なぜ、「デジタル」を使いこなせない営業が多いのか--マルケト福田社長に聞く - (page 2)

 特に営業とマーケティングはプロセスを正しく管理する、という発想が欠落しています。米国駐在時、上司から「日本人は生産管理には詳細にプロセスを定義するのに、なぜ営業とマーケティングには適用しないのか」と問われました。当時は日本からのリクエストとして、(トヨタ自動車の)カンバン方式への対応を上げていましたが、一方で営業のフォーキャストはExcelで付けるなど、現場がチグハグな状態であることを指摘されて気づきました。

 ですから、営業やマーケティングに対するプロセス化を始めないと、問題箇所や目標はどこにあるのか見えてこないため、改善の余地がありません。たとえば、売り上げアップはどの企業も目標に掲げますが、その中間にあるプロセスが抜けるケースが多く見られました。だからこそ、プロセスモデルの構築が重要です。

 もう1つは組織の作り方。よく「営業とマーケティングの壁」といわれますが、組織だからこそ壁があるのは当たり前でしょう。人はチームや部門を設けることで異なる意識を持ち、各責任者もチーム利益を求めます。米国では最近、すべての売り上げをみて顧客対応を考えるCRO(最高売り上げ責任者)が増えてきました。一見すると小手先のように見えますが、人間の行動心理を踏まえると本質的な変革につながると思います。

——組織作りについてもう少し詳しく聞かせて下さい。どのような体制やマネージメントが望ましいと考えますか。

 日本ではCROはまだ少ないものの、弊社顧客ではマーケティング担当がインサイドセールス部門をともに担当する企業が増えつつあります。また、営業経験者がマーケティングを担当するなど、両者の経験を持つケースも少なくありません。一方だけでは相手の気持ちが分からないため、営業とマーケティング両方の経験者が組織を担うのが1つのポイントです。

 皆さん評価指標を持ちますが、数値だけではなく普段の行動を観察しながら質を見極めることが大事です。たとえば、インサイドセールスが営業に案件を何件渡したかで、評価を下す企業は少なくありません。ですが、「これ以上、顧客に尋ねたら嫌がられる」からアポイントメントを営業に渡してしまう方もいれば、顧客に尋ねても「それは営業と会ってから話します」というケースもあります。ですが、いずれも1件の案件です。数値上では1件となりつつも、その取り組みを上司がどのように判断するかで現場のモチベーションやスキル成長度に響きます。将来的には組織の成長度にも影響をおよぼすことでしょう。B2Bは人が介在するため、量ではなく質の問題が関係します。そこを判断しバランスを取るのも人間です。

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 より現場に近いマネージャーが企業を支えることになるでしょう。上層部には現場の内容など細かいことは見えません。組織のマネージャーは中長期で企業全体の文化などを見ていくことを重視しがちですが、現場が企業文化に沿って動くには、マネージャーも深いところまで観察する必要があります。だからこそ数値だけではなく、バランス感が求められます。

デジタルスキルを上げるべきか、ツールをシンプルにすべきか

——MAツールは日々高度化していきますが、デジタルが苦手な人もいます。企業はこうした社員のスキルを上げるための教育をすべきでしょうか。それともツール自体がよりシンプルに使いやすくなるべきなのでしょうか。

 私も半期に1度、営業の一人ひとりと面談していますが、ITベンダー出身者もいれば、旧態依然とした企業出身の人もいます。弊社はSlackやマルケトなど複数のデジタルツールを使っていますが、社内の数人が「使い方が分からず、情報がどこにあるのか分からない」といっていました。弊社は比較的小規模なので、現在はメンターを用意していますが、1つの課題であることは確かです。

 1ついえるのは、われわれはユーザーコミュニティを大事にしています。社内に限らず他社の人々ともコミュニケーションし、SlackやSalesforceなど多様なツールと連携した全体像を共有してもらうことで、(ツールの利用シーンを)イメージしてもらいます。会社やベンダー単位ではなく、全体を統合するコミュニティを作ることで、改善するのではないでしょうか。遠回りに見えますがステップアップする上で重要だと思います。

 (ツールを使いやすくすべきではという問いには)マルケトはITスキルがなくても使えるマーケティング用ツールであることが創業時に掲げたテーマです。機能数と使いやすさは相反するものではありません。見た目がシンプル・直感的でも、やりたいことができなくては無価値です。考えるべきは売り上げアップというゴールをブレイクダウンし、そのために必要なレイヤーです。その下にメールやモバイルアプリのトラッキングといった機能が並びますが、多くのツールはその発想が欠落しています。ここが欠けると使いやすさが向上しても目標は達成できません。何をすべきかを考えないと道具として意味をなさないでしょう。

 たとえば、顧客に提案する時は、IR情報を読んで顧客企業の5カ年計画を把握し、課題を確認します。営業時は「御社の課題をこのように解決します」と提案しつつも、中身は情報共有による効率化や、シンプルで使いやすい仕組みとなり、関連性が不明確になりがちです。そのため一歩手前に立ち戻り、新規市場にリーチできないとか、新たな営業が増えても勝ち負け情報を共有していないから受注率が下がっている、という場面を踏まえて情報共有というアプローチを用いるべきでしょう。これがない状態でツールを検討する意味はありません。

 この点を明確にすれば、使いやすさよりも考えたことが実装できるかが大事であることに気づきます。私はこれまでオラクル、Salesforce.com(セールスフォース・ドットコム含む)、マルケトと外資系ベンダーで働いてきましたが、よくいわれたのは「外国っぽくて分かりにくい」「日本では違う」という言葉でした。しかし、ツールが広まり使用頻度が増えると慣れてしまうので、使いやすいか否かは慣れの問題でしょう。(使いやすさに)フォーカスしても一瞬は盛り上がるかもしれませんが、長くは続かないと思います。

——目標が定まりきらず、MAツールの導入に躊躇している企業担当者もいると思います。どの程度、事前に目標やゴールを設定すべきなのでしょうか。

 まずスタートさせて試行錯誤しながら変えていく方が早いと思います。一昔前はシステム開発に膨大な予算が必要でしたが、SaaSのコスト負担は大きくありません。ここが経営層には一番大きなポイントでしょう。MAツールを使うことで得られるヒントがあり、改善が進みます。昔のシステムはやりたいことを定義し、完成時は100点ですが、環境は変化するため価値は低下し続けます。クラウドの時代は機能を部分的に使っていても、使いながら利用範囲を拡大させていく逆カーブを描く仕組みです。

 もう1つは「困っている」という企業の課題の線引きでしょうか。日米の差がここではないかと類推していますが、米国は低レベルからスタートし、50%もいけばポジティブ。日本もゴールは一緒ですが、50%に達しても「こんなレベル」と卑下します。ゼロ地点を振り返れば格段に進歩していてもです。日本企業は自らを過小評価している気がします。(MAツール導入の取り組みが)以前よりも後退しているのなら中止すべきですが、着実にステップアップする中長期的な進化を認識すべきでしょう。

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