日本航空(JAL)とKDDI、KDDI総合研究所は、3月13日に次世代のモバイル通信規格「5G」を用いた航空機整備の遠隔作業支援などの実証実験を実施。3月18日に、報道陣にその成果を披露した。
3社は2018年11日にも5Gを用いた航空サービスの実証実験を実施しており、今回はその第2弾の取り組みとなる。JALの執行役員 イノベーション推進本部長である西畑智博氏によると、同社ではより良いサービスを提供する上で、新しい技術の導入による顧客に向けたカスタマージャーニーの向上と、実際の航空機を運用するのオペレーションプロセスの向上を実現する取り組みを進めるべく「JAL Innovation Lab」を2018年に設立しているという。
このラボでは他社のラボと連携を図ることで、情報を共有しながら新しい取り組みを推し進めているという。そうした取り組みの1つがKDDIとの連携であり、前回の実証実験では主に前者のカスタマージャーニーの向上に向けた5Gの活用に取り組んだとのこと。そこで今回は、後者となるオペレーションの支援、より具体的にはJALの整備本部と協力し、5Gを航空機の整備や点検などに活用する取り組みを進めたのだという。
一方、KDDI総合研究所の代表取締役所長である中島康之氏は、高速大容量や低遅延、同時に多数の機器を接続できるなどの特徴を持つ5Gが、IoTの普及に欠かせないインフラになると説明する一方で、「どう使ってもらうかがこれからの課題」と話す。そのため、KDDIではさまざまなパートナーと連携して実証実験を進めているとのことで、JALとの実証実験によって航空業界で5Gの活用の幅を広げる取り組みを進めていきたいと話す。
今回実施された実証実験は、共に5Gの高速大容量通信という特徴を生かしたもので、いずれも周波数には28GHz帯が用いられている。1つは出発前の航空機を整備する整備士の遠隔業務支援で、整備士が取り付けた4Kカメラの映像を5Gで遠隔地にいる指示者に伝送し、映像を見ながら整備士に指示をするというものだ。
指示は音声だけでなく、KDDI総合研究所が開発したAR遠隔作業支援システム「VistaFinder Mx」を活用することで、映像の上にペンで指示を入れ、ビジュアルで指示した箇所が分かりやすく表示されるようになっている。航空機の部品は細かなものが多いため、遠隔で指示をする上でも細部の確認ができる高精細な4K映像や、映像に直接指示ができる仕組みが重要になるとのこと。遠隔で指示ができる仕組みを整えることで、羽田空港から地方空港の整備士に指示をしたり、経験の浅い整備士に、熟練者が効率よく指示したりできるようになるとのことだ。
そしてもう1つは、8K解像度の映像を用いた、同一拠点内での整備作業支援である。具体的には、8Kで撮影した格納庫内にある航空機の映像を伝送し、これまで目視でなければ確認できなかった航空機の細かな部分を遠隔でチェックするというもの。デモには複数の8Kカメラを用いて撮影された自由視点VR映像が用いられており、航空機を好きな視点に切り替え、なおかつ大画面・高精細の映像で確認できることから、従来の目視では確認が難しかった部分も確認しやすくなるメリットも生まれているとのことだ。
これら2つの実証実験は、いずれも5Gと4G/Wi-Fiでの同時配信を実施し、品質の違いを比較しているとのこと。例えば8K映像を活用した実験では、2K・4Kの解像度では確認しきれなかった細かな部品の変化も、8Kであればはっきりと細部まで確認できる様子も示しており、「今の技術でできないことを、今回の環境でできることを確認するのが目的」と西畑氏は話す。
また3社はこれらに加えて、第1弾の実証実験で公開された、5Gの端末を持っているだけでゲートを通過できる「タッチレス搭乗ゲート」の実証実験の様子も改めて披露。こちらは5Gの電波をゲートの上から照射し、ゲート通過時に専用のアプリをインストールした端末と短時間で通信し、認証することにより、スムーズに搭乗ゲートを通過できるというものだ。
今回公開されたゲートは以前より精度が高められているそうで、5G端末を鞄の中に入れていてもゲートを通過できるようになっているとのこと。「ゲート以外の応用も考えられる」と中島氏は話しており、今後他の分野への応用もしていく考えも示している。
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