強大になり過ぎたシリコンバレー大手、とくに社会的に扱いに困ることが目立って増えたGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)という「猫の首」にいったい誰(どのネズミ)が鈴を付けに行くのか?ここ2年ほど注目を集めていたこの疑問にようやく答えが出た。しかも、鈴を付けにいく覚悟を決めて「自分が行く」と手を挙げたのがErizabeth Warren上院議員だ。約10年ほど前に、ウォールストリート(の大手金融機関)の規制で名を上げた次期大統領選の有力候補である。先週末には米国の関連分野を扱うメディアがこの話題で持ちきり、という印象(注)。今回はこの話題について「分割と規制の中味」「Warren氏の人となりと2020年大統領選」「(従来の)スマホ/ソーシャルメディアの終焉」といったあたりを中心に、今後注目すべき点について記す。
Warren議員(マサチューセッツ州選出、民主党)が米国時間3月8日にMediumで公開したエッセイ――タイトルは「どうすれば巨大IT企業を分割できるか」("Here's how we can break up Big Tech")の冒頭には下掲の画像がでかでかと貼られている。
「Amazon、Google、Facebookを分割すべき時がきた」("It's time to break up Amazon, Google, Facebook")というこの訴え(提言)の具体的な内容については以下の通り。
いずれも「私が大統領になった暁には」という条件付きだが、それでももしこの公約の動きが具体化することになれば、Google/DoubleClickあたりやFacebook/Instagramあたりは日本でも直接的な影響が出そうだ。また、Yahoo JapanによるGoogle検索エンジン(と検索連動広告システム)の採用という、2010年7月の発表当時は一部で評判のよくなかった動きについても、あらためて見直すいい機会になるかもしれない。
それとは別に、総売上250億ドル(約2兆7800億円)を超える「プラットフォーム提供企業」にはプレイヤーとしての参加を禁じるとする「サードパーティーとの競合禁止」のルールも提案されている。これですぐに思い浮かぶのは、「Amazonマーケットプレイス」の例だ。個人的に身近な例でいうと、Ankerのモバイルバッテリーが売れていることを示すデータを目にしたAmazonが、競合する製品を作って「Amazonベーシック」ブランドで販売する、といったもの。米Amazonの場合はファッション(衣料)などもいろいろな分野でオリジナル商品を扱っている(あるいは実際にはまだでも、できるだけのデータが手元にある)からもっと影響が大きいのかもしれない。
さらに、このエッセイでは触れられていないが、「サービス分野」を今後の成長の柱に据えているAppleにも影響がありそうだ。すぐに思いつくのは、3月下旬に発表予定とされる動画ストリーミングサービス。Netflixの対抗馬を目指すとされるこのバンドルサービスの目玉として(Netflixがそうしてきたように)Appleがオリジナル作品を製作・公開するというのがこのルールに抵触しないかどうか(同社が年間10億ドルを超える資金をオリジナル・コンテンツに投入し……というのは2017年くらいから繰り返し報じられている話)。また最近ではあまり例を聞かなくなったが、ある時期までよくあった「サードパーティーが開発したイケてるソフトウェアやアプリを会社ごと買った後、自社製品として提供する」といったことも当然やりにくくなるだろう(App Storeがある種の独占であるのは間違いない)。
「GAFAの首に鈴をつけなくては……」という話が具体化したのはおそらく2年くらい前、前回の大統領選のショックがひと段落してからのことだったと思うが、Warren氏のような公的な立場にある人間が、しかも後に残る形で分割まで踏み込んで口にしたというのは、おそらく今回が初めてだと思う。これまでも、たとえばTim Wu氏のようなアカデミックな専門家が分割の必要性を主張していた例はあったが、政治家の場合は大半が「検討する必要があると思う」といった程度だった。また、規制の具体的な争点についても、ユーザープライバシーやデータの取り扱いに関するもの、あるいは各社のフェイクニュースや誤情報への対策とそれに関連するフィルターバブルの問題(ユーザーが関心を示した情報ばかりを勧めてくるアルゴリズムのせいで、世論の分断を深刻化させる、といったことへの懸念)などが目立ち、独占もしくは寡占企業の分割を目玉に据えたものはそれど出ていなかった印象だ。Warren氏の訴えが画期的な点はそこにある。
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