米Microsoftが毎年開催する教育分野の一大イベント「Microsoft Education Exchange 2019」が4月2〜4日の3日間、フランスのパリで開催された。日本からも、甲南高等学校・中学校、つくば市立学園の森義務教育学校、国立大学法人東京学芸大学附属小金井小学校の教員が、同イベントに参加した。
このイベントは、各国のMicrosoftが認定する「Microsoft Innovative Educator Experts(マイクロソフト認定教育イノベータ)」や教育団体のリーダーらが集結する世界規模の教員研修だ。国や民族、宗教や文化などバックグラウンドの異なる教育者が集まり、ひとつの授業プランを作ったり、互いの教育実践を共有したりする。その研修内容とはどのようなものか。現地の様子をレポートする。
米Microsoftが主催する教育分野の年次イベントであるMicrosoft Education Exchangeは、世界最大級の教員研修だ。毎年、世界各地で場所を変えて開催され、2019年の今年はフランスのパリで開かれた。
5回目を迎えた同イベントには、世界70カ国350名もの教育者らが集結し、日本からも3名の教育者が参加した。参加者らはいずれも、小中高や大学、特別支援学校などで教える現場の教師たちであり、マイクロソフトが認定する教育イノベータ「Microsoft Innovative Educator Experts」に選ばれた者でもある。
同イベントの目的は、テクノロジー活用で変革をもたらした教育者たちを称賛し、さらなる前進に向けてパッションを共有することだ。教育分野では国よって制度や課題は違えど、新しい変化が起こりにくい現場の体質はどの国も似ており、共通課題となっている。そうした現状に挑む教育者らが交流し合うことで、変革に対する意識を高め合うことがイベントの狙いだ。
2019年は、まさにそうした意識を具現化した「CHANGE MAKERS(チェンジメーカー)」という言葉が、ひとつのテーマとして掲げられた。キーノートに登壇した米Microsoftの教育部門Vice PresidentのAnthony Salcito氏は、「今ほど、教育を変えるために強い意志持った教育者が必要とされた時代はない。変化を起こすのはとても難しく、勇気もいるし、怖さもある。しかし、このイベントを通して世界中の仲間とパッションを共有し、それぞれの場所に戻ってもチェンジメーカーのマインドを広げる教育者でいてほしい」と訴えた。
どれだけテクノロジーをそろえても、それを使う教育者が変わらなければ、そのメリットは子どもたちに届かない。変わることを恐れず、勇気をもって教育の変革に挑んでほしいと、参加者らの決意を新たにさせた。
Microsoft Education Exchangeに参加した教育者たちは、どのような研修を受けるのか。大きくは「グループワーク」と「個人発表」という、2つのプログラムが用意されている。
グループワークは「Educator Challenge」と呼ばれ、350名の参加者全員が人種や宗教、文化などバックグラウンドに関係なく1つのチームを作り、与えられたテーマに基づいてひとつの授業プランを組み立てる。そして、その内容を2分間のプレゼン動画にまとめて制限時間までに提出し、優れた授業プランを考案したチームはアワードセレモニーで表彰される(審査は非公開)。
個人発表は「Learning Marketplace」と呼ばれ、いわゆるポスターセッションのようなもの。それぞれの教育者たちがこれまでに取り組んできた実践を発表し、共有し合う。
参加者たちは、イベント3日間でこれら2つのプログラムをこなすうえ、Microsoftが提供する教育ソリューションのワークショップなども受講できる。もっともチャレンジングな部分は、参加者の多くは英語が母国語でないにもかかわらず、すべてのコミュニケーションが英語で行われること。イベントでは、翻訳アプリなどを駆使しながら互いにコミュニケーションを取るようにアナウンスされていたが、グループワークのリアルな会話でそれが可能かどうか、実際にやってみるまで分からない。
まず、グループワークのEducator Challengeから見ていこう。同プログラムは、バックグラウンドの異なる教育者たちがチームになり、1つの授業プランを考える研修だ。2019年のテーマは、「学習者がパリの世界に夢中になる授業プランをデザインしよう」。
たとえば、パリの美術館と教室をSkypeでつなぐ遠隔授業や、パリの建築物をマインクラフトの教育版「Minecraft:Education Edition」で再現する協働学習など、パリにちなんだ授業プランをデザインする。当然、楽しい、面白いだけの授業で終わってはならない。授業デザインの中に、21世紀型スキルを伸ばす学びがあるかどうか、インクルーシブ教育に配慮しているかなど、教育的要素を加味した授業デザインが求められる。
研修では最初に、授業プランのアイデアを広げるためにパリの街を観光するバスツアーが企画された。参加者たちは、チームでバスに乗り込み、パリの街に繰り出した。このバスツアーでは、「Social Media Challenge」というタスクが要所要素で用意されており、チームでそれらのタスクをクリアしながらパリの街を周らなければならない。といっても、与えられたタスクは、指定された写真を撮影してSNSにアップするという簡単なもので、初めて出会った教育者同士、アクティブに活動しながら互いの距離感を縮めた。
バスツアーの後は、いよいよ授業プランのデザインに挑む。日本から参加した東京学芸大学附属小金井小学校 鈴木秀樹教諭のチームは、パリの社会問題を扱うプロブレムベースドラーニング(問題解決型学習)を考えた。
同チームが考えた授業プランの流れは、パリがどのような社会課題を抱えているのか、子どもたちがリサーチし、それらを解決するための手段を専門家にインタビューして、その内容を動画で共有するというもの。課題のリサーチには「Microsoft Forms」を使い、住人のリアルな声を拾いあげたり、専門家を訪れてインタビューする際には動画プラットフォーム「Flipgrid」を用いてインタラクティブな学習場面を作るといった手法を取り入れた。
鈴木教諭は、この授業プランの評価を決めるルーブリックの部分を担当したという。同教諭は、「英語は分からない部分もあったが、リーダーがディスカッションの要点や作業内容などを『Microsoft Teams』に書き出しながら進めてくれたので追いかけることができた」と作業を振り返った。
一方で、苦労した点として鈴木教諭は「どのような授業プランにするのか、大枠を決めるところまではスムーズに進んだが、細かな点を落とし込む際にとても時間がかかった」と述べた。
たとえば、パリが抱える社会課題について。日本の教育現場では子どもたち自身が課題を発見したり、気づいたりと動機付けの部分を大切にするが、他の国はそうした価値観よりも、パリがリアルに直面している課題を教師が与えてしまう方が良いと考える国もあるという。鈴木教諭は各国の教師たちが“自分たちの当たり前”を前提に話を進めると、それを調整するのに時間がかかる。しかし、自分としては視点の違いに気づくこともできて学びになったと話してくれた。
甲南高等学校・中学校 村上仙瑞教諭のチームは、学習者がパリの歴史について楽しく学べる授業プランを作成した。同じチームのドイツ人教師が「OneNote」でイラストを描き、フランス人教師が「Minecraft: Education Edition」でフランスの街並みを作り、村上教諭は「Sway」を活用してパリの建築についてまとめるなど、メンバーの特技を生かして1つの授業デザインを作ったという。
ほかにも、つくば市立学園の森義務教育学校 山口禎恵教諭のチームは、マインクラフトで作られたパリのワールドを用いて、子どもたちが仮想世界で美術や歴史を学べる教材を作った。マインクラフトのルーブル美術館を訪れると、Swayの解説スライドや参考URLにジャンプする仕組みで、子どもたちの思い入れが強いマインクラフトを生かして、楽しく学べる授業プランを考えた。ちなみに、山口教諭のチームはバスツアーで企画された「Social Media Challenge」で最優秀賞を授賞。インパクトある情報発信が評価された。
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