インターネットは日常生活に欠かせない存在になっている。Tim Berners-Lee氏がウェブを考案し、皆がウェブを利用して情報を共有するのを容易にしたからだ。それから28年が過ぎ、個人情報の大部分が、Amazon.com、Facebook、Googleといった大手企業に支配されている。Berners-Lee氏は、個人のデータを個人の手に戻したいと考えている。
Berners-Lee氏は、新しいオープンソースプロジェクト「Solid」によってそれを実現しようとしている。人々は、個人情報が大手企業に保持されることに嫌気がさしている。AppleやFacebook、Googleなどでわずか数週間のうちに、プライバシー関連のスキャンダルやセキュリティホールが次々と発覚しており、個人情報の保護に関してそうした企業を信用できなくなっているのは明白だ。
自らの情報を保護するためにできることはたくさんあるが、そうした手段には、信用できない第三者の手元にデータを保存するという基本的な問題が残されている。
Berners-Lee氏は次のように書いた。
私はウェブが皆のためにあるといつも信じてきた。だからこそ、私と他の人々はウェブを守るために激しく闘っている。われわれがもたらした変化によって、世界は良くなり、つながりも増えた。だが、良いことを達成したにもかかわらず、ウェブは不平等と分裂の原動力に進化してしまった。自らの計画のためにウェブを利用する強大な勢力によって、進む方向を変えられたのだ。
今日、われわれは重要な転機に達していて、より良い方向への力強い変化が可能であり、またそれが必要だと、私は信じている。
Solidの目的は、「ユーザーが知覚価値と引き換えに、個人データを大手デジタル企業に渡さなければならない現行モデル」を変えることだ。「われわれがみな気づいているように、これはわれわれの最善の利益となっていない。Solidは、バランスを取り戻すためにウェブを進化させる仕組みであり、われわれひとりひとりが、個人情報もそうでないものも、データを革新的な方法で完全に管理できるようにするものだ」(Berners-Lee氏)
Solidは急進的な新しいプログラムというわけではない。「Solidはモジュール仕様のセットであり、WWW(HTTP、REST、HTML)の基礎技術を発展させ拡張するものだ。これらの仕様は既存のウェブと100%後方互換性がある。各仕様が個別に使われる場合は、既存のシステムに機能を追加する。一方で、仕様が併用される場合は、ウェブサイトやアプリケーションに斬新な能力を実現する」(Solidのウェブサイト)
Solidの仕様がもたらす大きなメリットは、ウェブが協業的な読み書きの空間になり、インターネットサービス事業者からユーザーに管理能力が移ることだ。Solidの導入によりユーザーは、個人データやウェブに投稿するあらゆるものについて、書き込み、読み込み、アクセス管理を行えるようになる。プライバシーは、ウェブACL(アクセス制御リスト)仕様を用いて管理される。
ウェブACLは分散型システムであり、ユーザーやグループが、HTTPのURIによって認証されるリソースにアクセスすることを可能にする。ユーザーはWebIDによって、ユーザーグループはユーザー群のURIによって、それぞれ識別される。この仕組みにより、いずれかのサイトにホストされているユーザーであれば、他のサイトにホストされているグループのメンバーになれる。
「Solidは、『データによって個人に権限を付与する』原則に従う。われわれは、この原則が次世代ウェブの成功に必須であり、データがわれわれひとりひとりに権限を与えるべきだと確信している」「Solidがあれば、個人がデータを取り扱う範囲が大幅に広がる。どのアプリがデータにアクセスできるかを、自分で決定するようになる」(Berners-Lee氏)
現在、Solidはフレームワークだ。Solidは今後、「革新的で信頼された、有益なアプリケーションやサービスを構想し、構築し、見いだすまったく新しい手段で、個人や開発者、企業に力を与える」ものになるとBerners-Lee氏は考えている。
Resilient Systemsでかつて最高経営責任者(CEO)だったJohn Bruce氏が、Solidを運営する企業InruptのCEOを務める。Bruce氏はブログにこう書いた。「Solidは、オープンソースプロジェクトによくある試練に直面してきた。それは、注目を集めようと競い合いながら、真の可能性を実現するのに必要な資源が不足するというものだ。解決策は、会社を設立して、Solidが約束するものを実現するためのリソース、プロセス、適切なスキルを確保することだった」「Inruptが目指すのは、Solidがウェブを織りなす一部になることだ」
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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