「音楽は耳で聴くもの」──そう思っている人が大多数かもしれないが、実は体で感じる方法が模索されている。日本フィルハーモニー交響楽団と筑波大学准教授でピクシーダストテクノロジーズ代表取締役の落合陽一氏が手掛ける「耳で聴かない音楽会」の取り組みがその一つ。この音楽会は、聴覚支援システムを用いることで、聴覚に障がいを持つ人も楽しめる体験型のコンサートだ。テクノロジを使った音楽のバリアフリー化と言えるこの取り組みをレポートする。
4月5日、東京・杉並公会堂で、耳で聴かない音楽会のリハーサルが行われた。この音楽会の主催は日本フィルハーモニー交響楽団だ。音楽会で使用される聴覚補助システムの支援には、筑波大学准教授/メディアアーティストの落合陽一氏、博報堂、富士通などが携わる。
今回の取り組みは、日本フィルハーモニー交響楽団側が、「聴覚に障がいがある方にも音楽を楽しんでもらう方法はないか」と模索していた際、落合氏と博報堂が開発中の「ORCHESTRA JACKET(オーケストラジャケット)」の存在を知り、両者にコンタクトして実現したものだ。オーケストラジャケットは、ジャケットに仕込まれた数十の超小型スピーカによって、音楽を全身で体感できるジャケット型のウェアラブルデバイスだ。リハーサルの見学時は使用されなったが実際の音楽会には聴覚補助デバイスの1つとして使用される。
今回のリハーサルでは、「SOUND HUG(サウンドハグ)」と「Ontenna(オンテナ)」というデバイスを使用した。サウンドハグは風船のようなボール状のデバイスだ。球体の内部に振動スピーカとLEDを搭載している。楽曲全体や特定の楽器の音をMIXして振動スピーカで再生することで、音楽を振動として体感できる。また、音楽にあわせてLEDが発光するので、振動だけでは伝わりにくい曲の旋律を視覚で捉えられる。
富士通が開発したオンテナは、ヘアアクセサリのように髪の毛につけると、音を光と振動で感じるデバイスだ。マイク、バイブレータ、LEDを内蔵し、30~90dB(デシベル)の音圧をマイクで拾い、リアルタイムに256段階の振動と光の強さに変換する。音の大きさ、リズムやパターンを感知して伝える。
この日は筑波大学付属聴覚特別支援学校高等部の生徒など、聴覚に障がいを持つ人をモニターとして招き、リハーサルが行われた。生演奏をデバイスに出力するのは、この時が初めてだという。
リハーサルが始まると、「低い音は振動するが、高い音は分からない」「振動が弱い」といった声がモニターから挙がり、本番に向けて改善点の洗い出しが行われた。
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