企業はいつブロックチェーンを活用すべき?

企業はいつブロックチェーンを活用すべきか--できることの“現在地”を探る(前編) - (page 2)

呂相吾(Sun Asterisk)2019年08月06日 08時00分

 重要なのは、売買記録が明らかになるため、売却ごとに支払額の一部が製作者に還元され、新たな収益となって次の作品を生む“原資”になると期待されています。

 これらのカギになるのが、ブロックチェーンの特徴である「分散型」のシステムです。既存のシステムのように、特定の管理者や主体者という「中央」が存在せず、「ノード」と呼ばれる複数の参加者・コンピュータが同じデータを管理・閲覧します。もし、不正な書き換えが発生しても他のノードと比較することで検知できるため、公平性が担保される仕組みとなっています。

 しかし、完全な分散型(フル分散型)の運用は、「技術的」にも「消費者の思想的」にも、まだ構築・運用は難しいのが現状です。そこで、既存の中央集権的な管理システムと分散型を共存させる「ハイブリッド型」のブロックチェーンが普及し始めています。

現時点では、消費者にとって「フル分散型」はハードルが高い

 まず、なぜフル分散型のハードルが高いかを説明します。「技術的」な面では、処理速度の問題があります。数多くのノードが立ち、公平性が担保されたブロックチェーンでは、分散型ゆえに、1つの処理に対して参加者全員が承認するまで実行されないという問題があります。結果、ウェブサービスなら、クリックから実行するまでに数秒かかるケースが出てきます。現代の早いUXに慣れたユーザーにとっては、その“承認時間”を待つ間に離脱してしまうでしょう。

 ビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーンは、ブロックを作成できる世界中のノードによって構成される、文字通り公平性が担保されたメジャーな基盤です。ビットコインの場合、世界中で約1万ノードが参加しています。ただ、ノードが多いほどブロックの承認時間やトランザクションの処理時間の問題がボトルネックとなってしまい、逆に、これらより何倍も処理時間が早いチェーンは、実態を見るとノードの数が極端に少ない(=参加者が少ないため公平性が担保されにくい)など、本来の分散型から遠いケースも多いのです。

 処理容量の問題もあります。ブロックチェーンは、自動で取引を処理するスマートコントラクトという技術が用いられます。ただ、1つのスマートコントラクトでまかなえる情報量は少なく、イーサリアムの場合は30KB〜40KB。ファミコンのスーパーマリオをビジュアル化したくらいの容量です。また、情報を格納するブロックサイズも小さい(800万gas)ため、すべて分散型で賄うとすると、ある程度の容量を持ったデータになると処理できない、または非常に時間がかかるという問題が生まれます。

 もうひとつ重要なのは、「消費者のニーズ」です。消費者はまだ、完全な分散型システムを求めているとは言えないのではないでしょうか。たとえば、「フル分散型により信頼性が担保される」と言われてもピンと来ないばかりか、むしろ「名前を知っている大企業が運営している」という方が安心だと考える人が多いでしょう。だとすると、企業が積極的にブロックチェーンに投資するメリットも薄れます。

 その中で、それまでの中央集権を使いつつ、メリットが発揮される部分には分散型を取り入れる「ハイブリッド型」が一時的に主流になるのではないでしょうか。

「改ざん防止」「公平性担保」ブロックチェーンのメリットを活用する「ハイブリッド型」

 具体的に、ハイブリッド型の例を挙げてみます。ゲームにおいて、改ざんを確実に防がなければならないものがあります。たとえば、キャラクター同士が戦うゲームの場合、どのような攻撃をすれば相手にどれだけのダメージを与えられるかなど、肝となるバトルのロジックやゲームキャラクターなどのアセットです。こういった公平性が必要なものをブロックチェーンで管理するのです。

 または、オンラインゲームでは定期的にゲームバランスがアップデートされ、キャラクターやアイテムの強さを調整する場合なども有効です。もし、あるキャラクターの能力が突出して高くなっている場合、パラメーターを調整して能力を少し下げるといったアップデートを実行すると、ユーザーから反発が起きることも少なくありません。好きなキャラクターが突然弱くなったり、ゲームの仕様が“改悪”されたりするからです。であれば、そのアップデートの信頼性を担保するために、ブロックチェーンでバトルロジックやキャラクターを管理した方が良いケースもあります。

 ブロックチェーンでゲームロジックを管理する場合のプロセスを簡素化して表現すると、ブロックチェーンを共同で管理するメンバーの合意がなければ、新しいロジックを書き換えることができない仕様になっています。例えば、運営会社とコアユーザーが合同でチェーンを管理していると仮定した場合、運営会社の一方的な意思決定でロジックを更新することができないことになります。もちろん、すべてのユーザーがそのパラメーターの内容を確認することもできます。

 このように、確実に改ざんを防ぐべきもの、あるいは信頼を担保するものだけ部分的にブロックチェーンを使い、それ以外のシステムは中央集権でスムーズさを優先する。このような使い方が広がっています。

ラジオの音情報を使いトークンを配布

 Sun Asteriskでも、ブロックチェーン技術を活用したゲームを開発しています。「Cipher Cascade」というもので、プレイヤー同士のミニゲーム対戦や、次期アップデートでは独自コインで取引できる予定です。また、弊社ではイーサリアムをメインチェーン、loom networkというフレームワークを使った独自のサイドチェーンを構築し、より高速でガス代(手数料)がかからないシステムを構築しました。

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