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美少女ゲーム業界の敏腕キュレーターが語る--クラウドファンディング国内最高1.3億円超えの舞台裏 - (page 5)

佐藤和也 (編集部)2018年12月05日 16時00分
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MUSICA!の開発プロジェクトで、終了1週間前に支援が急増した理由

ーー今回のMUSICA!開発プロジェクトにおけるクラウドファンディングについて、まず率直な感想を教えてください。

 そもそもクラウドファンディングに取り組み始めた5年前から、最大の目標は新作ゲームの開発資金をクラウドファンディングで調達できるようになることでしたから、それがかなったのは本当にうれしいです。また、顧問になってからCAMPFIREでは1億円を超えるプロジェクトがなかったですし、ファンを巻き込んでひとつのことにあたるという、CAMPFIREらしさを出したプロジェクトを1位に乗せられたのは大きいです。

 今回1億3000万円という形で出ましたけど、これがひとつの基準になるわけで。これによってほかのプラットフォーム含めて1億円クラスのプロジェクトがさらに出てくるようになると、クラウドファンディング市場が広がって、人口が増えていくでしょう。その牽引がわずかでもできたんじゃないかなと。もちろん、いつかは抜かれるものだと思うので、気分は明智光秀のような状態ですね(笑)。

ーーそもそも制作のきっかけはなんでしょうか。

 (OVERDRIVEが2007年に発売した)「キラ☆キラ」のシナリオを担当した瀬戸口(※美少女ゲームのシナリオライターとして活動している瀬戸口廉也氏)が、業界から離れていたんですけど、一昨年ぐらいからまた戻ってきたことです。そして彼がシナリオを書いてくれるのであれば、新作ゲーム開発のクラウドファンディングも成立しやすいだろうという腹積もりは、内心ありました。それから1年はシナリオを先行して書いてもらったり、ゲーム制作の体制を整えていたんです。

「MUSICA!」特設サイトより。バンドをテーマにした恋愛アドベンチャーゲーム。2019年夏発売予定
「MUSICA!」特設サイトより。バンドをテーマにした恋愛アドベンチャーゲーム。2019年夏発売予定

ーークラウドファンディングの準備では、設定資料だけではなく、実際に触れられるアルファ版も公開しました。

 ゲーム開発のクラウドファンディングでは、よくイラストや世界観などの設定資料を提示しますけど、なんか違うなと感じたんです。ゲームであれば、実際にちょっと遊べるぐらいまでは作って、この続きを遊びたいのであれば支援してほしいというぐらいが、バランスとしていいのかなと。過去作の素材があるので、それを活用して「こういう物語で、プロトタイプも作ったけど、実際に触ってどう思う?面白かったらちゃんと作るから支援してよ」という関係に持っていきたかったんです。

ーーそのアルファ版も、200万円ぐらいの製作費をかけたと伺ってます。

 それで遊んだ方が支援しないと判断されるのであれば損切できるわけで、見直しがかけられますし、その判断材料にもなります。今回は絶対に制作するべく資金も作っていましたし、本当に納得のいくものにしたかったので、そのぐらいのことはします。

 あと実際に公開してわかったこともあって。もうPC向けにクライアントソフトをインストールして遊ぶということ自体が前時代的なんだと。若年層だとPCを持たずにスマホだけという人も少なくないということがわかったので、スマホでも体験できるようにウェブ上で遊べるHTML5版も制作しました。今後はアプリ版も考えないと思いましたし、やる意味はありました。

ーープロジェクトが開始されたら、30分でサクセスしました。これまでのお話だと想定通りのように思いますが、いかがでしょう。

 いや……ここまでいろいろ言ってきましたけど、他社のプロジェクトは意外と冷静に見られるのですが、自分のときは冷静じゃないんです。さすがに目標金額の約4000万円は自分のプロジェクトで手掛けたことのない金額だったので、1カ月はかかると思ったのが正直なところです。

 1年以上仕込んで、ファンともかなり議論をしてきたのですけれども……油断ではないですけど、ファンをなめてましたね。これだけ手掛けていても5分で1500万円を超えたときには、何かの間違いだと思ってCAMPFIREに問い合わせたぐらい。30分で4000万円を超えたときには変な声がでました。

 今回は期間も設定日数のマックスである80日に設定して、そのための広報プランも考えていたんです。だからサクセスしたときは嬉しかったのですけど、次の瞬間にそのプランが全部パーになってしまって、そっちのほうが精神的にきました(笑)。

ーーリターンには69万円のものも用意されていましたが、これもあっという間に支援者で埋まりました。

 ここに価値を感じてくれる人がいたことがありがたいですし、信じてくれている方には、その価値以上のものを感じてもらえる接待をしようと思っています(※さまざまなアイテムのほか「完成の宴in浅草参加権」や、マンツーマンによる浅草接待が用意されている)。

ーープロジェクト終了1週間前となる、10月10日の夜に1億円を超えましたが、最終日ではないにも関わらず、この日は急激に支援が増えました。

 いくつか理由があって、まず友人の鷲崎(※アニメ関連のイベント司会やラジオパーソナリティ、ミュージシャンとしても活躍している鷲崎健さん。「鷲崎健 4thアルバム&1stワンマンライブ 実現プロジェクト」で、bamboo氏がキュレーターを務めた)がラジオで取り上げてくれたのです。そうしたら彼のファンの方がプロジェクトのことを知ってくれただけではなく、以前手掛けたプロジェクトのお礼にと、支援してくれたんです。さらにお昼ごろには緒方さん(※前述した緒方恵美さん)も支援を表明してくれて広まったこともあります。

 そして夜に雑談のような生配信をしてたのですけど、その翌日がセンチ20周年プロジェクトの開始日で、なんとなくそのタイミングで1億円に届きそうな雰囲気があったのです。そこでも生配信を予定していたのですけど、さすがにほかでキュレーションしているプロジェクトの配信中に、自分のプロジェクトを祝うわけにもいかない……ということを話題にしたら、それが伝わったのか、同業他社の関係者や友人、業界の仲間たちが一気に支援を表明してくれたんです。ヒーローマンガで言うところの、ラスボス前にこれまで一緒に戦った仲間が再集結みたいな展開でした。あれは全然予想もしていなくて。

1億円を突破したときの配信より
1億円を突破したときの配信より

ーー自分も配信と動向を見ていましたが、なんだか最終日と錯覚するような勢いで支援額が増えていきました。

 もう本当に何も準備していなかったので、CAMPFIREのスタッフも徹夜で対応してくれました。結果的に、プロジェクトページのビュー数は初日以上になってましたね。その翌日からの支援金額は下がるかと思ったのですけど、その日以降も1日200万円ぐらいの支援が続いて、最終日で1600万円の支援がありました。うちのプロジェクトは、ほかから見ると特殊すぎて全く参考にならないような気がします。

 振り返ると、僕らは真面目に取り組んでいるんですけど、ファンはこのプロジェクトを通じて、祭りのように盛り上がってクラウドファンディングを遊び場のように使って楽しんでいたんです。支援の履歴を見ると端数調整をしているようなあともたくさんありましたし。最終日にニコニコ生放送で配信していて、最終的な金額の下4桁が2525円になったのは全くの偶然なのですが(笑)、それもネタになるぐらいだと。

 ただプロデューサーの立場としては資金調達をクリアしましたが、あくまでちゃんとゲームを作って、支援者に支援して良かったと思ってもらわないと、本当の成功ではありません。5年前にもお話しましたが、クラウドファンディングはあくまで信用の前借りですから。そして集めたお金で何をするかだと思うので、そこだけは間違いないようにしようと思います。

目標は100件担当して累計10億円。でも本業は“ロックスター”

ーー最終日の配信のなかでは、国内最高額になったことは、以前在籍していたスタッフへの恩返しというお話もされていました。

 かなり支援してくれたので嬉しかったです。決して儲かっている会社じゃないし、こんな格好してますからね(笑)。それでも付き合ってくれたスタッフがいたわけで。彼らとは別の道を歩んでいますけど「前にいた会社が日本一になった」と自慢できるぐらいのことになれば、僕と一緒に働いてくれたことのささやかなお返しになるかなと。

ーー周囲の反応や反響はいかがでしょうか。

 大きかったと素直に思います。古い商習慣からは考えられないようなことをやっているので、同業他社の目から見てどうなんだろうと思ったところもあったんです。ただ、同業他社のいろんな社長から、2018年の美少女ゲーム業界で一番ポジティブなニュースと言ってくれたのが良かったなと。でもうちでここまでできるんだから、もっと人気があって、ファンが付いているところが研究して活用すれば、いろんなプロジェクトが生み出せると思います。

 でも、今回こういう形で目立ってますけど、ハッキリ言っておきたいのは、儲かっていれば使う必要はないですし、クラウドファンディングを使わずとも、予算をとって納期を外さずゲームを開発して、何万本も販売して売り上げを立てているメーカーのほうが偉いです。僕らのやっていることは、インディーズ的なやり方でもありますから。ただやりたいことに対するアプローチは、バリエーションがあっていいと思います。そしてそれを許容しているのが、美少女ゲーム業界のいいところでもあります。

 取材の打診もたくさんありました。それはクラウドファンディングを通じて時事性や話題性を作り出したからこそで、それもメリットかなと。ここを見ている方のなかには、かつて美少女ゲームを楽しんでくれていて、でも今は離れてしまっている人も少なくないと思っています。そういう人たちに、まだまだ俺たちは頑張っている、面白いことをしているのが伝わればと思います。

 あと周囲に対してという意味で、国内最高になったことは市場にはびこるクラウドファンディングのコンサルに対してドヤ顔ができるかなと(笑)。自分のやり方がすべてだとは思わないけれども、コンサルとして教える立場ならば、それなりのプロジェクト数と8桁レベルの調達実績を積んでほしいと言いたい。得てしてトラブルなどには対応できないことも多いと思うので、ぜひ日本一のキュレーターがいるCAMPFIREへどうぞと伝えたいです(笑)。

ーー目標であった新作ゲーム開発の資金調達がサクセスして、しばらくはMUSICA!の開発に力を注ぐと思いますが、それ以降、クラウドファンディングとはどのようなスタンスで関わっていくつもりなのでしょうか。

 この先何があるかわからないですし、失敗することもあると思っているのですけど、使えるツールだと思って研究をしていることですから、キュレーションは続けるつもりです。目標は100件を直接担当して、累計10億円ぐらいの調達。これぐらいできたら、もう少しみんなが信用してくれるかなと。ゲームは一旦看板を外しますけど、クラウドファンディングはひとつの武器、生き方に対して使えそうなツールとして向き合っていきたいと思います。

ーークラウドファンディング以外での、ご自身の目標はありますか。

 日本武道館でライブに決まってますよ。バンドマンであれば目指すのは当然だし、まだあきらめてないので。そもそも本業はキュレーターではなくミュージシャン、ロックスターですから。

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