インターネットイニシアティブ(IIJ)傘下のディーカレットは3月27日、仮想通貨交換業としての事業展開を発表した。同社は2018年1月にIIJのほか野村ホールディングス、東日本旅客鉄道(JR東日本)、三井住友銀行など合計18社が協同で出資して設立した企業。IIJが35%の株式を保有しており、ディーカレットを持分法適用会社としている。
発表会では、ディーカレットの代表取締役社長を務める時田一広氏が登壇し、今後の事業展開について説明した。ディーカレットは2018年1月の設立以来、仮想通貨交換業の登録業者として認定を受けるための手続きと、業務開始に向けたシステム構築などの体制づくりに取り組んでいたという。そして3月25日に、金融庁から資金決済法に基づく仮想通貨交換業の登録業者として認定を受け、27日からアカウントの登録受付を開始。4月16日から営業を開始する予定だ。
当初は、BTC(ビットコイン)、BCH(ビットコインキャッシュ)、LTC(ライトコイン)、XRP(リップル)と、4通貨の現物取引から開始する。通貨ペアは日本円とBTC、BCH、LTC、XRPの4種類に加えて、BTCとBCH、LTC、XRPの3種類、合計7種類を取り扱う。また、6~7月に予定しているシステムのバージョンアップにより、ETH(イーサリアム)が加わるほか、証拠金取引のサービスも開始する。
時田氏は当初、半年程度で登録業者として認定を受けられるのではと考えていたという。しかし、2018年1月にコインチェックが起こした仮想通貨流出事件以来、金融庁の監督が厳しくなった。事件後およそ半年の間、金融庁は新規業者の登録審査よりも、既存業者の検査を優先させていたという。
8月に既存業者検査結果の中間取りまとめが完了し、10月に登録審査プロセスを公開した。ディーカレットの登録審査はこの後から始まったため、当初の予定よりも認定を受けるまでに時間がかかった。ちなみに、ディーカレットはコインチェックの流出事件以降、仮想通貨交換業の登録業者として初めて認定を受ける企業になった。
先述の事件以降、金融庁は規制を強めているが、時田社長は「事件後に新規業者として最初の登録となったことに非常に大きな意義がある。同時に重大な責任があると受け止めている」と語る。厳しくなったと考えられる新規登録の審査を通過したことから、これまでの仮想通貨交換業者よりも利用者の安全、安心という意味で数段高いレベルにあると自負しているようだ。
また、仮想通貨にはさまざまな課題があることを認めつつも、「仮想通貨の技術にはこれからのデジタル金融サービスを作っていけるだけの大きな可能性がある。ディーカレットはその可能性に賭けて事業を進めていく」と語った。
その後、時田社長は今後の事業展開について語った。ディーカレットでは、2段階のステージで事業を発展させる計画を描いているという。1ステージ目では法定通貨と仮想通貨の売買や通貨交換、既存の決済サービスと連携した上で電子マネーのチャージ、仮想通貨とポイントやギフトの交換を予定している。時田社長は、ここまでを2019年中にすべて達成したいとも語った。
2ステージ目では、金融資産を担保としたデジタル通貨の発行と流通のほか、デジタル化したさまざまな資産との交換などを予定している。ここでは「デジタル通貨」という言葉を使っているが、これは仮想通貨だけでなく、ステーブルコイン(金融資産を担保に通貨を発行し、価格安定を図るもの)や企業が発行するポイントやトークンなども含めた総称として「デジタル通貨」と呼んでいる。こうして、仮想通貨に限らずデジタル化してネットワークで流通するさまざまなデジタル通貨に対応することで、将来は「デジタル通貨」のメインバンクになることを目指すとしている。
ディーカレットのサービスを支えるクラウドシステムは、IIJのデータセンターに構築。このシステムは、IIJがFX業者、証券会社、銀行など10社以上に提供している「FXシステム」をベースに開発したもので、およそ1年前にIIJとディーカレットが共同で100名以上の開発態勢を作って開発してきた。
取引量増加や、レートの激しい変動など、より高い処理性能が必要になると多数のサーバーを追加して性能を確保する「スケールアウト」のアーキテクチャを採用している。そのため、かなりの負荷がかかっても処理性能は安定しており、一部の機能が障害を起こしても、ほかのサーバーが代替するため、耐障害性も高いという。
時田氏は、ディーカレットのクラウドシステムの主要な機能として「交換」「保管」「送受」の3つを挙げた。まず「交換」では、世界中の仮想通貨取引所や交換所と接続して、仮想通貨の流動性を確保する「カバー取引」の機能を提供するという。
これは、複数の接続先から受け取った交換レートから、ディーカレットが独自の交換レートを決定し、顧客に提示するというもの。決済中にもレートは変化を続けているため、顧客が現実のレートで取引を約定させることはかなり難しいが、ディーカレットは大量の取引所や交換所を利用したカバー取引で、顧客にて維持したレートにできる限り近い価格で約定させていくという。
そして、カバー取引の接続先は今後も増やしていくという。これにより、通貨の種類によるレートの偏りを可能な限りなくしていき、さらに流動性を高めていくのが狙いだ。
保管はコインチェックの流出事件があったことから、利用客としては最も気になるところだ。ディーカレットでは、利用客の資産は、ネットワークから切り離した「コールドウォレット」で100%管理している。そのため、攻撃者がインターネットからシステムに侵入したとしても、アクセスは不可能だ。さらに、組織としてコールドウォレットを安全に運用する態勢を作っているという。時田社長は、事件後に初めて登録業者として認定を受けたことから、「保管態勢の安全性も金融庁に認めてもらえたと考えている」と語った。
送金では、単一の通貨を送るだけでなく、複数の通貨の組み合わせを送ったり、送る過程で通貨の種類を変えながら送る機能を実装。送金時は不正取引を防ぐため、個々の送金要求をチェックし、厳重に監視しているという。
発表会の終盤では、株主である東日本旅客鉄道(JR東日本)の常務執行役員で、Suica事業推進本部長を務める野口忍氏からのビデオメッセージが流れた。野口氏は「Suicaは当初、現金をチャージして利用するところから始まったが、現在キャッシュレス化に向けた大きな流れがある。現金をチャージして使うという形態は大きく変わっていくと考えている」と語った。
Suicaはさまざまな年齢層が使用しているほか、訪日外国人も利用している。そして、電車の運賃支払いだけでなく、物品の購入などさまざまな利用形態があることに触れ「利用客のニーズ、要望、便利な方法はさまざまあり、利用客の要望により広く対応していく必要があると考えている」と語った。さらに「Suicaをデジタル通貨に対応させることは、利用客の要望を満たす有力な選択肢の1つと考えている」と明言し、デジタル通貨からSuicaへのチャージなどを、最初の利用例として検討していきたいと語った。
なお、発表会前に一部報道で、同社が仮想通貨からSuicaにチャージするサービスを始めるという情報が出た際、時田氏は「Suicaへのチャージは検討しているが、現時点では具体的な計画はない」と報道を否定していた。具体的な構想が出たことで、仮想通貨からSuicaへのチャージが実現する日は意外に近いのかもしれない。
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