2019年3月に、ホバーバイク「Speeder」シリーズの有人飛行試験を公開したA.L.I.テクノロジーズ。同社は、クラウドレンダリングサービスを始めとするコンピューティングパワープール事業や、ドローンの開発・ソリューション事業など、テクノロジー分野における事業を幅広く手掛けている。
創業以来黒字を続けているという同社が、当初よりコアビジネスと位置付けるエアーモビリティ事業。ホバーバイクの開発の先に目指すものを、A.L.I.テクノロジーズの代表取締役会長であり、ホバーバイク開発者でもある小松周平氏に聞いた。
ーー先日、ホバーバイク「Speeder」を公開しました。
公開した機体は、高度を一定に保つこと、姿勢を制御し、重心が変わっても安定して飛べることといった、製品版で重要となることを実証するための試験機です。性能上は1mほど浮上できるのですが、安全性を踏まえて20cmほどの高度に調整しています。製品版を見越したアプリケーションや、一定高度を保つ技術、姿勢制御や浮力など、基本設計として求められるものを、機能ごとに切り分けて設計しています。
ホバーバイクの開発では、この試験機に採用する、設計上の核となるものの安全性を証明することが、一番重要になります。その部分を詳細設計に落とし込み、2018年の5月頃に部品の選択などのトライエラーの段階に入りました。12月頃にはある程度の形ができ始め、そして2月には披露した試験機の形になりました。そこからさらに試験を進め、2か月程度でお見せした段階に至っています。
今後は、IMU(慣性計測装置)センサーの性能向上や、エンジンノイズの削減、傾きの制御や防振など、当初より増えた必要な部分について、どのような実証実験が必要かを検討し、7月頃から試験に着手します。
基本設計の段階で、製品として出す機体の形はすでに決まっています。機体に用いるシャーシは用意に半年ほど掛かるので、事前に決める必要があります。そのため、機体に必須のものを見極め、それに適合する基本設計に入り、それからデザインを決めます。その見極めに当たる実証実験は既に終えているので、これから形を決めてシャーシを注文し、続けて機体内部の詳細設計をするために必要なパーツ類の選定を7月から8月にかけて進め、9月頃には内部の配置を検討します。
10月に開かれる東京モーターショーでは、組立済みの「リミテッドエディション」を展示したいと考えています。11月か12月に飛行試験を進め、2020年の1月から3月に製造設計に着手します。4月から6月に品質点検、最終試験を終え、2020年下期から製造へ。そして2020年のクリスマスの時期には、リミテッドエディションの1号車を納車するスケジュールです。2021年の3月には、納車を完了していると思います。
リミテッドエディションの製造中には、今後展開する製品についての研究開発も進めます。たとえば、リミテッドエディションではエンジンを使っていますが、これを電化し、ハイブリッド化や完全電気駆動とすることを目指しています。他にも、プロペラの形状を変更することも考えられます。このリミテッドエディション後の量産型製品については、2021年度中にはデザインを決定して詳細設計などを開始し、2021年度後半から2022年度初めに一般向けへの納車を始める流れになると思います。それまでに国土交通省の整備試験に臨みたいと考えています。
--国土交通省の試験というと、ハードルが高そうな印象を覚えます。
試験自体の前に、試験の内容を決めなければなりません。浮く、という今までにない動きをする機体の運用について、国土交通省に既存の法枠内で整理をしていただく必要があります。
以前に国土交通省と打ち合わせをした際には、試験の準備と試験で、それぞれ半年ほどの期間が必要となるのでは、という話になりました。そこから公道試験を開始することを考えると、1年半ほど必要となる計算になります。このことから、リミテッドエディションから1年半ほどが経過した、2021年度後半から2022年度初めという時期に、日本国内で量産車が登場することとなります。
--ホバーバイクの発表の際には、「ドローンの免許が必要だ」とおっしゃっていました。
もちろん、現状では明確な方針はありませんが、私個人としては必要だと思っています。操作方法次第だとは思いますが、操作方法がドローンに近づけば近づくほど、必要性が増すと考えます。
ホバーバイクでは、基本的な操作方法は通常のバイクとあまり変わりませんが、上昇や下降、その場で回転するという、バイクには無い3次元の動作が加わります。この感覚は、ドローンを操縦した経験がないと掴みづらいものです。
ホバーバイクの運転を目指す場合に限っては、ドローンの操縦を学ぶ場所として、私たちが認定するドローンスクールで学んで頂きたいと考えます。様々なドローンスクールが「エアーモビリティに必要だ」と謳っても、レベルが担保されているかはわかりません。したがって、ドローン免許の保有は推奨しますが、免許取得の際は、是非とも私たちが認定したドローンスクールで学んで頂きたいと思っております。場合によっては安全性を踏まえ、私たちが認定したドローンスクールの試験をパスしないと納車しない方法を取るかもしれません。
--将来的には、その一定レベルの基準を業界全体で策定しようということでしょうか。
いえ、その基準を適用するのは私たちのみです。これは道路の交通ルールと同じです。例えば、公道での制限速度や、車両の安全装備の規制といったものは、国土交通省などが決めるものです。自動車がそうであったように、ルール概念というものは、業界ではなくレースが決めるものだと考えています。世界中の人々が参加するレースから、エアモビリティ社会の基本ルールが作られます。それ以外のローカルルールは、各国で決めることになります。
たとえば、国土交通省や経済産業省が進める「空の移動革命に向けた官民協議会」も、ルールを決めるための集まりではありません。ルールを決めるために法律を改正しようという動きです。ルールを決めている人というのはいません。それは海外も同じで、道路のルールはレースから作られる、と認知されているのだと思います。信号の色や一時停止の標識は、各国で共通です。これはFIA(国際自動車連盟)の自動車レースサーキットにおけるルールです。低空域におけるエアーモビリティのルールも、基本的にはFAI(国際航空連盟)の国際ドローンレースが参考にされ、基準になると考えています。
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