仮想現実(VR)のヘッドセットは解像度が十分でないと感じたことのある人に対して、伝えたいことがある。その問題を解決する製品が見つかった。筆者は、人間の肉眼ではピクセルを認識できないほど高精細な「網膜ディスプレイ」を実現したヘッドセットを試す機会をようやく得ることができた。読者の皆さんも試すことができる。ただし、5995ユーロ(約75万円)あればの話だが。
ここ、ニューヨークにあるマンダリンオリエンタルホテルのスイートルームで、筆者は前面が鏡で覆われた「Varjo VR-1」ヘッドセットを装着した。これまでに試したほかのヘッドマウントディスプレイ(HMD)とよく似ている。だが、筆者が目にした映像は、ほかのVRと全く異なるものだった。2018年に初期のデモを試して、その体験を「息を呑むほどの素晴らしさ」と評したVRサイトのほかの記事を筆者は既に目にしていた。そうした評価に流されないように気をつけていたが、Varjoの超高精細VRヘッドセットは、筆者が今まで見たことのない鮮明な映像を映し出す。
今、目の前では、図面作成ソフトを手がけるAutodeskが作成した自動車のデザインモデルがくるくる回っている。仕上げやホイールキャップなど、すべてが非常に鮮明に見える。最上級のゲームモニターですべてを見ているような感覚だ。あるいは、現実の世界で見ているような感覚と言ってもいい。
それから、航空機・宇宙船の開発製造企業Lockheed Martinが開発した「Prepar3D」のフライトシミュレータで、飛行機のコックピットに座った。周りのゲージや計器の情報を確認する。すべて完璧だ。
ほかにも、ゲームエンジン「Unity」でレンダリングされた日本の山の頂や、フィンランドの芸術家であるTommi Toija氏のスタジオなど、さまざまな場所に連れて行かれた。スタジオは信じられないほどきめ細かな写真測量法で記録されており、筆者の周りには、リアルな彫刻作品や超現実的な芸術作品がいくつも置かれていた。家具が配置されたリビングルームのデザインはあまりにも高精細だったので、筆者はクッション生地の織り方や質感を確かめようと身を乗り出したが、ピクセルは全く見えなかった。ほんのわずかな角度で、ポリゴンが時折現れる現象があるだけだ。大抵の場合、極めて現実的に見える。VRヘッドセットに付きものの、網目模様が見えてしまう「スクリーンドア」効果は見られなかった。
筆者は、すべてのVRヘッドセットを試したことがあるわけではない。「Pimax 8K」やHPの次期高精細VRヘッドセット「Copper」もまだ試していない。これらのヘッドセットのピクセル解像度は、Varjo VR-1を上回っている。だが、MicrosoftとNokia Researchの元従業員によって創設されたフィンランドのスタートアップ、Varjoが作り出したこのヘッドセットのピクセル密度は、どこよりも優れているように思える。
Varjo VR-1は鏡でそれを実現しており、2つのディスプレイを1つに組み合わせている。ディスプレイの中心部には、視野角1度あたり60ピクセル以上でVRが表示される。Varjoによると、「網膜」レベルの人間の中心窩(ちゅうしんか)の解像度を達成するには、これで十分なのだという。筆者が試したヘッドセットでは、1度あたり63ピクセルだった。Varjoの創設者たちによると、この数値は個体によってわずかに異なることもあるが、すべての個体で60ピクセルを超えるという。参考までに、HTC「VIVE Pro」のピクセル密度は1度あたり約16ピクセルだ。
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