優しい光に照らされた部屋の中で、筆者は「iPhone」を手にテーブルの周りを歩き回り、拡張現実(AR)の謎を解き明かそうとしている。画面に現れるデジタルの登場人物たちが手がかりを示し、殺人事件の犯行現場へといざなう。手がかりをたどっている間、筆者の動きによって、照明や場面、耳に聞こえる音など、周りのあらゆるものが変化する。
動きと位置情報を利用して物語の流れを方向付ける手法は、Peter Flaherty氏が生み出した作品「THE DIAL」の重要な要素の1つだ。Flaherty氏はAR(現実世界の上にデジタルメディアを重ねる技術)とプロジェクションマッピング(物理的な物体に映像を投影する技術)を取り入れたいと考えたが、同氏の物語を伝えるうえで最も重要なテクノロジは、私たちが既にいつも使っているもの、つまり私たち自身の身体である。
Flaherty氏は1月末、サンダンス映画祭の開幕前夜に行われたインタビューで、次のように語った。「自分の身体がインタラクティブな形や没入的な形で入り込めば入り込むほど、その体験は意義深いものになる。こうしたコマンド選択式アドベンチャー(プレーヤーがAかB、経路1か経路2などを選択しながらゲームを進める形態)は私にとってそれほど刺激的なものではない。だが、実際に運動感覚によって体を動かしていると、その世界に入り込むことができる」。
テクノロジを多用した没入型プロジェクトが出展されるサンダンス映画祭の「New Frontier」部門で、THE DIALのような作品はストーリーを進めていく基本的なメカニズムとして、参加者の身体を利用している。クリエイターたちは、参加者に受け身の没入的な体験をさせたり、扱いにくいゲームコントローラを無理矢理持たせたりするのではなく、プレーヤーにとってなじみの薄い技術と、熟知している自分自身の身体を融合させた体験を作り出しているのだ。
クリエイターたちは、ARと仮想現実(VR)を利用したプロジェクトの魅力を高めたいと考えている(これらの技術は以前から話題のトレンドではあったが、依然として消費者への普及は思うように進んでいない)。従来のものと根本的に異なる没入型体験をもたらすというVRとARへの期待が現実となるには、あらゆる追い風を利用する必要がある。さらに、このトレンドによって、私たちはテクノロジが原因で失ってしまった身体的な自己とのつながりをいくらか取り戻せるかもしれない。
「空間コンピューティングと機械学習が登場した現在は、文化的に非常に重要な瞬間だ。(中略)私たちは、自らの身体をテクノロジと人間の潜在的な関係の中心に据え直す必要がある。率直に言って、人々と自分の身体とのつながりが、どういうわけか重要視されなくなってしまった」。そう語るのは、Melissa Painter氏だ。Painter氏もクリエイターで、同氏のプロジェクト「Embody」がサンダンス映画祭に出展された。
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