パナソニック津賀社長が話す2030年に生き残る戦略--「くらしアップデート業」がもたらすもの(後編) - (page 2)

AIをどう使うのかが、大きな価値を生む時代になる

――パナソニックは、AIや5Gで技術的優位性を発揮できますか。

 技術とは、誰がやっても同じような結果が出るものではなく、専門性や希少性が高く、その結果、優位性があるものを指します。技術の優位性という意味では、他社がやらない領域に踏み出し、それによって戦えることが本質です。希少性の高さがあり、そこに応用性が加われば、優位な技術になります。

 そうした観点から見た場合、AIは優位性が発揮できる技術なのでしょうか。これだけ多くの企業がAIをやり、AIをやるためのツールがあり、ディープラーニングは誰でもができる環境が整っている。むしろ、AIをどのように使うのかの方が、大きな価値を生む時代になっていると認識しています。パナソニックは、AIベンチャーを買収したり、AIを使える技術者を意識して育成し、増やしていますが、今後、AIが柱となって、技術としての優位性を発揮できるとは考えていません。AIは、当たり前に使えなくてはならないひとつのソフトウェアツールの位置づけでしかない、というのが私の捉え方です。

 一方、5Gについても、何に使うのかという領域の話であり、技術の優位性で勝負する領域ではありません。クルマがコネクテッド化するなかで、低遅延の通信が必要になる場合には5Gが適していますが、アンテナ技術やチップセットがあれば大体のことができてしまいます。チップセットは買えますし、アンテナ技術は、最近はさび付いている部分はあるかもしれませんが(笑)、パナソニックのなかにあり、ブラッシュアップすればそれなりのものになるでしょう。

――パナソニックは、自動車業界におけるメガサプライヤーを目指しているのでしょうか。

 既存の自動車産業のメガサプライヤーを目指すのか、それともCASEに代表される新たな自動車産業のメガサプライヤーを目指すのか。これは別のものであると思っています。既存のクルマのメガサプライヤーとしては、我々に欠けていた部分があります。それは、コミュニーション能力が足りなかった点です。

 日系の自動車メーカーとは、日本語で十分にコミュニケーションがとれ、事業がうまくいっています。しかし、欧州の自動車メーカーとはドイツ語で話し合える人が意思決定をしたり、プロジェクトをリードしたりといった体制の確立が難しく、そこに課題がありました。

 既存のクルマのように、すりあわせが重要な領域では、技術力や価格競争力だけでなく、コミュニケーション能力があるかどうかが、メガサプライヤーになることのひとつの要素になる。たとえば、ソフトウェア開発がものすごく増えており、何をやるにもソフトウェアを開発する必要であるなかで、それをいい加減なコミュニケーションのもとでやってしまうと、ロスが生じる。実際に、パナソニックは、そうしたことを経験してきました。この課題に対して、パナソニックが買収したスペインのフィコサは、欧州の自動車メーカーと伍して仕事ができる環境が整っている。

 パナソニックは、日系自動車メーカーに対しては、メガサプライヤーになりたいと考え、その道を歩んでいますが、欧州系や米国系自動車メーカーに対しては、そうともいえません。だが、米国系自動車メーカーは変わろうとしている姿勢が強く、デンバー市において、V2X(vehicle to X)の取り組みを、パナソニックと一緒に行っているフォードの場合、自らが従来の自動車メーカーではないということを宣言しています。そうした新たな形での協業は模索していきたいと考えています。

 一方で、UBERやWaymoといった新たな枠組みを標榜する将来のモビリティプロバイダーに対して、パナソニックは、どんなメガサプライヤーとしての役割を果たせるのかということも考えていかなくてはなりません。これは、今後の重要な要素になる。日系自動車メーカーを中心につきあいつつもの、新たなモビリティ業界の方々に対して、どんな連携が取れるのかが重要になっていくでしょう。ただ、この産業自体はまだ大きくはないが、モビリティプロバイダーの成長率が、高い点には注目しておかなくてはならないでしょう。

 既存のメガサプライヤーになってもシュリンクするだけです。しかし、新たな領域に行こうとすると、パナソニックが、アップデータブルな姿勢を持っていることをもっと打ち出さないと採用はされないでしょう。

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