、今回のテストで明らかになったのは、数百人規模のユーザーが同時にリクエストを送ると、ブロックチェーン側の処理が詰まってしまったことです。やはり、現在の処理能力やスケーラビリティを考えると、技術的にフル分散型だけでの処理は難しく、一部では中央サーバーを使った処理も活用するしかないかも、という話を開発チームと交わしています。

 このゲームにおいて、先日トークンの配布実験を実施しました。トークンとは、ブロックチェーン上で発行され、サービス、キャラクターなどあらゆるデジタルの資産と交換できるものです。ポイントカードや株、クーポンのイメージに近いかもしれません。仮想通貨もその一種とも言えます。

 実験はラジオを使ったもので、Cipher Cascadのキャラクターやアイテム情報を、ラジオ番組内で“透かし音”として放送。人の耳には聞こえないのですが、スマホ側のアプリがその音を検出すると、リスナーは放送中にキャラクターやアイテムのトークンを受け取れるのです。

 具体的には、放送前にアプリ内で卵型のアイテムを配り、ラジオを聞けば卵から特殊キャラに変わると告知。実際にラジオから音情報を受け取ると、卵型のアイテムがお笑い芸人のクロちゃん(ラジオ番組に出演)を模したキャラに変わったのでした。

 これは、「ラジオを聞いた」という行動と時間を、ブロックチェーン上のトークンとして置き換えたと言えます。

 このようにトークンに置き換えることによって、これまでラジオは単純に聞いて楽しむ、情報を集めるものでしたが、リアルタイムで聞くという行動に新しい価値を生み出せたといえるのではないでしょうか。これまで当たり前とされているものでも、その目的や行動、結果とトークンを組み合わせることで、全く新しい価値を生み出すということができるようになるのです。

ブロックチェーンの普及役は、開発側からサービス側へ

 実験の大きな成果だと思っているのは、ブロックチェーンの仕組みをよく知らないユーザーも、イベントの新規性やキャラクターが欲しいという思いから、この実験に参加してくれたということです。

 どんなに高い技術も、ユーザーがメリットを感じなければ普及しません。逆に言えば、ユーザーは裏側で使われている技術よりも、受け取るメリットに惹かれて行動します。たとえば「ポケモンGO」は、AR技術を取り入れていますが、その技術面に着目してゲームをプレイする人はわずかでしょう。多くは、シンプルにゲームの面白さに惹かれて、知らずにARと接しているはずです。

 ブロックチェーンも、今まさにその段階に来ています。これまでは、どちらかというと開発側がブロックチェーンの可能性や独自性を語ってきました。しかし、記事前半で触れたように、それはまだユーザーの実感するメリットになっていません。

 これからは、ブロックチェーンを活用したサービスで、いかにユーザーメリットを提供できるかがポイントとなり、その方法をサービス提供側が考えるフェーズに来ています。

 それが実現したとき、ブロックチェーンという技術や仕組みをよく知らない人にも、一気に普及していくでしょう。ちょうどその転換期が現在地点であり、トークン配布実験はそれを示唆するものになったと言えます。

 では、具体的にブロックチェーンがどんなユーザーメリットを生めるのでしょうか。それをふまえて、企業は今からブロックチェーンに“張る”べきかを考えなければなりません。これについては、次回説明します。

◇ライタープロフィール
呂相吾
韓国の高麗大学卒業後、 アプリ、モバイルゲーム、広告代理店にてプロダクト開発から海外での事業開発を経験。その後、アクセンチュアにて大手企業のデジタルトランスフォーメーションにおける戦略立案からデリバリーまでを担当。 Sun Asteriskでは、ブロックチェーン事業部の立ち上げを行う。東南アジア最大のブロックチェーンハッカソン・ミートアップのState of Chainを主催し、Dappsゲーム「CipherCascade」を開発中。

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