――イベントでは、家計簿アプリの発表もありました。各FinTechサービスの一元管理が目的でしょうか。
お金の管理アプリは必要なものですので作りました。家計簿サービスはさまざまありますが、マス層にリーチできているとはまだ言えない状況です。LINE Payという決済手段にも紐付いていますので、LINEらしい強みを生かし、さまざまなFinTechサービスを一元管理できるハブとして設計しました。
――すでにいくつかの家計簿アプリが世に出ていますが、浸透するには至ってないと。
そもそも、KYCや銀行連携が難しく、さまざまな参照系APIから情報を取得するのも一般ユーザーからすると結構ハードルがあります。しかし、本人確認を郵送なしにインターネットだけで完了できるようになるという報道もありますし、規制やルールがオンラインのみで完結するように変わってくると、リテラシーの高い層から広い層に対して、オンライン上からアクセスする金融サービスが一気に広がるタイミングが来るはずです。そこがティッピングポイント(小さな変化が大きな変化になるしきい値)であり、市場拡大時にどこがユーザーを獲得できるかという話になります。
金融離れといいますか、株を持つ人が20%を切ったという話も聞きますが、各種手続きが不便なために学習しなくなり、知識も蓄積されないまま金融サービスとの出会いが減ってしまっている背景があると思います。ルールが簡単になり、規制緩和も進み、本人確認の簡略化や、サービスUIの圧倒的な改善、APIの開放、接続時間の短縮化といった改善により、ユーザーがもっと金融にアクセスしやすくなります。
日本がこれからシュリンクするだろうと言われている中でお金に働いてもらう、成長市場に対して投資することが必要になるかもしれません。日本は投資やお金に対して敬遠する部分もありますが、投資は特に若い方にとって非常に重要なことと思っており、手続きの面倒くささ、イメージやリテラシーでバリアがあるところを適切な形で距離を近づけさせたいのです。
それが進むと、どこかで資産を一元管理したいニーズが高くなると思いますので、家計簿アプリが必要となるのです。銀行口座やクレジットカードなど、LINE以外のお金の動きも管理できます。
――LINE CONFERENCEで発表された内容以外にも、FOLIO、野村證券、損保ジャパン日本興亜との提携など、2018年に入りFinTechへの取り組みを加速しています。
FOLIOとの連携ではテーマ投資を2018年下半期に提供予定ですし、野村證券とはLINE証券を立ち上げ、より専門的な証券サービスを提供します。損保ジャパン日本興亜とは、まずは損害保険分野でサービスを開始する予定です。既存事業者のなかで、豊富なノウハウがあり、スピード感も持つ企業と積極的にパートナーシップを結んでいます。
既存事業者も、サービス提供側としてスマートフォン時代になっても金融サービスが進化していないという危機感を持っています。LINEのユーザー基盤や、UIなどアプリ開発のノウハウ、No.1スマートポータルを生かし、ユーザー目線に立った新しい金融体験、シームレスな経験、ユーザーへの提案ができたらと考えています。
金融商品は、常にニーズが喚起されるものではなく、ふとした瞬間に必要になる場合が多くあります。貯金や投資、保険も、何となくやらないといけないと思っていても、明確なニーズがあるものでもありません。金融に無関心であったり、保険に入っていない層も増えており、そういった人たちに対してタイムリーに、押し付けがましくなく自然に提案できるようになると良いと思います。
また、データの活用も強みになります。中国ではすでに普及していますが、個人情報に配慮しつつ承諾を得た上で、金融サービスの利用データやたとえば、LINE上での行動を加味した新しい形のスコアリングサービスが作れる可能性もあると思っています。スコアリングをもとに、今までの金融サービスよりもベネフィットの高いサービス作りが実現できるでしょう。
――LINEは金融をリデザインできるのでしょうか。
音楽であれば、ストリーミングサービスの登場でCDが売れなくなってきており、マンガも紙からデジタルに移行しつつあります。大体の業界ではデジタル化が進んでおり、それによってユーザーの利便性が高まっています。しかし、金融は、規制というハードルが存在し、莫大な資金も必要な分野です。収益化までの時間がかかることもあり、インターネット企業が参入しづらかった事情があります。もちろん、お金を扱いますので規制が厳しいのも当然ですし、それが良い・悪いというものでもありません。ただし、ここにきてブロックチェーンやAIの活用など、技術的に解決できることが多くなってきたと感じています。
FinTechは、中国など海外が先行しており、我々も変わらなければいけないという動きのなか、ガラッと変わるタイミングに来ています。ただし、まだ大きくはリデザインされておらず、スマートフォン時代になって圧倒的にユーザー体験が変わったかといえばそうとは言えません。そこにチャンスがあります。新しい体験をユーザーに提供し、ユーザーと金融の新しいつながりを提案できれば、ユーザーと金融の間にあったバリアが落ち、ユーザーの拡大、投資人口の増加も考えられます。我々ならではのアプローチが有効だと思っています。
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