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批判を恐れず「歌舞伎」で挑戦し続ける--松竹・迫本社長が語る“現代の古典芸能” - (page 2)

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2019年08月01日 08時00分
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 新しいことをやると常に批判があるわけです。批判がないなら何もやっていないのと同じなので、それはもうあって当然だと。お客様のなかには古典の趣のない歌舞伎をやるんじゃない、という思いがある方もいらっしゃるでしょうし、社員の中でも内心どうかなと思ってる人もいるんじゃないかなと思います。でも(これまでの取り組みは)成功したので、社内は前向きにやっていこうという雰囲気になってきています。

 ちなみにアニメを題材にしようという動きは、実は10年くらい前からあったんですが、結局は実現できませんでした。「ONE PIECE」も「NARUTO」も、一朝一夕にできたんじゃなくて、何回もチャレンジを繰り返す中で、ようやく実現したプロジェクトなんです。アイディアを実行することができる人材が育ってきたことと、それを許容する組織に変遷してきたことの2つがプロジェクトを実現できた理由であると思っています。

 2015年に「スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース」を最初に上演した時はかなりの批判をいただくかなと思ったのですが、コアなファンの方にも喜んでいただけました。孫に連れられておばあちゃんが一緒に来るとか、我々が「こういう方に、こういう風に見ていただきたいな」という理想の形が実現できました。客層は確実に広がっていますね。

——普段は歌舞伎を観ないけれど「ONE PIECE」の歌舞伎は本当に面白かったという声をSNSなどでよく見かけました。自分も観たいと思ったらチケットがとっくに売り切れていましたが(笑)。

 それは失礼しました(笑)。ですがこの8月からは、京都の南座で初音ミクとコラボした歌舞伎が始まります。これは3年前、ニコニコ超会議2016の超歌舞伎で、バーチャルシンガーの初音ミクとリアルの中村獅童君が共演して、「今昔饗宴千本桜」を実演したことが発端でした。

 それからニコニコ超会議では毎年上演しましたが、他の場でもやりたいということになり、8月2日からは南座で上演します(「八月南座超歌舞伎」)。当時SNSの書き込みを見たときは、「歌舞伎を観に行きたくなった」とか「獅童すげえ」とか、「初音ミク、踊りがうまくなったな」とか(笑)、本当に今までにない楽しみ方をしていただいたようです。

「八月南座超歌舞伎」
「八月南座超歌舞伎」

新しいことに真っ先に挑戦する歌舞伎の「次なる挑戦」

——そういった歌舞伎と現代のテクノロジー・サブカルチャーとの融合については、どのような考えで進めているのでしょう。

 さきほどもお話したように、ネットで代替できない、他社では作れないコンテンツを我々は作っていく。そういう意味でも古典の歌舞伎は、薄めずにきちんと古典のエキスとしてやり続けたい。しかし、新しい展開が必要なところでは色々な挑戦をします。

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 実は歌舞伎自体も昔からすごく新しい挑戦をしてきたんです。廻り舞台(舞台中央の床を回転させることによる場面転換)も世界で初めてやったのが歌舞伎ですし、宙乗り(ワイヤーで空中移動する演出)だって当時は他になかったと思います(※歌舞伎の宙乗りはワイヤーアクションの元祖とも言われている)。新しいことには真っ先に挑戦しているんですね。

 歌舞伎自体が“かぶく”んだと、新しいことをやるんだと、そういう精神をもっている。ただ、そのときに一番重要なのは人材です。歌舞伎の中身を作る人はいても、それを新しい形で展開していく人材は急には育ちません。ですから、外部の人たちとどう手を組んでいくか、外部の人ときちんと仕事ができる人材をいかに松竹の中で作っていくかが非常に重要だと思います。

——外部の人たちと共同で物事を進める体制に変えようと考えたきっかけはありますか。

 テクノロジーを活用した歌舞伎という意味では、ニコニコ超会議と同じ2015年のことですが、当時の七代目市川染五郎、今の十代目松本幸四郎君らがアメリカ・ラスベガスで上演した「KABUKI Spectacle at FOUNTAINS OF BELLAGIO ''Fight with a Carp"」があります。ベラージオの噴水のなかに舞台を作って、噴水にプロジェクションマッピングをして歌舞伎をやったんですよね。無料ではありますが、5日間に10万人が来場した。翌年には、同じくラスベガスのMGM Grandデビッド・カッパーフィールド劇場で「Panasonic Presents Wonder KABUKI「KABUKI LION-獅子王 SHI-SHI-O-」を上演しました。

 この2年間の取り組みを通じて、ご縁を得たのがNTTさん、パナソニックさんと、デジタルアートで有名なチームラボさんとネイキッドさんでした。そういう今までお付き合いのないようなテクノロジー業界の方たちと付き合えたことが松竹にとっては大きな財産であり、さらにそれを見たドワンゴさんから何かできないかと相談されて、初音ミクにつながったわけです。

 これまで新しいことに挑戦し続けてきた歌舞伎ですが、最先端のテクノロジーによって今までの挑戦をさらに大きく超えるような挑戦の場が与えられたんじゃないかなと思っています。

——2019年5月に南座で開催された「京都ミライマツリ」も、プロジェクションマッピングやデジタル屋台、ARなどのテクノロジーを活用した、まさしく“未来の祭”になりました。

 松竹としては、人材の育成と興行の継続が重要だと話しましたが、そういう意味でも嬉しかったのが、この京都ミライマツリの企画がすべて松竹の現場から出てきたことです。人材の成長というのは、自ら志をもって、意欲をもってやることから始まりますから。しかも、テクノロジーと融合させながら、みんなが楽しめるものを作っていきたいという今までにない内容でした。

 南座は、興行を続けている劇場としては日本最古なんですね。日本最古の劇場で、最先端のテクノロジーと組んで、おじいちゃんもおばあちゃんも、お子さんやお孫さんにも楽しんでいただく。そういうコンセプトで作り上げました。その結果、生まれたばかりの赤ちゃんを抱えたお母さんや、お揃いのアロハシャツを来たカップル、コスプレをしている人など、今まででは考えられないような客層に来ていただくことができ、とにかく嬉しかったですね。

 これをもっと発展させていくためにも、世界中から色々なエンターテイナーや知恵をもった人に集まってほしいと思っています。ネットやテクノロジーの進化で、誰でもすぐにモノを作ることができる時代になりました。今はまだ多くの人に知られていなくても、ネットの中には大きな才能をもつ人がいるはずです。そういった人たちはスピード感もありますので、一緒に面白いものを作っていきたいですね。

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