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低所得でもクルマを持てる--貸倒率1%以下の“モビリティFinTech”を生み出したGMS - (page 2)

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2018年06月10日 08時00分
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フィリピンは「100kmも走れば十分」を実証できる

——なぜ、タクシーという用途に向けてFinTechサービスを提供しているのでしょうか。

 働くクルマに使ってもらいたいというのが私たちの願いです。仕事でクルマを使うことによって、それによる売上が家庭の主要なインカムになります。使用料を支払わずにクルマが使えなくなると、その人や家族が食べていけなくなります。だから、クルマが止まってしまったときはすぐ支払う。1日稼いで、それでまた明日働こうという支払いに対するモチベーションを上げていくためには、ビジネスに直結する形じゃないといけないと考えています。


 そして、私たちのサービスでは、デフォルト率、つまり貸し倒れる確率は1%以下です。従来、銀行が手間をかけてローン審査した場合でも貸倒率は15%もあったと聞きますから、圧倒的に少ないんですね。私たちはエコノミクスというものを特に大事にしているつもりです。金融機関が成立できるか、クルマの販売店が儲けられるか、利用者のインカムが以前より増えるか、この3つが非常に重要だと考えています。これを逸脱して金利、サービス料金を設定すると、もともとお金をもっていない人たちですから途端に支払えなくなってしまう。

 なので、事前に現地のおよそ1500人に対してリサーチをかけて、その人たちが支払える金額や、どういうサービス形態がベストなのかをあらゆる場所でヒアリングして、それをベースにサービスを組み立てました。だからこそ利用者が増えているんだと思います。ローン審査が通らなかった人もクルマを手に入れられるようになったことで、販売店としてはこれまでアプローチできなかった層に対しても売れるようになりました。金融機関も貸し倒れが怖くてお金を貸しにくかったのが、金利収入と元本が確実に返ってくるとわかっているので、お金を貸しやすくなる。貸し高が今どんどん増えているところです。

——支払えなくなった人に対しては、遠隔自動制御デバイスを用いてクルマを動かせないようにするわけですね。

 技術的には即座に止めることもできますし、時間帯や曜日ごとに動かせる日を決めたり、進入禁止エリアに入ったら止める、ということも可能です。しかし、私たちはあえてファイナンスに特化して制御している。たとえば、支払いの締め日を迎えるとき、未払いだったら「夜12時が期限ですので、明日の朝までに入金してください」という連絡をします。それでも支払わないでいると、翌朝エンジンがかからなくなります。

GMSが開発した遠隔自動制御デバイス「MCCS」
GMSが開発した遠隔自動制御デバイス「MCCS」

 でもここからが大事で、止めたらすぐクルマを回収するわけではない。支払ってくれたらクルマを動かせるようにする、という考え方で対応します。フィリピンの80〜90%の金融機関やコンビニと決済連携していて、利用者がコンビニで入金したら、その瞬間にコンビニのデータベースから私たちのデータベースに連携する仕組みになっています。それからクルマが動くようにするのに約3秒しかかかりません。

 これはフィリピンだと日常的なもので、携帯電話はプリペイド型が標準で、コンビニでカードを購入してアクティベートすれば、すぐに使えるようになっています。電気もガスも、水道も同じ。止まったらコンビニで入金すれば家に帰った頃には使えるようになっている。だからクルマも全く同じにしました。フィリピンの国民にしてみたら、この方法が一番違和感がないんです。だからみなさん律儀に払ってくださる。

 デバイスが車両から勝手に外されたこともまだ1度もありません。外したとしても、デバイス自体にバッテリが内蔵されているので、外した瞬間に発報してクルマが動かなくなります。その場で元に戻しても動きません。

——ビジネスモデルをまねた競合が今後現れる可能性もあります。

 もちろん競合が生まれることもあるかもしれません。でも、私たちとしてはどんどん参入してほしいと思っています。そういうメーカーが作ったクルマは、私たちが開発した遠隔自動制御デバイスのように、その国の事情や習慣に正しく沿った形で、リモート集中管理システムや、緻密なフェイルセーフ機構などを作るのは難しいと思います。私たちはそういうメーカーをサポートしてあげる存在になれればいいかなと。こういうビジネスが広がることによって、救われる人の数はそれこそ膨大になります。そういう社会的意義の方が大事なのではと考えています。

——中島さんは、20年前から電気自動車の開発を手がけてきた先駆者でもあります。

 郵便事業会社から電気自動車を大量受注したのは2010年。その時の電池の性能は、まだ効率が低く、一度の充電で走れる距離はせいぜい100km余りでした。ところが、当時のメディアや他の自動車メーカーは、「普通のクルマが500km走れるように設計しているのに、100km程度しか走れないのではクルマとは言えない」といった論法で議論を繰り広げました。その時点でのテクノロジが電気自動車のすべてだと吹聴したんです。

 私たちはそれに違和感があった。むしろ、その段階で100km走れるのなら、10年後にはおそらく300kmになって、20年後には500kmになりますよと。その予測のなかで利用シーンを考えましょうよと。それに、100kmしか走らないんだったら、100kmで十分満足できる新創造を、私たち自動車メーカーが行う責務があるとも思いました。100キロ走れば十分だという世論形成をすることで、消費者としても100kmも走れば十分だ。便利だし、コストも低いし、環境にも優しい、と感じてくれるのではないでしょうか。行動範囲としては半径50kmですが、それで十分事足りる用途に対して特化型の電気自動車を供給すればいいんです。


 本来はそういった話を自動車メーカーの方にしてほしかったのに、一切しなかった。自動車メーカーが自分たちの存在を脅かされるものとして電気自動車を見ていたために、「既存の自動車 vs EV」という対立構造を作ってしまったんですね。これは日本の自動車産業のその後10年、20年のロードマップを見据えた時に、とんでもない失態を自動車業界全体が犯したものだと思いました。

 もし、あのとき業界が電気自動車に対して寛容な姿勢で取り組んでいれば、現在の米テスラを取り巻く状況のように、サプライネットワークが一気に広がったと思うんです。OEMが電気自動車開発を進めていけば、その技術が日本に宿ったんですよ。結局、ゼロスポーツがはしごを外されてしまったために、技術をもつ新たなEVベンチャーも生まれず、中国にその多くが流れていったのも事実です。当初、フィリピンで電気自動車事業を始めることにしたのは、「100kmも走れば十分」という使い方を実証できる、電気自動車の理想郷だと思ったからでもあるんです。

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