今のところ、Giovanniさんが使っているのは1つのボタン装置だけで、そのコンテンツもあらかじめ揃えてある。だが、最終的にはこのシステムを拡張して、さまざまなコンテンツを選べるようになり、さらに多くの検索も実行できるようになるだろう。Lorenzo氏のチームは、各種の情報と画像を組み合わせたRFIDタグの導入を計画しているという。
「こういうボタンを家じゅうに設置することもできそうだ」。Lorenzo氏はそう語り、このシステムを一種のジュークボックスに例える。それぞれのボタンを押せば、天気やニュースを教えてくれ、ジョークを披露することもあるというわけだ。
Lorenzo氏によると、今の状態でも、Giovanniさんには大きな変化になっているという。先日実家を訪問したときも、GiovanniさんはLorenzo氏のまだ幼い子どもと一緒にテレビを見ていた。だが、番組がつまらなかったらしく、テレビに近づいてボタンを押し、お気に入りのアニメ映画「ファインディング・ニモ」に切り替えた。
「そうやって、弟は私の子どもと競えるようになった。子どもたちがお互いにやっているのと同じで、リモコンを握ったほうがチャンネル権を獲得する。そういう中に弟も加われるようになり、チャンネル権を握ったんだ」、とLorenzo氏は語る。
ただテレビのチャンネルを変えただけの話で、些細なことのように思えるかもしれない。だが、言語病理学者で、拡大コミュニケーション技術利用の専門家でもあるAngela Standridge氏によると、ごく基本的な形のコミュニケーションでさえ、Giovanniさんのようにコミュニケーションに制限のある人にとっては意味のあることなのだという。
「私の仕事で特に影響が大きいのは、『やめて』とか『何々しないで』という伝え方の指導だ。コミュニケーションの大きい目的は、環境を制御することにある。主体となる、制御するという感覚を持つことは、私たち人間の根源に関わるからだ」、とStandridge氏は話している。
「Siri」やAlexa、Googleアシスタントのような音声アシスタントは、全盲者や視覚障害者、あるいは身体障害のある人々の暮らしを支える生命線にもなりうるが、音声コマンドが求められるために取り残されてしまう人も多い。
製品設計の段階で企業はそうした層のことを考慮し、できるだけ多くの人が利用できるようにしてほしい、とEdge-Savage氏は話す。そして、メインストリーム技術を応用してアクセシビリティーを実現する方法はたくさんあると付け加えている。Lorenzo氏のシステムは、まだ社内開発にすぎないとしても、そうした応用の好例だ。
Googleは、機械学習を使った別のプロジェクトも進めている。発音が不明瞭な、または分かりにくい人にGoogleアシスタントを使いやすくする、「Project Euphonia」というプロジェクトだ。
Googleの最高経営責任者(CEO)Sundar Pichai氏は、Google I/Oのステージでこう話している。「あらゆる人を想定して開発された製品ということは、あらゆる人が当社の製品にアクセスできるということだ。テクノロジーは私たちのインクルーシブ性(包括性)を高める助けになるとわれわれは考えている。そして、AIは障害のある人々の体験を劇的に改善する新しいツール群を私たちに提供してくれている」
だが、大手テクノロジー企業の取り組みはまだ足りない、と指摘する専門家もいる。Standridge氏によると、Googleや他の大手企業は製品設計の最初の段階から障害者のことを考慮する必要があるという。
「アクセシビリティーについては、どの大手テクノロジー企業も、まだ後から付け足す形になっている。障害者に合わせて、後から改良されているにすぎない。製品の企画段階でユニバーサルデザインを採用していれば、多様な障害を抱える人々も最初から使えるツールになるはずだ」(Standridge氏)
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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