“わざわざ集まる”コミュニケーションを取り戻す--ミクシィ木村新社長に聞く - (page 3)

 国内では、一緒にスポーツを観戦することが、諸外国に比べると弱いととらえています。スポーツ産業としての国内市場は5兆円程度と言われていますが、米国や中国は100兆円規模を目指すぐらいになってます。だからこそ日本では、コミュニケーションの切り口で入り込める市場があると踏んでいます。

 スタジアムは、特に観戦目的ではなくとも、家族と一緒に行って会話したり食事したりするような光景も見受けられます。ただ、日本では試合が終わったらすぐに帰る方が多いですが、米国ではなかなか帰らずにだらだらと会話したり、あるいは飲んだりパーティするような光景もある。それがもったいないと思っているところもあります。

 コミュニケーションの場として、観戦も盛り上がれるようなプラットフォームを作れないかと。スマートフォンを活用して、スポーツ関連のコミュニケーションプラットフォームを作ることを考えています。

――すでにプロバスケットボールB.LEAGUEの千葉ジェッツとパートナーシップや、サッカーJリーグのFC東京へ出資といったアクションを行っています。

 スポーツ領域への進出ビジョンに基づいたアクションで、まずは千葉ジェッツへのパートナーシップを決めました。理由はいくつかあるのですが、スポーツをみんなで集まる場としていくならば、コアなファンだけをターゲットにしても、何も変わりません。試合そのものだけではなく、ハーフタイムのショー演出がある文化があるバスケットボールで、その演出が自由にできたり、マーケティングも含めてイノベーティブな取り組みをしている球団として千葉ジェッツが挙がったんです。

 スポーツの市場を広げていくことを考えたときに、スポーツファンでは無い人でも足を運んでもらえるようなショーとして作り上げていくということや、革新的な取り組みについて理解していただけるところと組みたいと思ったのが理由です。

 FC東京については、Jリーグにおける観客動員数が浦和レッズに次ぐぐらいの国内トップクラスです。2018年はワールドカップイヤーというのもありましたし、マーケティングの観点から見ても、盛り上げていくことの意義は大きく、出資を通して取り組むことに意味があると判断したからです。

――スポーツ領域は木村さん自ら執行役員として指揮を執る形ですが、モンストなどのエンターテインメント領域については、多留幸祐さんを執行役員として付ける形になりました。

 私が一番の収益事業を兼任するとなると、どっちつかずになる恐れがあったことと、誰もやってないところに飛び込んでいくのが性分なのかなと。変に空気を読まずにできるのが自分の特性だと思っていて、それがいいところでも悪いところでもあります。

 多留については付き合いが長く前職でも一緒で、信頼も厚いです。彼はモンストの事業部長を務めていましたが、モンストの成長においては彼が牽引したところも大きい。今回、モンストも含めたデジタルエンタメ全般を見てほしいと伝えました。

――新たに参入するウェルネス領域について、意図と狙いを教えてください。

 まず日本は2025年問題と言われているような、社会保障費が増額傾向にあって、高齢化かつ少子化で支える層が少なくなっていきます。そして、高齢者の方の健康状態が悪い状態になってしまうと社会保障費がかかってしまいます。また、生活習慣病の要因として、高齢者の社会的孤立も背景にあります。

 コミュニケーションが断絶していると、モチベーションの低下を招き、運動量も低下。結局寝込むような状態になると。そのため、良い状態を維持し、コンディショニングを整えるのが重要だと考えています。そのコンディショニングを整えるのに重要なのがコミュニケーションであり、そのコミュニケーションを作っていくというのが狙いです。

ネットが発達した便利な時代だからこそ“わざわざ集まる”ことがテーマ

――5月の決算会見では「ITの発達により、本来あるべきコミュニケーションが失われている」と懸念を示していました。

 ネットワークが発達して、通信が便利になればなるほど、家族に直接会わなくてもSNSでコミュニケーションが取れるからそれでいいという気持ちが出てくると思っています。でも会ったら会ったで、楽しいはずです。昔から友達と集まって遊ぶことの楽しさを体験しているはずで、それを今、スマートフォンを通じて味わってもらうことが重要だと。ネットが発達した便利な時代だからこそ“わざわざ集まる”ということをしてもらうのがひとつの狙いです。

 IT業界からすると逆の発想で「なぜわざわざ集まらなければいけないの?」と思われるでしょう。在宅ワークで会社に来なくても仕事ができるというのがあります。もちろんそれによって、雇用の機会が増える、マンパワーがより活用できることは理解しています。それでも、集まって仕事をしたほうが活気があっていいのでは、とも思うんです。

 ITが発達すると、ロングテール型のモデルが増えていきます。個々の価値観にあったものを、オンデマンドでダイレクトで受け取れますし、それだけニーズに細かく対応できる時代になっています。一方で、ネットが発達していなかったころのような、同じテレビ番組を一緒に見るという共感体験があるかと言われると、失われてきていると感じています。学校や職場で「昨日のあれ、見た?」「マンガのあれを読んだ?」を復活できないかとといったような、昔ながらのコミュニケーションを復活させていくことが、やりたいことのテーマです。

――そのように考える、何か木村さんのなかでのコミュニケーションに対するこだわりがあるのでしょうか。

 大学生ぐらいのときまで、友だちと一緒に遊ぶことをずっとやっていたからかなと。当時エンタメ業界を志望していましたが「面白いとは何か」というのが考えていた時期があったんです。ゲームもカラオケもスポーツも食事も、何をしても楽しくて。では“楽しいとはなんだ?”と考えていて、その答えはコミュニケーションではないかと。友だちと何かをやっていたから全部楽しかったんです。今振り返ると単純なことなのかもしれませんが、そのときは大発見したぐらいの衝撃があって、それが体験として残っているというのはあります。

――新しい柱の構築に向けてさまざまな施策や投資を行っていくかと思いますが、それらがうまく事業展開していったときに、ミクシィはどのような立ち位置にいる会社となっているでしょうか。

 日本だけではなく、世界中でコミュニケーションの課題はあると思います。順調に事業が展開したならば、グローバルでさまざまなコミュニケーションの課題を解決している会社になっているでしょう。私たちの強みは、SNSプラットフォームだけではなく、コンテンツを作るという、ひとつ上のレイヤーまでやっていること。その意味では、コミュニケーションの世界観をトータルで作っている、唯一無二のプレーヤーになっているかと思います。

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