パナソニック津賀社長が話す2030年に生き残る戦略--「くらしアップデート業」がもたらすもの(後編) - (page 3)

テスラは既存の自動車メーカーにはない企業へと成長しつつある

――MaaS(Mobility as a Service)については、パナソニックはどう考えていますか。

 MaaSと一口に言っても、今のクルマを置き換えるような、一般公道を高速で走るMaaSから、スマートタウンや規制された区域において、お客様の身近で、人やモノを運ぶ行為に特化した新たなモビリティによるMaaSまで幅広くあります。MaaSというサービスを起点としたパナソニックの興味は後者です。2018年開催したパナソニッククロスバリューイノベーションフォーラムで、電動モビリティサービスを参考展示したところ、多くの方々に関心を寄せていただき、こんな場所で一緒に走らせたいという具体的な提案をもらっています。

 今回、CES 2019のパナニソックブースで展示した「48v ePowertrain」と「SPACe_C」では、「48v ePowertrainプラットフォーム(駆動部)」の上に、「SPACe_C」というさまざまなキャビン(車室空間部)を自由に載せ替えることができ、さまざまな用途に対応できます。

 パナソニックは上に載せるキャビンに関して、さまざまな応用を考えられる会社です。たとえば、生鮮野菜を運ぼうとすれば、パナソニックが持つコールドチェーンの技術を活用して、小型のコンプレッサーを搭載し、適切に温度や湿度をコントロールできます。また、ガラスを開けても冷気が逃げないような仕組みが必要であり、これもコンビニやスーパーなどに収めているショーケースの技術を活用できます。生活に密着したところで、MaaSに取り組める技術と枠組みが、すでにパナソニックのなかにあります。ここは、自動車メーカーと組まなくてもできる領域であり、さまざまなデベロッパーと組める可能性が高い。社内に、「ラストテンマイル」という組織を作って、新たな領域に展開していきます。

「48v ePowertrain」と「SPACe_C」。「48v ePowertrainプラットフォーム(駆動部)」の上に、「SPACe_C」というさまざまなキャビン(車室空間部)を自由に載せ替えられる
「48v ePowertrain」と「SPACe_C」。「48v ePowertrainプラットフォーム(駆動部)」の上に、「SPACe_C」というさまざまなキャビン(車室空間部)を自由に載せ替えられる
コールドチェーン技術を活用すれば、生鮮野菜などの運べる
コールドチェーン技術を活用すれば、生鮮野菜などの運べる

 その一方で、一般公道を高速で走るモビリティについては、パナソニックが自分ですべてをやることは難しく、ハードルが高いです。この分野では、他社と連携して、一部の役割をパナソニックが担うことになります。その役割のひとつとしてあげられるのがバッテリーです。電動化が進展するなかで、バッテリーのヘビーユースが見込まれ、パナソニックは、バッテリーマネジメントができる強みを切り口に、この領域に臨めます。

――バッテリーにおいては、テスラと協業しています。テスラ CEOのイーロン・マスク氏の発言が同社の株価にも影響していますが、パナソニックとの関係はどうなるのでしょう。

 メディアを通じて、発言などを知ることが大半です。心配ではありますが、それによって、テスラとの関係が変化したことは一切ありません。テスラは、ブランドイメージも、技術力も高く、既存にはない自動車メーカーに成長しつつあります。そして、戦略商品である「モデル3」は順調に売れています。

 もちろん、テスラにとって、これから苦難の道がないわけではないでしょう。たとえば、ポルシェが初のEVスポーツカーである「タイカン」を発表し、テスラから移行しているという報道もあります。しかし、これは、新たな枠組みが認知されたことの証明でもあり、テスラにとって悪いことではありません。チャレンジするテスラを、我々の電池によってサポートするう基本姿勢は変わりません。だが、細かい話では日常的にいつも揉めています。頭にくることもたくさんあるのは事実です(笑)。

成長は中国、イノベーションは米国に軸がある

――一方で、小売分野向けに、パナソニックは、どんな強みを発揮できますか。

 コネクティッドソリューションズ社が、「現場プロセスイノベーション」の切り口から、小売り業界向けのソリューションを提供しています。リテールとロジスティクス、マニュファクチュアリングをつないで、最適化を図り、困りごとを解決しているのが特徴です。

 小売りだけに限られた領域へのアプローチではなく、無人店舗に監視カメラを導入するだけに留まらないのがパナソニックです。コンビニで扱う弁当ひとつをとっても、サプライチェーン全体が大切です。この観点から、RFIDや監視カメラといった商材を活用することになります。

――2019年度が最終年度となる中期経営計画では、利益を重視してきましたが、外から見ると物足りなさを感じます。

 なかから見ていても足りないと感じている。中期経営計画後の3年後となる2021年に、今よりも利益があがるという前提条件を置き、ポートフォリオマネジメントにしっかりと取り組むべき時期にきていると考えています。

 2030年に生き残れる事業であることを前提としたポートフォリオマネジメントをやっていく。これまでポートフォリオマネジメントができていなかったのは、我々が持っている事業の多くが、ある程度の期間で捉えないと、本当の意味での特性や競争環境が見えてこないという背景があったから。今は、それ相当の年数を経て、それぞれの事業の見える化できてきました。その点で、ポートフォリオマネジメントをやるにはいいタイミングに入ってきたといえます。事業領域や地域軸での取り組みだけでなく、全社として「くらしアップデート」という方向に向かうことや、お役立ちの形が固まってきたことで、ポートフォリオを、しっかりとマネジメントすれば、利益率の向上につなげられると考えています。

 しかし、リストラや再編は継続的にやっていくことになるでしょう。事業によっては、我々のなかで継続的にやったほうがいいのか、それとも外に切り出した方がいいのか考えていく必要があり、事業同士を組み合わせれば高い成長性や収益性が得られる領域については再編をしていきます。そのときに、キャッシュが必要だったり、事業の組み替えが必要だったりといったことも起こるでしょう。あまり聖域を設けずにやらないと、今の状況からは大きく変化できない。オーガニックに成長するならば、今までとは、何を変えていかないのか、ということを明確にしていきます。

――米国と中国に新たなカンパニーを作られますが、この狙いを教えて下さい。

 これまでのカンパニーは、自動車や住宅、家電、サービスといったように、産業ごとに作ってきた経緯があります。一方で、どこに成長があるのかという観点で地域軸を見た場合、中国に成長性があります。そして、どこにイノベーションがあるのかという観点で見れば、それは米国で起きています。

 今までのカンパニー制や事業部制では、成長性とイノベーションの変化に対応しきれません。そのリスクをヘッジするのが、新たなカンパニーの狙いです。中国においては、事業部制の枠を変えて、複数の事業が一体となり、中国市場の大きな成長に向き合うことになります。具体的には、アプライアンス社とエコソリューション社の領域を中心に大括りにします。中国と日本の暮らしは、半分は似ているが、半分は似ていない。これをブリッジすることが、中国と日本のビジネスにとってプラスに働くと考えて、暮らしを軸に新たなカンパニーを中国に立ち上げます。また、中国における知財への対応も重要です。中国語で出願されている知財への対応が遅れるリスクがあり、これをカンパニーレベルで強化することが必要だと考えています。

 その一方で、米国は、日本とは暮らしぶりが異なり、しかも、パナソニックは、メジャーアプライアンスもやっていません。しかし、テスラとの取り組みや、新たなモビリティ、デジタルを活用した新たなサプライチェーンマネジメントといった点では、米国を主体に物事を見て、パートナーを探していかなくてはなりません。今、テスラとの協業のために数100人が張りついていますが、こうした協業スタイルは長続きしない。こちら側に、米国人が中核になって、自分たちの事業としてやっていく体制が整わないと、米国でのイノベーションに追随できないでしょう。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]