香港で行われる世界最大規模のエレクトロニクス展示会の一つとして、「香港エレクトロニクス・フェア」がある。毎年10月と3月の年2回、香港の政府系機関となる香港貿易発展局(HKTDC)が主催し、28の国と地域から3300以上の出展企業が香港の中心地に集結する。
2018年は、両フェアで139の国と地域から8万7000人以上が来場した。特に秋に行われたフェアでは、6万3500人が訪れたという。多くのバイヤーが訪れるこのフェアは、出展者と参加者の双方に大きなビジネスチャンスがある。ほぼ同時期に香港では「Global Sources Electronics」(Global Sources主催)のトレードショーも開催されており、両方を回る人も多い。
多くのバイヤーは、こうした展示会をめぐり、数ある製品をチェックして自社で採用したい、あるいは販売したい製品を見つける。また、一緒に製品開発をしてくれる工場を探せる場でもある。中国のシリコンバレーとも言われる広東省深センの工場が数多く出展しており、香港からのアクセスもいいため、工場見学も兼ねられる。9月には香港と広州を結ぶ高速鉄道が完成し、約15分で到着できるようになった。
そうした背景から、日本からも香港の展示会に訪れるバイヤーは多く、人気キャラクター「ダンボー」のモバイルバッテリー(cheero)やスマートフォンケース「RAKUNI(ラクニ)」などの製造販売を手がけるトーモ 代表の東智美さんもその一人だ。東さんは、香港エレクトロニクス・フェアに数年前から訪れているという。東さんはなぜ香港に足を運び、どのように会場を見るのか。聞くと、モノづくりをする上で必要なヒントが見えて来た。
実は、毎年1月にラスベガスで行われる「CES」と合わせて見ることで、よりリアルなトレンドが見えてくるという。CESは、世界最大の家電見本市として知られる。50年の歴史を持ち、最新テクノロジの発表の場として、業界関係者が注目している展示会だ。その年のデジタル業界動向を占う場とも言われる。
「CESは新しいものを発表して、次のトレンドを見せるイメージ。それに対して香港の展示会は、1月のCESで示されたコンセプトが次の10月にはマーケットに納入できる完成度で形になり、出て来始める」(東氏)
具体的にはどういうことか。「たとえば、2018年のCESでは、スマートシティ構想やモビリティ構想が目立っていました。特にSamsungやLGが出していたような、家の家電などをすべてをコネクテッドするというというものです。CES Unveiled(開幕に先駆けて行われる展示イベント)などで出てきてた、スマートミラー。あれは、家の中のセンサが集めてきた情報を、インターネットを通して、鏡に映し出すというものですが、ディスプレイを見る=いままでテレビやスマホの画面だったものが、鏡に変わるということ。さまざまなモジュールやセンサがラインアップされていて、それをどう組み合わせますか、という状態になっている」と説明する。
多くの人は朝、起きて洗面台に立ち、鏡を見る生活だろう。その鏡を見たときに、今日の天気やニュースなどが映し出されるようになっており、もちろん鏡はタッチパネル対応で指で操作できるのだ。
「スマート体重計に乗ったらそれもデータとして蓄積される。鏡に体重が表示されて、ヘルスケアの管理をしたり、音楽を鳴らしたり、家の管理もそこでできたりして、ディスプレイのひとつとして鏡がある。CES 2018のUnveiledで出していたものはコンセプトでまったく機能していなかったのですが、かなり人が注目して見ていました。ですが、今回の香港エレクトロニクス・フェアでは、かなりスマートミラーがでていましたね。半年以上の時を越えて、実装されたものがでてきてくる。バイヤーや小売りをやっている会社、ファブレスメーカー、代理店などが製品を見つけ、自分たちの売りたいモノや作りたいモノを決めて交渉し、マーケットインするという流れです」(東)
製品を作ったり準備したりするには、1年程度はかかるという。そのために、なにをいつマーケットに投入するか、“目利き”が必要になってくる。
「CESと香港のイベントの両方を見ておいた方がいい理由は、CESで“いま作ろうとしているトレンドはこれなんだ”、と感じる。そしてそれを中国の展示会で再確認できるからです。バイヤーは別に新しい技術を導入したいわけじゃなくて、売れるモノを買いたい。だからCESからの半年〜1年の間にどのように世の中のトレンドが変わっているか、マーケットを見つつ、新しい技術のどの部分を取り出せば売れるものが出せるかをそれぞれの知見で考えるんですね」(東)
「香港の展示会にはスマートミラーのような先進的なものもあれば、今すぐ売れるモノ、半年後に売れるぐらいの新しい技術もたくさんある。ちょっと古いぐらいのほうが、テストを繰り返してこなれてくるので、モノをつくって売るという意味では非常に最適化されていると言えます」(東)
例として東さんはスマート電球「Hue」を挙げる。「Hueが出始めて、一部ではこれはおもしろい、スマホで操作ができると話題になった。でも、スマホで操作できるというだけでは、『だから何?』という感じだったけれど、近年いろいろなメーカーがスマート照明を作り始めて、スマートハウスをつくるための一つのパーツとしてスマート照明という位置付けになっています。Hueのように単体ですごいという商品ではなくて、スマートホームのパーツの一つとして定着するものに変わりつつある。それをコントロールするのは、音声でコントロールできるスマートスピーカーです。会場を見ていると、1年後〜2年後にはそれが当たり前になる可能性が高い」と分析した。
4月と10月の展示会に違いはどの程度あるのか。「前よりもQi(ワイヤレス充電)が増えた、とか4月にはスマートミラーが今回ほど出てなかった、という多少の違いは感じます。こうして10月になって出てきたところをみると、これまでは作っていたのかな、というように定点観測していると見えてくる。バッテリーに関して言えば、4月にきたときはグラフェンという新素材(炭素原子の層でできたシートで、強さは鋼鉄の100倍)のバッテリーを展示しているところがいくつかあったのですが、今回それは全く見られなくて、やっぱりグラフェンを市場に出すには合理性がなかったんだなと想像しています」(東)
CESは多くのプレスもこぞって訪れる。CESがメディア受けするのは、世界初、最先端のテクノロジーが数多く出てくるからだ。それに対し、実際にどうマーケットに落とすかを真剣に考えている人が集まるのが、香港のトレードショーなのである。
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