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批判を恐れず「歌舞伎」で挑戦し続ける--松竹・迫本社長が語る“現代の古典芸能”

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2019年08月01日 08時00分
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 今から400年近く前の1603年頃から始まったとされる、日本の古典芸能の1つである歌舞伎。現在も東京銀座の「歌舞伎座」や新橋の「新橋演舞場」、京都の「南座」、大阪の「大阪松竹座」といった劇場において、当時の雰囲気を色濃く残したさまざまな演目が上演されている。

 一方で歌舞伎に対して「旧(ふる)い」「とっつきにくい」というイメージをもつ人も少なくないだろう。ところが、長きに渡って歌舞伎の興行を続けてきた松竹は近年、そのイメージを大きく変える斬新な戦略を展開し続けている。

松竹の代表取締役社長である迫本淳一氏
松竹の代表取締役社長である迫本淳一氏

 2015年に人気漫画「ONE PIECE」を題材にした歌舞伎を上演したことを皮切りに、「ニコニコ超会議2016」では初音ミクとコラボした「超歌舞伎」を実現。2018年にはサンリオとコラボした「KAWAII KABUKI~ハローキティ一座の桃太郎~」が話題になり、直近の2019年5月にはプロジェクションマッピングなどのテクノロジーを多用した「京都ミライマツリ」を開催した。さらに、6月からは漫画「NARUTO」の歌舞伎も上演しており、8月2日からは中村獅童と初音ミクが登場する「八月南座超歌舞伎」が開演する。

 最近では、松竹のリソースを活用した新たなエンターテインメントの創出を目指すアクセラレータープログラム「松竹アクセラレーター2019」の取り組みも始めるなど、従来の古典芸能の印象とはかけ離れた施策を矢継ぎ早に打ち出している。同社が考えるエンターテインメントの形とはどのようなものなのか。また、歌舞伎という日本古来の大衆娯楽を今後どう進化させていくのかーー。松竹代表取締役社長の迫本淳一氏に思いを聞いた。

興行収入で成り立っている古典芸能は「歌舞伎だけ」

——松竹という老舗企業の視点から、日本のエンターテインメントの現状をどのように見ていますか。

 エンターテインメントはめちゃくちゃ多様化したと思いますね。松竹は歌舞伎で始まって、その後は映画も始めましたけど、当時は本当にエンターテインメントが歌舞伎しかなかった、映画しかなかった、という時代でした。それに比べると、今は本当にエンターテインメントが多様化してきて、しかもジャンルの境界線がなくなってきています。

 映画と演劇が一緒になったり、あるいはコンテンツや食、スポーツが一緒になったりと、境界線が流動的になってきて、楽しみ方も多様になってきています。テクノロジーの進化がエンターテインメント業界に与えた影響もすごくあると思いますね。

——たとえば、どのような影響でしょうか。

 まずはインターネットで革命が起こりましたし、これからはAIでさらに革命が起こっていくんじゃないかと考えています。お客様に感動していただくというエンターテインメントのエッセンスは変わらないと思うんですけども、感動していただくための手段は非常に多様になってきています。

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 こうした革命によって生産者と消費者が直結し、間に介在するものは排除されるでしょう。そこで、我々としては製作力を強化する。強いチームを作り、ネットでは代替がきかない、松竹でしかできないような強いコンテンツを作っていく。そして、多くの方と協力して展開していく、というのが我々の基本方針です。

——一昔前の家庭のエンターテインメントの中心はテレビでしたが、個々人の趣味が多様化してきた現代ではコンテンツの届け方も難しくなってきています。その中で、歌舞伎をはじめとする古典芸能はどのような価値を提供していると考えますか。

 一般論としての古典芸能と、松竹の古典芸能の2つがあると思っています。一般論としては、やっぱり文化的価値ですよね。日本の素晴らしい文化をどう維持していくかという話です。けれども、松竹の古典芸能である歌舞伎に関しては、そういう側面だけじゃないんです。

 歌舞伎はお客様の興行収入だけで成り立っている。400年近く前からある古典的な芸能で、お客様からいただく興行収入で成り立っているものって、世界中で見ても歌舞伎しかないと思うんですよね。そういう意味で、非常に特殊な、松竹にしかない、一朝一夕にはできないものを扱えているという幸せ感はありますよね。

アニメを題材にする動きは「10年前からあった」

——歌舞伎を観に来ている人は、年輩の方や外国人旅行者が多いという印象があります。実際の客層はいかがでしょうか。

 今までは年配の女性客が中心だったというのが実態ではあります。それを少しでも、今まで歌舞伎を観たことのない人や子どもたちにも来てもらえるようにしたいというのが我々の願いです。文化的な価値があるものとして保存していくだけなら別なんですけども、興行として成り立たせたいので、そういう不断の努力はしたい。

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 ユネスコ世界無形文化遺産に選んでいただいたのは大変光栄なことではあるんですけども、「文化遺産じゃなくて今日のエンターテインメントなんだ!」と話している俳優さんもいる。やはり常に今のお客様に喜んでいただくことを考えなきゃいけないなと。

——歌舞伎座は2010年に閉場した後、リニューアルして2013年に新開場しました。そこにも「今のお客様に喜んでいただく」という目的があったのでしょうか。

 歌舞伎座を新開場するときは、建物にもいろいろな工夫を凝らしました。地下鉄の東京メトロさんに協力いただいて、地下から直接建物内に入れるようにして、木挽町広場という売店エリアを設けたり、観覧窓から劇場の中が見られるようにしたり。

 実際に生の歌舞伎を観ることがなくても、そういうところでちょっとでも触れていただきたい。特にお子さんですよね。歌舞伎のコアなお客様って、小さい子どもの頃に何かしら歌舞伎に触れているっていうデータがあるんです。歌舞伎の雰囲気に触れていただくだけでも、将来のお客様になっていただける可能性が高くなるわけです。

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——子どもに馴染みのあるキャラクターとのコラボも積極的に展開していますね。

 本当に幅広く、いろいろなお客様がいろいろな形で歌舞伎に触れられるようにすることが非常に重要だと思っています。たとえば2018年にサンリオさんと組んで、サンリオピューロランドで「KAWAII KABUKI~ハローキティ一座の桃太郎~」というミュージカルを上演していますし、漫画の「ONE PIECE」や「NARUTO」も歌舞伎にしました。

——これまでにない斬新なコラボレーションに対して、批判的な従業員や歌舞伎ファンもいたのではないでしょうか。

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