ソフトバンクグループは5月9日、2017年度の決算を発表した。売上高は前年同期比2.9%増の9兆1587億円、営業利益は同27.1%増の1兆3003億円と増収増益の決算となった。
同日に実施された決算説明会で登壇した同社代表取締役社長の孫正義氏によると、売上の伸びに対して利益の伸びが大きくなった要因の1つは、米通信子会社のSprintの営業利益がコスト削減効果で「創業119年の歴史の中で過去最大の利益」となったこと。そしてもう1つは、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先企業の評価益が、3000億を超える利益押上げ要因となったことが、影響しているという。
その一方で、純利益は前年同期比27%減の1兆390億円と大きく落ち込んでいる。こちらは前期にSupercellやアリババの株式の売却益があったことに加え、アリババ株の売却に伴うデリバティブ関連損失を計上したことが影響しているとのこと。デリバティブ損失に関して、孫氏は将来的に利益として計上されることを改めて説明するとともに、「一時的な影響がなければ、前年対比226%の成長だ」と力説した。
ソフトバンクグループの主力事業である国内通信事業は、顧客獲得に向けた先行投資のため営業利益が一時的に下がったものの、その分ソフトバンクブランド、ワイモバイルともにスマートフォンの純増数が大幅に増えているほか、固定ブロードバンドの「ソフトバンク光」も好調に伸びているとのこと。もう1つの国内主力事業であるヤフーに関しても、Eコマースの拡大に向けた投資から利益が下がっているが、こちらも「Yahoo!ショッピング」での購入者数が前年同期比で3倍に拡大するなど、好調に伸びているという。
さらに今後は、これら国内2社とソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先企業とで、国内にジョイントベンチャーを設立。先行投資で獲得した顧客基盤を活用し、国内でのビジネスを成長軌道に乗せていくと説明した。
また、2017年に買収した半導体設計企業のARMに関しては、チップセットにSIMやAIを取り込み、1兆個のIoT向けチップの提供を目指す「Project Trillium」を実現すべく、先行投資でエンジニアの数を急速に増やしているとのこと。その上で、買収後非上場としているARMを、5〜7年後に再び上場させる考えも示しており、「(再上場後は)生まれ変わった程に高収益を稼ぐ会社となり、その役割も広く、深くなる」(孫氏)と自信を見せた。
今回の決算で、孫氏が特に時間を割いて説明したのは、4月30日に米国の携帯キャリア4位のSprintと、同3位のT-Mobileの米国法人(以下、T-Mobile US)の合併が発表されたことについて。
2017年に一度、両社の合併交渉が不調に終わった背景には、契約数でSprintを上回ったT-Mobile USの親会社であるドイツテレコムが、合併後の経営権を主張したことが影響している。これに対してソフトバンクグループの取締役会が経営権を手放すべきではないと主張し、対等以上の合併条件を求めたことから、交渉がまとまらず破談に至ったという経緯がある。
だが今回はソフトバンクグループ側が、こだわりを持っていた経営権を手放し、27.4%の株式保有にとどめるという判断をしたことで交渉がまとまった。孫氏は経営権に対するこだわりを見せていただけに、今回の決断に関して「恥ずかしい思いがある」と話すが、それでもなお、経営権を失ってでも合併を推し進める判断を下したのには、孫氏が打ち出している「群戦略」があるという。
ソフトバンクグループはソフトバンク・ビジョン・ファンドを展開して以降、その業界でナンバーワンの企業に20〜30%程度の出資をすることで、300年以上成長し続ける企業体を作り上げる、群戦略を企業方針として打ち出している。そのためSprintに関しても、経営権にこだわらず30%前後の出資をすることで、合併を優先し、規模的にも米国の携帯電話市場で1位を獲得できる体制を作り上げることを重視したという。
両社の合併によって、ネットワークや店舗などの統合による経費節減を実現する一方、5Gのネットワーク構築に関しても、統合による優位性が生まれるという。孫氏は特に、Sprintが持っている2.5GHz帯が強みになるとし、T-Mobile USが持つ他の帯域と合わせて「最強のネットワークができる」と自信を見せた。また孫氏は、「付加価値を出しながらも、価格も大競争を仕掛けることで1位を目指す」とも話しており、合併後には料金競争を積極的に仕掛けていくことも示唆した。
そしてこの群戦略は、現在ソフトバンクの上場準備を進めている大きな理由にもなっている。しかしながら孫氏は、ソフトバンクへの出資比率をSprintと同様、30%以下に引き下げることに関しては、「そこだけは何でもありではない」と明確に否定。ソフトバンクグループの根源であり強みとなっているのが日本であり、ソフトバンク・ビジョン・ファンドのジョイントベンチャーの着地点としても重要な意味を持つことから、独立採算を推し進めるものの「ソフトバンクが中核であることは変わらない」(孫氏)と強調した。
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