混雑した道路を左折するとき、Fusionがすき間を縫うように急加速したことがあった。十分に安全で余裕もあったが、ちょっと緊張して身構えてしまう動き方だったのは確かだ。それどころか、Fordの自動運転車に試乗した何回かの機会のうち、人間の運転手に介入されたことは4回もあった。そのうち何回かは、かなり唐突だった。ルート逸脱は毎回、問題なくスムーズに処理され、追突を避けるためにブレーキがかけられた。
ただ、特に難しかったのは、2車線の道路で右側を歩く気まぐれな歩行者がいたときだった。10秒ほどは、後ろをついて走る。普通ならもっと早く追い抜くところだろう。そして、歩行者がおおむねそのまま直進するだろうと判断した時点で、ゆっくり歩行者を追い抜いて、もとの走行に戻った。
1ブロック進んだところで渋滞にはまると、堂々と車線を歩く先ほどの歩行者に先を越されてしまった。未来の車より、歩いたほうが速いことがあるという実例だ。
Fusionの動きは、もちろん完璧だったわけではない。左車線に合流しようとしたとき、混乱したこともある。ふらふら動いたあげくに停車し、むなしく方向指示器を光らせるだけだった。最終的には、セーフティオペレーターが運転を引き継ぎ、なんとか合流した。道路のくぼみや水たまりも、マイアミではあちこちにあるのだが、検出できない。そうした路上の障害を何度も越え、しかも前述したように急発進と急停車を繰り返すので、いくらか吐き気を覚えるほどだった。それも、たまたま飛ばし屋のタクシーに乗ってしまったときとも違う酔い方だった。
このように、Fordの自動運転車は、今のところ完璧にはほど遠いのだが、それも予想と違っていたわけではない。Fordは、システムのリリースが2021年以降になると公言しているし、それを考えれば、Fusionの走りはむしろ、思っていた以上に完成度が高かったとも言える。
とはいえ、自動運転車の開発を競争ととらえ、自動運転システムを一般ユーザーの手に届けることを最終目標と考えるなら、真っ先にゴールにたどり着くのは間違いなくWaymoだろう。それでも、市場投入の時期について筆者がFordのCEO、Jim Hackett氏にたずねたときには、同社のビジョンはもっと先を見据えていると明言している。そして、もっと重要なことに、重点を置いているのは技術ではなく人だという。
「勝ち残るのは、正しい設計だ。創業者のHenry Fordは、それを実証した数少ない人物だった。CommodoreやCompaqがどうなったか思い出してみてほしい。Nokiaはどうなったのか。そういう歴史から学ぶのは、人間を中心とする設計が生き残るということで、私はそのようにしてビジネスで鍛えられてきた。人間を中心に据えた設計が普及につながる。その点をわれわれは正しく実現しなければならない」(Hackett氏)
言い換えるなら、自律システムの技術で肝心なのはニューラルネットワークを鍛えることではなく、人々のニーズに応えることだということになる。そうだとすれば、自動運転車に求めるものも分かってくるだろう。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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