会津若松の「デジタル未来アート展」レポート--“遊び場”と“学び場”が融合

 3月16〜26日の10日間にわたり、会津若松市の会津稽古堂で「デジタル未来アート展」が開催された。最新のテクノロジーやアートを使ったコンテンツが楽しめる「遊び場」と、ワークショップや体験を通じてテクノロジーを理解できる「学び場」に多くの人が訪れ、にぎやかな歓声が響き渡った。のべ6143名が来場し、前年度を超える盛況となった。

 会津若松市は、4年前から同イベントを開催しており、地元の人たちにも広く親しまれている。老若男女を問わず、お気に入りのゲームやプログラミングツールで遊ぶために、会期中足しげく会場に通う姿も見られた。

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KOBISHI KIDSで遊ぶ子供たち。ボールを投げると四角い表示が消えて、地元の民芸品「おきあかりこぼし」を模したイラストが現れる

 このイベントを企画実行しているのは、大学やITベンチャー企業で構成される実行委員会で、イベント設計の中心を担っているのは地元のデザイン会社だ。2020年度から小学校においてプログラミングが必修化することから、地方でも大々的に催し物が開かれているが、会津若松市はその先駆けといえる地域だろう。

 イベントのコンセプトは「子どもたちに冬の遊び場を提供する」「ICT(情報通信技術)への理解や関心を深めてもらおう」の2つである。冬の寒さが厳しい会津若松市では、室内遊びの場所探しに苦心する保護者も多い。そこをITでなんとかできないかというのが、この企画の原点である。

 会場ではドローンの操縦や、人の動きを感知するセンサーを配したボールプールのゲームなど、IT機器への興味と仕組みが理解できる仕掛けや、程よく体が動かせるゲームを体験することができる。子どもたちが楽しく遊ぶ様子に感心する保護者が「これを購入したいので販売先を教えてほしい」とスタッフに質問する姿も多くみられた。

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遠隔操作で、雲の表示を消していくと、地元の小学生が書いた郷土料理「こづゆ」の絵画が現れる
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ドローンの動きをPCでプログラミングする「ドローンサーカス」

 会場は「楽しみながら学べる」ゲームが「遊び場」と「学び場」に分かれて並んでおり、会津大や、地元のIT関連企業が開発したゲームを遊ぶことができた。

3世代でデジタルアートで遊ぶ姿も

 「漢字遊戯〜漢字の花火で夜空を照らせ!!〜」(デザイニウムが開発)は、漢字クイズに答えて、解答に応じてスクリーン上の夜空に様々なデジタル花火が表現される。学習×遊びを実現したデジタルアート作品だ。

 タブレット画面に漢字クイズが出題され、40枚ある漢字カードの中から1枚選択し、タブレットにかざす。正解の場合、スクリーンに会津ゆかりのキャラクターが映し出され「漢字の成り立ち」を学ぶことができる。漢字や熟語などを学習しながら、カードという媒体を使ってデジタルコンテンツを操作する仕組みを体験することが狙いだ。

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「漢字遊戯〜漢字の花火で夜空を照らせ!!〜」

 参加者の鈴木美樹さんは「孫と遊びに来た。冬は遊ばせるところがないので、このイベントはとてもありがたい。こういった遊びと学習が一体化した作品に触れることは、シニア世代の私たちにもとても刺激的だ。3世代で一緒に家庭で楽しんだり、子どもとお年寄りが街中で遊ぶような場所ができたら、地域の活性化にもつながりそう」と話した。

会津若松発の新作VRゲームを体験

 デジタル未来アート展では、会津若松市内で起業した企業AnostVRが開発した、まだ未発売のVRゲーム「ダンジョンクエスター」のデモを体験することができた。

 VRを使った対戦型のアーケードゲームで2人で対戦する。VRヘッドセットを付けていない方のプレーヤー(iPadを操作)が、ダンジョン内にモンスターを配置し、VRヘッドセットを付けたプレーヤーはそれらのモンスターと戦いながら、最終的に宝箱までたどり着けば勝利。モンスターの位置や種類は対戦中に変更でき、VRヘッドセットを付けたプレーヤーとの駆け引きを楽しむことができる。

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VRゲーム「ダンジョンクエスター」のデモ
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タブレットでモンスターを配置する

 制作者の秋山真範氏は、「VRの世界観の中で複数人で遊ぶには、これがシンプルで最適であると判断して制作した。厨二病丸出しのゲームとも言えなくもないが、自信作。相手の動きを察知して、スリルを味わいながら、360度見渡せる世界に没頭して楽しんでもらえたら」と話す。

こちらはAnostVR社の秋山真範氏。
AnostVRの秋山真範氏

 筆者もデモ機を試したが、秋山氏の言う通り、見上げても振り返っても薄暗い石状のダンジョンの中にたたずむ世界観は圧巻であり、これぞVRゲームという陶酔感がある。自らコマンドを使って明かりを灯して、歩みを進めると、背後からモンスターがやってくる。対戦相手が仕掛けてくるモンスターとダンジョン内の構造を理解して、宝箱にたどり着いたときはかなりの達成感があった。

実行委員会が語る「デジタル未来アート展」の狙い

 今回のデジタル未来アート展の実行委員会は、どのような工夫をしてこのイベントを盛り立てていたのだろうか。

 会津若松市 企画制作部 企画調整課の小山淳氏は、「このイベントの主な目的は3つ。(1)子どもたちのITへの関心を高め、学びの場をつくること、(2)子育て支援の一環として冬の遊び場を提供すること、(3)地元IT企業の技術向上や付加価値の高い製品開発のためのアイデアの創出に向けたネットワークの構築、さらには将来の人材育成につなげる仕事づくりの場をつくること」と話す。

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会津若松市 企画制作部 企画調整課の小山淳氏(左)、TAKLAMの石迫岳大氏(右)

 また、TAKLAMの石迫岳大氏は「まさにこれらの3つの目的にかなったイベントになってきている。2019年は4つの企業と会津大学、公的機関のチームがそれぞれ特色のあるブースを展開した。会津で活躍している、IT系スタートアップやベンチャー企業は、会津大学出身の企業も多い。まさに産学官が一体となって地元のIT分野を支えている」と話す。

 今回参加している企業のデザイニウム、TAKULAM、AnostVR、プライズ、Corder Dojo Aizuは、いずれも会津大学出身者が起業したり、事業にかかわっている会社だという。

ドローンプログラミング教室の出前講座を小学校で開催

 同大会実行委員会は、今回のデジタル未来アート展に関連した事業もいくつか展開している。「プログラミングコンテスト In あいづ」と題し、デジタル未来アート展内で、スクラッチで作成したオリジナル作品のコンテストが開かれた。そのほか「てくらぼ techLab in スクール」と題した、学校へのドローンを用いたプログラミングワークショップの出前講座なども人気を博している。この出前講座は会津若松市内の各小学校を巡回し、2月と3月の間に計2カ所の小学校を訪問した。

 小山氏は「会場内でも会津大学の学生が地元の小学生にプログラミングを教えたり、地元で頑張る企業のブースで夢中になって遊ぶ保護者とゲームの話に花を咲かせたり、世代間を超えた交流が生まれてきている。このイベントをきっかけに、会津とITを老若男女問わず好きになってもらって、地域の活性化に役立てたら」と話す。先駆的な会津若松市の取り組みは、全国のIT導入のロールモデルとなることだろう。

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