モバイルの台頭と並んで、近年のマーケティングに置いてますます比重が高まっているのがCRMである。顧客の情報を接点の違いに関わらず統合管理することで、長期的な取引関係性の維持であったり、製品・サービスの継続利用を促そうという発想だが、当然、顧客1人1人の行動をピンポイントで把握する必要も出てくる。まさにワントゥワンマーケティングの発展系と言えよう。
顧客の意識も、かつてと変わってきている。平田氏が「ブランドを毀損する可能性すらある」とまで警告するのは、「すべての顧客に同じメッセージを送る」こと。「メールでもLINEでもプッシュでも、どれでも同じだが、顧客リストに載っている客全員に同じメッセージを送るのは今すぐ止めるべき。全員に送れる内容というのは、どうしても最大公約数的になってしまい、読む側からするとどこか他人事に捉えられてしまう」(平田氏)
サービスの利用度、ユーザー属性などに応じてマーケティングメッセージを1人1人変えることは、最早当たり前になりつつあるという。
技術進歩という要因はあるにせよ、なぜCRMがここまで実践されているのか。平田氏はその理由として、日本市場の構造の変化を挙げる。成長市場であればどの業界でも基本的には新規顧客の獲得競争が激化する。設備投資をし、新製品を投入し、広告を出す。結果、新規顧客を1人獲得するためのコスト単価は上がっていく。
さらに、日本はすでに人口減が始まっており、市場的に頭打ちな状態とみなされている。そこでは、新規顧客の獲得コストよりも、既存顧客からのリピート受注のためにかけるコストの方が安い(経済効果が高くなる)と考えられる。
一般的に、500万円の予算でアプリの宣伝を展開し、1万人にインストールされたとする。計算上、新規顧客獲得の単価は500円だ。平田氏によると、一般的にアプリの1カ月後の利用継続率は15%なので、この場合は1500人の優良顧客を得たことになる。
一方、Reproを導入した全企業の実績を見ると、継続率が平均5%改善したという。先ほどの例で言えば、継続率は20%となり、同じ広告予算であっても500人分顧客が増えたことになる。顧客基盤が大きくなれば、もちろん収支は向上する。顧客志向型のマーケティングを実施すれば、顧客満足度が上がるだけでなく明確な投資効果改善に繋がるからこそ、CRMが重要なのだと平田氏は強調する。
ここで平田氏はCRMの先進事例をいくつか紹介した。米国のスターバックスでは、店舗近隣にいるユーザー向けにアプリ経由でクーポンを配信しているが、来店頻度、過去に購入したメニュー、天候などの情報をベースに高度なパーソナライズを実施している。
加えてアプリ内で事前決済できるため、客は店に足を運んですぐにコーヒーを受け取ることができる。スターバックスはこの施策によって収益が12%向上したという。
米国の高級服飾店チェーンであるBARNEYS NEW YORKは、POSレジやECサイトなどで得られる顧客データを統合管理。例えば、ウェブで赤いコートの商品ページを閲覧していたユーザーがリアル店舗に訪れた際、店員は支給されたタブレットを通じて、ウェブでの閲覧データや購買履歴をもとにした趣味趣向データを確認することができるという。これにより、個別接客による売上は40%向上した。
CRMを実現するためのツールとして、最も良く知られているのはDMPだ。顧客名簿やアンケート結果など、社内外に散逸しているデータを1つにあつめ、データベースへ格納。これを必要な時に引き出せるのがDMPの役割だ。
ただ平田氏は「皆さんのマーケティング投資が失敗してほしくないので言うが、DMPはオススメしない。もしDMPを導入して成功している企業があったら直接インタビューに行きたい」と断言した。
平田氏によれば、DMPとはつまるところサーバーでしかない。サーバーに収蔵すべきデータの選定、あるいはデータの成型には、結局ベンダーやコンサルティング会社の力を借りざるを得ない。サーバー構築費以外に、まずこの要件定義だけで数千万円のコストがかかるという。
これだけでは終わらない。今度は、マーケター側がどのようにDMPを使いたいかの策定、それに伴うロジック開発も必要になってくる。そこで半年かかり、いざメール、LINEなどでマーケティングメッセージを送るとなると、今度はそれらの送信システムとDMPを接続するための開発も発生する。対処するうちに予算が尽き、担当者も転職してしまう……というのが“あるある”だと平田氏は明かす。
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