プレ商用サービスを9月に控える次世代通信規格「5G」が盛り上がりを見せる一方、総務省が打ち出した、いわゆる“2年縛り”の違約金を1000円にする制度案や、米国によるファーウェイの制裁など、政治の影響を強く受けて混迷を深めている携帯電話業界。そうした状況下で、NTTドコモはどのように舵を取っていくのか。同社代表取締役社長の吉澤和弘氏に話を聞いた。
——6月1日より、新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」の提供を開始しました。手応えはいかがでしょうか。
7月6日時点で300万契約を超えるなど好調に伸びています。5年前に新料金プラン(「カケホーダイ&パケあえる」)を導入した時は1カ月で500万契約でしたので、それと比べれば少ないですが、「月々サポート」が終了している人が加入するケースが多いことから、そうした意味では想定通りと言えるでしょう。両プランの比率としては、ギガホが3割に届かないくらいという状況です。
また今回の料金プランでは、家族契約での割引にも力を入れているので、2〜3回線を契約している人が85%と、こちらも想定通りの傾向です。もともと年度末までに1700万契約を計画しているので、想定通りのペースで推移していますね。
——新料金プランは発表当初、「分かりにくい」という声が多かったようですが、その後は理解が進んだのでしょうか。
ウェブサイトでのシミュレーションを、簡単なものだけでなくより詳細なものまで用意することで、分かってもらえたというのが数字にも表れてきています。ドコモショップでの料金相談フェアもやっていますし、テレビCMも展開していて認知も高まっていることから、分かりにくいという声は少なくなってきているようです。
——KDDIも同時期に新料金プランを投入し、データ通信の中間層を狙った「auフラットプラン7プラス」や通信量の上限がない「auデータMAXプラン」などを打ち出しています。
(auフラットプラン7プラスは)様子を見ているところですが、大きな影響はないと考えています。ギガホとの料金差が小さいですし、ギガホは30GBの通信量が利用でき、使い切っても1Mbpsで通信できることから、1000円くらいの差があってもそちらを使ってもらえるのではないかと考えています。
無制限のプラン(auデータMAXプラン)は、無制限といっても条件がかなり多いので、本当に無制限なのかという疑問がありますね。とはいえ5Gではデータ通信量がかなり増えるので、既存のプランをあまり値上げせずに、通信量を増やすことを考えていきたいです。かといって2、3倍に増やすわけにはいかないので、5Gのプレ商用サービスを展開しながら状況を見極めていきたいですね。
——9月20日に5Gのプレ商用サービスを開始することを明らかにしていますが、具体的な内容は決まっているのでしょうか
プレ商用サービスの前にも、9月12日から実施される「東京ゲームショウ」のスポンサーとなり、こちらでも5Gの体験をできるようにする予定です。またプレ商用サービスでは、ラグビーW杯の12会場のうち8会場をエリア化し、来場者にスマートフォンを貸し出してマルチアングルで映像を見たり、ルールや選手などを見られるようにするほか、遠隔地の施設で、パブリックビューイングによる同時中継をすることも決めています。
さらに9月以降も、スタジアムソリューションに関してはサッカーなどでやっていきたいと考えていますし、法人向けに関しては9月からというわけではありませんが、生産現場の生産支援のためにARを活用したソリューションの提供を考えています。他にもいくつかの自治体と、教育や観光などで5Gを使った取り組みをしていく予定です。
——プレ商用サービスは、5Gの商用サービスが始まる2020年春まで続くということでしょうか。
商用サービス開始までやりますし、案件も増やしていきます。基地局設備などは商用サービスと同じものを使いますし、ユースケースもほとんど商用のものと変わらない。プレ商用サービスと商用サービスの違いは、端末がプレ商用のものであるということと、お金をいただくか否かということくらいです。
——では、商用サービス開始時点で、どのようなサービスを提供しようと考えているのでしょうか。
サービス開始直後から、5Gトライアルサイトで提示していたものが全部できるわけではありません。いくつかのパートナー企業と議論をしているところですが、エリアとの関係もありますので順番に立ち上がっていくことになると思います。
コンシューマー向けのサービスに関しては、LTEでできるものは全て5Gでできますし、映像のダウンロードなどは当然早くなるでしょう。ただ、5Gを使える場所は当初限られるので、LTEも使いながら5Gも使うという前提で料金を考えていく必要があると思います。
——2020年の東京五輪では、5Gをどのように活用していこうと考えていますか。
東京五輪の時点ではまだ多くの人が5Gの端末を持っているわけではありません。我々も5G対応端末を提供しますが、難しいのは五輪ならではの制約があること。会場内の端末はサムスン電子が提供するので、同社とタイアップしながらやっていくことになると思いますが、映像に関しては権利の問題もあり、そのまま使うことはできません。5Gで映像配信をするしても、権利を取るか取らないかという問題が出てくるかと思います。
我々がすぐできるものとしては、通信関連の動線ですね。スタジアムの動線をエリア化しておけば、利用者がどう移動したらよいかを分かりやすく伝えることができる。もう1つは監視で、スタジアムの人の動きなどを一通り確認し、変わったことが起きたら警備が出動できるよう連携するなどといった取り組みは、常に考えています。
——総務省が6月18日に「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」を公表し、いわゆる“2年縛り”の違約金上限を1000円にしたり、通信契約に紐付かない端末代の値引き上限を2万円にしたりするなど、厳しい措置を打ち出したことが話題になりました。
この制度案がそのまま通った場合、端末代の値引きは「スマホおかえしプログラム」に影響します。このプログラムは36カ月の割賦で購入し、24カ月経過後に端末を返却すると残債が免除される仕組みですが、端末の下取り額の差額が2万円以内であれば問題ありません。
しかしながら、2年後の下取り価格がいくらになるのか、仮定しなければいけない。上限が2万円となった場合、その条件に抵触するものがあるかどうかを今チェックしているところですが、現在のプログラムを変えるつもりはありません。
——同様に制度案がそのまま通った場合、違約金に関してはどのような対応を考えていますか。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」