現場でのビジネス創出を実現するNTT西日本の「HEROES PROJECT」とは

 2月19、20日の2日間に渡って開催した本誌主催イベント「CNET Japan Live 2019 新規事業の創り方--テクノロジが生み出すイノベーションの力」。現場社員と地域の顧客がともにビジネス創出をめざす「HEROES PROJECT」を立ち上げた西日本電信電話(NTT西日本)による基調講演「新規事業は現場で創れ! NTT西日本がめざす新しいビジネス創出のカタチ」の概要をお送りする。

西日本電信電話 ビジネスデザイン部 オープンイノベーション推進室 チーフプロデューサーの尾﨑啓志氏
西日本電信電話 ビジネスデザイン部 オープンイノベーション推進室 チーフプロデューサーの尾﨑啓志氏

営業収益が約4割落ち込む--新規事業創出に取り組んだ理由

 従業員3950名、22社のグループ企業を含めると約6万人のNTT西日本グループ。読者諸氏もご承知のとおり関西以西を事業エリアとする電気通信事業社だが、新規事業創出に取り組んだ最大の理由は営業収益が約4割も目減りしているからだ。

 1999年のNTT再編後に2.63兆円あった営業収益は、17年後の2017年に1.43兆となり、1.2兆円減収した。固定電話の利用減やモバイルデバイスの登場など社会変革に伴う結果だが、同社は「大企業が1つなくなるレベル」(西日本電信電話 ビジネスデザイン部 オープンイノベーション推進室 チーフプロデューサー 尾﨑啓志氏)と語る。このような背景からNTT西日本は既存事業を継続しながらも、新領域における事業創出が求められるようになった。

 1999年にNTT西日本へ入社した尾﨑氏はこれまで、情報セキュリティビジネス「盗聴器探査サービス」や音楽アプリ「リリンク」、新規ビジネス創出・拡大に向けた出資や、会社設立を経営企画側から実施といった業務に携わってきたが、現在は「事業創出」「社内改革」の2分野に注力する。同社は10数年前から新規事業に取り組んできたが、「新しい事業創出をさらに加速させる必要がある」(尾﨑氏)ことから2017年4月にオープンイノベーション推進室を設立した。

 本誌では以前、同推進室 室長 中村正敏氏のインタビュー記事を掲載しているが、中村氏が強調する「最強の会社」を目指すために必要な、「喜び/感動する事業の創造」「ベンチャーの機動力を持つ」「アイデアを認める環境作り」を尾﨑氏も掲げる。重視しているのは『スピード』だ。部長直轄の組織でエスカレーションも早く、担当者がパートナーとその場で判断して決めていることも容認している。また「外に出ること」を推奨しているため、同室のメンバーが会社で一堂に会するのは年に数回だという。

 オープンイノベーション推進室の活動は先の記事をご覧いただくとして、本稿では尾﨑氏がチーフプロデューサーを務める「HEROES PROJECT」に注目したい。

地域密着型の新規事業--HEROES PROJECT

 本プロジェクトの概要について、「これまでの通信を軸としたソリューション営業は、お客様と弊社が甲乙の関係にあるが甲乙の関係ではなく互いのパートナーシップを通じて、その先にいる顧客や住民に価値を提供する」(尾﨑氏)と説明する。一般的に本社主導で取り組むことが多い新規事業だが、HEROES PROJECTは地域密着型。すでに1年間以上、地域の現場社員が積極的に取り組んできた。

 なぜ地域の社員なのか?その理由として、そこで住み、働いている人が地域の課題や、パートナーとなる地元の企業や自治体を一番知っていること、また前述のとおり、NTT西日本は各地域に密着した活動を続けていることから人脈も潤沢であることを踏まえ、地域密着型の本プロジェクトに着手している。なお、尾﨑氏は「地域が変われば企業も変わる。地方から大きなものを変えていく明治維新の志士のようなイメージ(で取り組む)」と意気込みを語った。

 しかしながら、現場の社員には事業の創出経験もなければ事業の創出ミッションもない。これらの課題を解決する必要があった。そこで尾﨑氏が立ち上げたのが、本社から事業創出を支援する「HEROES PROJECT」だ。

 NTT西日本が進める「HEROES PROJECT」
NTT西日本が進める「HEROES PROJECT」

 このように始まったHEROES PROJECTは、ワークショップやプレゼンテーション研修などを通じ、新規ビジネスのアイデア発想に必要なスキルを醸成。当初は外部スタッフの協力を考えたが、プロジェクトの存在感が低すぎて予算が確保できず、内製で取り組んでいる。「回数を重ねるうちに磨かれて形になった」(尾﨑氏)。アイデアは、定例ミーティングや個別相談のアドバイスによりブラッシュアップする。「アイデアが出せないメンバーは、ビジョン(実現したい世界観)を持っていないケースが多く、この段階から悩み始める」と尾﨑氏は語る。

 また、西日本エリアは広いため、高臨場感会議システムを用いることで、距離の壁をなくし効率的にアドバイスを行なっている。仮説検証フェーズでは特に「ユーザーニーズの把握」に重きをおいており、具体化したアイデアのニーズ調査を行うための、ストーリーボードやウェブモックを作成して可視化し、ユーザーヒアリングへの帯同を行う。これらのツールを簡単に制作できる仕組み「n-cafe」も整備しスピードを高めている。そして競合分析や市場性調査、実現手段の検討などを行った後に、ビジネス検討の継続を判断する「判定会議」を行う。これには、エリア長や本社幹部も参加して事業化に向けた予算確保を前提に話を進める。

 このようなプロセスを経て新規事業創出を行う本プロジェクトは、1年半で150人が参加し、アイデアは50以上。そのうち20アイデアは事業化検討段階に入り、1つは来年度に事業化を予定している。このような取り組みを披露すると、「『リソースが潤沢な大企業だからできる』といわれるが、本プロジェクトはたった2名。他の新規事業創出と並行して取り組んできた。会社を変えたいという熱い思いがあれば実現できる」(尾﨑氏)という。

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