高校生視点で地元を元気に--掛川西高パソコン部の22人が作り上げた「掛川観光ナビ」

 静岡県立掛川西高等学校のパソコン部が6月に、地域の魅力を伝えるウェブサイト「掛川観光ナビ」を開設した。掛川市が公開するオープンデータの写真素材を活用し、高校生ならではの感覚を生かした掛川市の紹介記事をはじめ、掛川駅周辺の観光施設や史跡、飲食店などの位置情報と経路案内を表示するナビ機能、市内各所で行われるイベント情報といったコンテンツで構成されている。

高校生たちが制作したウェブサイト「掛川観光ナビ」
高校生たちが制作したウェブサイト「掛川観光ナビ」

 6月をもって3年生は部活動を引退するが、今後は1〜2年生に制作を引継ぎ、紹介店舗や施設を増やす。また、多言語化対応も考えており、インバウンド旅行者向けの情報発信にも力を入れる予定だ。

 同部の小杉勇翔部長は「パソコン検定をとるだけの3年間だと思っていたが、掛川城のプロジェクションマッピングを作ったり、掛川の魅力を発信するサイトを制作できたりと最高の経験になった」と語った。

静岡県立掛川西高等学校のパソコン部が6月19日、完成発表会を実施した
静岡県立掛川西高等学校のパソコン部が6月19日、完成発表会を実施した

 「ネットには街の情報がなく、地元の僕たちでも知らないお店が多い」ーー。制作を担った22人のパソコン部員の原動力は、そんな地元のために何かできないかという思いだった。

 キラメックスが運営するオンラインのプログラミングスクール「TechAcademy(テックアカデミー)」の協力を得て、一からプログラミングやウェブサイト制作を学び、チャットツールの「Slack」やウェブ会議システム「Zoom」などを活用して、同社の現役エンジニアのメンターに相談をしながら、サイト設計、コンテンツ考案、実装までを3カ月で完了させた。

 その実現までには、高校生の熱意に賛同した行政や企業の協力、そしてハブとなった教師や現役エンジニアメンターの存在があった。

フィールドワークで見えた「高校生の強み」

 掛川市は、生徒たちにとっては小さな頃から過ごし、普段通学している身近な場所ではあるものの、情報発信にあたって俯瞰的な理解が欠けていた。そこで掛川市役所のシティプロモーション課と観光交流課、第三セクターのかけがわ街づくり会社など、普段から地元の活性化に力を入れている大人にヒアリングしながら、課題を探ったという。

 すると、行政や第三セクターでは公共ならではの公平性が足かせとなり、なかなか情報サイト制作の実現には至らないことが分かった。そこで部員たちは、しがらみのない自分たち高校生ならば、自由な視点をもって、感じたことや役立つと思える情報の発信者になれると、制作の意義を見出したという。

フィールドワークで見えた高校生の強み
フィールドワークで見えた高校生の強み

 「掛川は地元愛が強い人が多い分、外の人には排他的な印象を与えてしまいがちなところがある。そういったマイナスイメージを払拭して、地域の魅力を世界規模で発信していきたい。また、単年度のプロジェクトで終わりにならないよう、引き継いで更新できる情報発信ツールとしてウェブサイトを制作することにした」(掛川西高等学校パソコン部の小杉部長)

遠隔地のメンターからプログラミングを学ぶ

 信念をもって始めたウェブサイトの制作だったが、部員たちにとっては初めての経験だった。そこで協力を申し出たのが、プログラミングやアプリ開発を学べるオンラインスクールのTechAcademyだった。

 
 

 「最初に先生にお会いしてお話を聞いた時、すぐに面白いと感じた。プログラミングは、スキルを学習することが目的ではなく、目的を実現するためのツール。そのため、学生の地元愛や課題意識が強いほど興味深い取り組みになると思った。実際にプログラミングを学習して課題解決のアクションを起こすところまで取り組めたのが良かった」と、キラメックス代表取締役社長の樋口隆広氏は話す。

 プログラミング学習開始から3日間は、掛川西高校でのオンサイトトレーニングを実施した。樋口氏が掛川の魅力発見、課題発見解決の模索に関するワークショップを開いたほか、現役エンジニアがWordpressを用いたウェブサイト制作を解説。部員たちはテーマやプラグインを活用することで、簡単にクオリティの高いサイトを制作できることを学んだ。

 
 

 制作に入った後は、通常のTechAcademy学習者と同じようにメンターとなるエンジニアを配置し、毎週のオンラインミーティングに加え、チャットで相談を受けられる体制を提供した。部員たちは学校や自宅でSlackを活用しながら、制作の過程で起こる問題や疑問点を共有し、相談を仰ぎながらサイト公開までこぎつけた。

1000人を動員した掛川城のプロジェクションマッピング

 学校という枠を超えた行政や企業の協力が得られた背景には、ハブとなった教師の存在がある。掛川西高校ICT推進委員長であり、パソコン部副顧問の吉川牧人氏だ。今でこそ、地域活性化を目標に掲げているパソコン部だが、数年前までは具体的な目標もなく、強いて言えばパソコン検定の受験に向けた勉強だけが主な活動だったという。そこで、吉川氏が着任後に考えたのが、テクノロジーの先にある目的を持たせることだった。

 初めての取組みは、2017年に校内の有志生徒をはじめ、行政に働きかけて実現した地元のシンボルである掛川城を利用したプロジェクションマッピングだ。天守閣や城壁だけでなく、本丸広場までプロジェクターから投影した映像で掛川城を彩った。12月の開催時には1000人以上が来場。高校生による地域貢献活動として話題となり、毎年恒例のイベントとなった。

パソコン部副顧問の吉川牧人氏
パソコン部副顧問の吉川牧人氏

 今回の掛川観光ナビのサイト制作は、このテクノロジーの活用で地域と関わるという成功体験をもった生徒の発案だったという。吉川氏はその思いに応えるべく、行政や企業と連絡を取り、夢の実現に尽力した。

 「高校生は家と学校の往復になりがちで、(日常的に会話する)大人は教員や家族ぐらい。そんな中で彼らが、街に出てさまざまな人に『観光サイトをつくりたい』ということを伝え、協力してもらうまでに行った試行錯誤や、達成できた経験は彼らの力になると思う」と吉川氏は語る。部員からも「普通の高校生では関わることのない人たちに会うことができていい体験になった」という声が多く寄せられた。

 地域や企業、そして教師、生徒が一丸となってつくりあげた掛川観光ナビ。今後はパソコン部の後輩が引き継ぎ、サイトを充実させていくという。部活の伝統としてどのように引き継がれながら、地域の活性化につながっていくか、先々の展開に地元からも期待が寄せられる。

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