Fordの自動運転車に関する意図をうかがい知るには、2017年にArgo AIに10億ドル(約1130億円)を投資したという事実だけで十分だ。Waymoの1750億ドル(約20兆円)という脅威の企業評価額と比べればささやかな額かもしれない。だが、ペンシルベニア州ピッツバーグに拠点を置くスタートアップArgo AIに10億ドルを投じたのは、いよいよ自動運転車の真価が問われる今、Fordが積極的に競争に加わろうとしていることの表れだ。
Fordは長年にわたり各地で、さまざまな自律システムのテストを重ねてきた。ミシガン州にある、本物の街を模した試験施設「Mcity」での大規模な取り組みもそのひとつだったが、同社と、今や過半数の株を所有するArgoが自動運転車によるカーシェアリングプログラムを実証するモデル都市として選んだのは、フロリダ州マイアミだ。そこで、現状がどうなっているのか確かめるために、筆者もその地を訪れることにした。
Fordが現在、自動運転のプラットフォームとして使っているのは「Ford Fusion」で、その車体の上には「帽子」がのっかっている。Argoが好む印象的な言葉で言うなら「ティアラ」というところだが、ともかくそのかぶり物の中に、周囲を認識する一連のセンサが搭載されている。複数のカメラもそこに並んでいて、周囲のあらゆるものに目を光らせるために、視野を重複させ、さまざまな焦点距離を組み合わせてある。
センサ群の上にあるのが、1対のVelodyne LiDARスキャナで、回転して測定しながら3Dのポイントマップを作成する。それに加えて、車内にはレーダースキャナが設置され、適応型の走行機能を補強している。
こうしたシステムからの入力は全て、トランクいっぱいのコンピュータに送られる。これを確認できる機会はなかったが、車体の後方1~2m以内に立ってみれば、コンピュータが積まれていることはすぐに分かる。そのくらい、熱気のかたまりが立ち込めるからだ。これなら、後部座席の暖房の心配はない。11月の気候なら各地で歓迎されそうだ。当のマイアミを除けば。
11月でも、フロリダ南部は気温が30度を超え、まとわりつくような蒸し暑さだった。幸い、ほぼ決まって日中にはにわか雨が降って、いくらかしのぎやすくなる。一見したところ、自動運転車のテストに適した土地とは思えないが、そのことが逆に好条件になっている。
マイアミは、運転するには厄介な街だと言えば十分だろうか。常に工事中で渋滞がひどく、歩行者は通行権を好き勝手に解釈している。その様子を、フロリダ州選出のJeff Brandes上院議員は、「(スキーでいう)最難関コースのような都市」と評している。Fordのモビリティ部門プレジデントMarcy Klevorn氏による遠回しな表現によれば、「学習と経験をたっぷり積める」街ということになる。人にとっても4輪のロボットにとっても、まさにそのとおりだ。
私たち人間は、ほかの人間の意図を瞬時に読み取る能力が極めて優れている。人間が運転しているとき、道路を逆方向に走ってくる自転車があったら、どちらも必要な回避行動をとるだろうとまず安心できる。では、顔も心も持たない自動運転車から、同じような安心感をどうやって得るのか。
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