サービス開始から4年半で全世界の800万人以上に毎日利用され、年間計上収益が3年で200億円を超えた企業をご存じだろうか。ビジネスコラボレーションハブ「Slack」を提供するSlackだ。なぜ、同社はこれほどの急成長を遂げることができたのか。
9月13日に開催された「CNET Japan Conference 2018 ビジネスコミュニケーションツールセミナー」において、「世界最速で成長し続けるSaaS企業のコミュニケーション手法とは?」と題し、Slack Japanのシニア テクノロジー ストラテジストである溝口宗太郎氏が講演した。
はじめに溝口氏は、日本の名目GDPが2000年から横ばい状態であることを指摘した。物価価値を反映した実質GDPで見ると日本も引き続き右肩上がりだが、名目GDPでも成長し続けている米国や中国の成長率には追いついていない。さらに今後、日本は少子高齢化で労働人口が減っていく。そこで溝口氏は、「企業がさらに成長し、海外企業に勝つためには、コミュニケーションが重要だ」と語る。
ここで、Slackの歴史が語られた。「Slackは元々ゲーム会社で、2003年にウェブブラウザで動く多人数参加型のオンラインゲームを提供していた。しかし、倒産の危機に陥ったため、創業者がゲーム向けにスクリーンショットや写真をを共有する機能を切り出して世の中に出したら大成功したという。それが写真共有SNS『Flickr』だ」(溝口氏)。
一眼レフやミラーレス一眼カメラで撮った写真をそのままインターネットに公開したい人は多いが、SNSだとデータが圧縮されてしまう。しかし、Flickrなら写真を高解像度のままアップロードして共有できるため、大変な人気を博した。そして2005年、米国のYahoo!に約30億円で買収された。
Slackの創業者はそこで得た資金で、また多人数参加型のオンラインゲームを作ったが、それは不調に終わってしまったという。しかし、ゲームの作成時に社内の開発者同士がプロジェクト推進のために使っていたツールに着目。このツールを企業向けのコミュニケーションツールとして開発し、公開したのがSlackだ。
Slackは2013年8月12日ベータテストを開始し、1日で8000人、1週間で1万6000人がユーザー登録した。そして正式サービスが開始されたのが2014年2月だ。
溝口氏は、Slackがもっとも気を付けてきたことは「アラインメントを整えること」だと話す。「同じペースで、同じ方向に向かってひとつの大きな目標を追いかけ続ける。業界用語ではこれをアラインメントと呼んでいる。車ではホイールアラインメントという用語があり、車体に対してホイールの向きや方向、角度を調整する。企業経営や組織という観点で見た場合のアラインメントは、各部門が同じペースで足並みを揃えたり、ベクトルを合わせたりすることを指す。かたや組織全般的な言葉でいうと、戦略、組織、人材、会社のカルチャーというものをを全社員で共有して、一致団結して1つの目標に向かっていくことだ」と溝口氏は解説する。
「車のホイールアラインメントを調整することで、車はまっすぐ進むことができ、正しく止まれるようになる。組織も会社の経営も一緒で、このアラインメントを整えることが非常に重要だ。世の中で成長している企業の多くがこのアラインメントを意識しながら会社経営をしている。アラインメントのとれた企業はぶれることなく、継続的な成長ができている」(溝口氏)。
では、アラインメントを整えるためには何をしたらいいのだろうか。溝口氏は、「会社のカルチャーに合う人材を採用する、組織の構成を正しく作る、360度評価を採用して公平な人事制度を整える、などがあると思うが、われわれはコミュニケーションが非常に重要であると考えている。なぜならば、働いている時間の3割から4割の時間は、同僚や外部の人とのコミュニケーションに割いていると言われているからだ。コミュニケーションの質を高めることでアラインメントを整えられる」と述べた。
Slackが考えるコミュニケーションの重要なポイントは2つあると溝口氏。1つ目は、上下がある組織の中でも上の人と現場が同じ目線で言いたいことを言い合える、フラットでかつ開かれたコミュニケーションだ。「この人には情報を共有するがこの人には共有しない、これはうちの事業部だけの情報だから他の事業部には共有しない、といった閉ざされた縦割りのコミュニケーションでは良くない。開かれたコミュニケーションを実践するべき」と溝口氏は語る。2つ目は、社内の情報格差をなくすこと。Slackはありとあらゆる部門の人が、必要な情報を必要なときに入手できるような仕組みが整えられているという。
溝口氏は、こうしたコミュニケーションスタイルを既存のコミュニケーションツール、電話やメールなどで実現するのは困難だと語る。「社員1万人の会社でオープンなコミュニケーションをメールでやるとすれば、全員をCCに入れることになる。そんなメールは送れない。全社朝礼を毎朝するのも難しいだろう。だからこそICTの力が必要だ」(溝口氏)。
しかし、主なコミュニケーションツールがいまだにメールの企業は多い。日本のみならず、全世界でもまだメールが主なコミュニケーションツールだ。一方、家族や友だちとのプライベートなコミュニケーションはメールよりも、LINEやFacebookメッセンジャー、TwitterのDMなどのメッセンジャーツールが一般的だ。「なぜなら、それは使いやすいから。非常に便利でかつ迅速にできる。その利便性をなぜ業務に持ち込まないのか」と溝口氏は問題を提起した。
さらに溝口氏は、「デジタルネイティブ世代やZ世代(1990年代半ばから2000年代の初めに生まれた若年層)と言われる層は、生まれてから一切メールを使っていない世代だ。最初からLINEなどチャットの世界にいる。企業はその世代を受け入れる準備をしていかなければならない」と、企業のメールによるコミュニケーションを次世代に引き継ぐことは難しいと語った。
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