ところで、上記の決算と前後して、Ahrendts氏に焦点をあてた比較的長い取材記事がVogue Businessに掲載されていた。
John Gruber氏(テクノロジ系ブログ「Daring Fireball」を運営)が「まもなく辞めるつもりの人間の話のようには思えない」などとコメントしていたので読んでみたが、確かにその通りで、現在建設中の米ワシントンDCの新店舗をはじめとしてまだまだすることがある、新しいフォーマットの店舗でやりたいことがいろいろ残っているといった印象も伝わってくる。
ただし、そのあたりの受け止め方は読む人それぞれだろうから、これといった判断の材料にはならない(この記事中には取材が1月に入ってから行われたことを示す、年頭にあったAppleの業績下方修正に触れた箇所はある。Ahrendts氏がこのタイミングで辞めるつもりでいながら、それでも取材を受けた、という可能性も考えられなくはないが……)。
それとは別に、この記事のなかには、「Apple全体の年間売上高(2660億ドル)の約4分の1をリテールが占めている」という大手銀行HSBC幹部のコメント、そして「全世界506店舗の約7万人のスタッフが働く」とするApple StoreについてのAhrendts氏の話も出ている。
ざっと600億〜700億ドル(約7〜8兆円弱)くらい売上高があり、7万人も従業員がいる小売企業というと、日本国内でいえば1位のイオン(約8兆4000円)と2位のセブン&アイ・ホールディングス(6兆400億円弱、いずれも18年2月期)のちょうど中間くらいにあたる。そういう規模の事業を動かせる経営者のポジションを人は簡単に手放したりするものなのか……そのあたりの価値観もやはり人それぞれかもしれない。
勝手な想像をめぐらすと、たとえば「業績不振でApple社内が緊縮財政に急転換し、自分のしたいことが(予算を削られて)思い通りにできなくなったことで、Ahrendts氏が見切りをつけた」とか「Apple Store経由でiPhoneの買い替え促進策をガンガンやる必要が高まり、Cook氏が口出ししてくる場面も増えて、そのことにAhrendts氏が嫌気した」、あるいはもっと単純に「Appleのことは一通り分かったし、目に見える実績もつくったし、それに十分稼いだ(5年間で万事込みこみで1億7000万ドル=約187億円!)から、ちょっとゆっくりしよう」とAhrendts氏がそんなふうに思ったのかもしれないが、いずれも憶測にすぎない。
ただ、ひとつかなりはっきりしたこともある。それは、ここ数年のAppleにみられた奇妙な「高級ブランド(Aspirational Brand)路線」が、Ahrendts氏がいなくなることで終わる、ということ。純金の「Apple Watch」が泣かず飛ばずで姿を消したのももうずいぶん前のことだが、それでもいまだにHermesの革バンドつけて、本体(ハードウェア、ソフトウェア)自体はそう変わらないのに、何倍もするような値段で売られていたする例も残っている。
そんなどこか胡散臭い商売のしかた、あるいはAnna Winter氏(VOGUE編集長、一種のセレブ)を引っ張りこんで云々といったやり方は、そういうものが受けるという想定だった中国市場でのつまづきで「実は大して役に立たない」ことが露見してしまった。別な言い方をすると「高いからいい」「買える人だけが買ってくれればいい」といった本末転倒あるいは勘違いした姿勢は、これでほぼ解消される……そんな期待を抱かずにはいられない。
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