「ペイフォワードの考え方がすべて」--PR TIMES傘下になった新生THE BRIDGEの覚悟

別井貴志 (編集部)2018年04月20日 11時00分

 ITスタートアップニュースメディアのTHE BRIDGEは、プレスリリース配信サービスのPR TIMESに事業を完全に譲渡した。契約は3月末に結び4月からPR TIMES傘下として新たに事業を開始している。THE BRIDGEは「起業家と投資家を繋ぐ」をコンセプトに2010年6月に創刊(最初は「スタートアップデイティング」として始め2013年10月にいまの名称に)したブログメディアで、2016年にはスタートアップ企業100社、1000名を集めた大型カンファレンスを開催し、2017年からは「Lab.」として社会課題をテーマにした勉強会プログラムを毎月開催するなどコミュニティづくりにも力を入れてきた。

 両者の関係は2015年2月に業務提携を締結し、設立7年以下の企業が配信するテクノロジ関連のプレスリリースをTHE BRIDGEに転載するようになったことから始まった。そして、2016年1月にTHE BRIDGEはPR TIMESから一部出資を受けて資本業務提携を結び、その後今回の事業譲渡に至った。メディアとしてのTHE BRIDGEはPR TIMESの事業部門の1つとなって再出発するかたちだ。THE BRIDGEの共同創業者で代表取締役を務めているブロガーの平野武氏は、引き続きTHE BRIDGEのメディア運営に携わるが、まだ肩書きは「THE BRIDGE編集部」となっており、まだ定まっていないというが、「書く人」という意味でずっと「ブロガー」を名乗ってきたため、これは今後も使い続けるかもしれないという。

 起業家や投資家など、スタートアップの関係者に支持されてきたTHE BRIDGEに何が起こったのか。今後THE BRIDGEはどうなるのか。また、PR TIMESはなぜTHE BRIDGEの事業を譲受したのか。平野氏とPR TIMESの代表取締役社長である山口拓己氏に話を聞いた。

――起業から8年間を振り返っていかがですか。

THE BRIDGE編集部、ブロガー?の平野武氏 THE BRIDGE編集部、ブロガー?の平野武氏

平野氏:なぜこのメディアを始めたのかを話します。僕はスタートアップ企業、起業家の人たちしか取材しないので、事業をやり始めてからも編集長とか社長とかという肩書きは使わずにずっと書き続けてきました。その理由はひとつだけで、起業する人たちっていうのが増えれば、その人たちはたくさん人を雇ってくれるし、経済を作ってくれると。自分たちを元気にしてくれる人たちなので、彼らをもっともっと増やしたいという気持ちがあった。じゃあどうしたら増やせるんだろうって思った時に、当時僕がやってた頃のTech Crunchのサイトでは、投資家たちと起業家たちとで新しいアイデアを育もうとする人たちをエンパワーメントして、数を増やすというエコシステムを作ってました。僕は投資家にはなれないし、もしかしたら起業はできるかもしれないけれども、あまり自分のアイデアはおもしろくないので、じゃあ当時やっていたメディアというものを、情報を伝えるという面で、そのエコシステムの一員になれるんじゃないかなと思った。というのが一番最初のぼんやりしたきっかけです。

 それ以前のもう少し前に遡ると、僕は普通のサラリーマンで制作会社の一員だったんですけども、まああんまり人生おもしろいと思ってなかったんです。お給料もらって生きてりゃいいんだ、ぐらいに思っていました。結構自暴自棄になってました。2010年当時は変な人たちがたくさんいたし、怪しい人もいっぱいいたじゃないですか。ああいう人たちを見るのが楽しかったし、それと同時に「あーこのままじゃいけないな」と思ってたんですね。それでこの人たちをもっと増やしたいなと思ったんです。これがメディアをやろうと思った、書き続けようと思ったきっかけです。

 そこから文章を書くことを覚え、人に会って話を聞き、でもやっぱり自分でもやらないと(起業しないと)なかなか企業の代表と呼ばれる人たちは口を開いてくれませんので、自分でも実際に起業し、種類株にも手を出し、ベンチャーキャピタル(VC)の人たちといろんな協議を重ね……まあここでは言えない裏話もたくさん聞いて、とにかくずっと取材をして話を聞き続けてきたのがこの5年間ぐらいだったと。やっていく中で、社会性みたいなものは認めてもらえるようになったんですね。「あー、いいことしてるね」と。「あんな誰も拾わないような情報をよく拾うね」と。こんなふうに社会性は認められながらも、一方で経済性や合理性といったものは一切ない。PVは稼げないわ、メディア事業といえば広告なわけですよ。そのくせ記事広告とかはやらないわけで。「どうやってお金を稼ぐんですか」、「霞食べて生きているんですか」と言われ続けたのもこの5年ぐらいなんです。

 やっぱり、ビジネスモデルを見つけるのって非常にいろんな意味で重要。もちろんゴールにしている「起業家の人をたくさん生み出す」ために情報を出すということもできるようになったし、でも、(さまざまなメディアで)使い捨てられるような状態がずっと続いている書く側の人間、つまりライターたちにも何か報いるような仕組みがあったほうがいいよねと、事業というものがなんなのかっていうのをずっと見つけようと思ってきて。けど、やっぱり見つけられなくて。最後の最後、この1年、2年というのは事業モデルを考えてコミュニティを作ったし、大型カンファレンスのモデルも試したし、それを次の年には「Lab.」という形で勉強会スタイルに変えて2、30人ぐらいの協賛モデルをやって。でも、なかなか完璧なモデルには到達しづらかった。

 インターネットのビジネスモデルって、広告か課金か販売みたいなものじゃないですか。中でも注目していたのは課金で、通常インターネットメディアの課金って言ったら課金ロックですよね。じゃあ、僕らのニュースってロックをかけてお金を払うと見られるようにできるかっていえば、記事の価値がないとは言わないけど、残念ながらそこまでのモチベーションを読者に求めるのは難しい状況ではないかと。当たり前ですよね。情報を作る側のコストがめちゃめちゃ下がっているんだから、その対価というのは相対的に下がるわけですよ。

 じゃあ別のモデルを探さなければいけない。それが、ニュースリリースのワイヤー事業だった。課金ビジネスとして一番親和性があるし。僕らが拾えない情報をカバーする意味においても、リリースはすごく重要な仕組みになりつつあったし。スマートフォンやソーシャルメディアの発達で、情報が一段と届きやすくなったいま、自分がもし書けない情報があるなら、発信者側が第三者視点は抜けるにしてもとりあえず出して伝えることはできるようになっている。じゃあそういう意味での補完性もあると。ここ(PR TIMES)と一緒にやるのがベストじゃないかと考えていたのが、ここ1年、2年です。2016年の1月には株主にもなってもらったし、可能性はずっと思い続けてきて、それ以降もずっと話していて2017年の年末からとか2018年の1月にかけて具体的な話になり、一緒にやっていきましょうとなったのです。

――起業家を増やすことを目指して、情報の提供から後にコミュニティに進化していくデータベース、その後のイベントなど、段階的にビジネスモデルを探しつつ挑戦してきたと思います。その結果、スタートアップの業界には認められたでしょうが、半面でいかにマネタイズするか、つまり社長業や経営に非常に苦悩してきましたね。

平野氏:大きな失敗は、社長業と執筆業を並行してやってきたことだと思います。記事を提供する編集部と広告を扱う営業部とを一緒にやるようなものですから、完全に二律背反だし、そこをできる経営者の人間を見つけられなかったことが、自分の中での事業家、起業家としての失敗。

――でも、これからはそこをやらなくてよくなりましたね。

平野氏:逃げた(笑)。経営を経験してるって、さっきも言った通り取材をする上において、相手のことをよく知るという意味では、重要なファクターなんですね。「経営者の人っていうのは何を考えているのか」ということが。記事には書くけれど、「種類株ってなんだろう」と。実際に自分でハンコを押してみると、やっぱり独特のものなんだって思う。こういう経験がないと、種類株の質問もできない。そのため、起業の経験、経営の経験は非常によかったです。じゃあこれから先、事業を考えないかっていうと、経済合理性のない社会性だけのメディアっていうのは、やっぱり難しい。書く側の人間のモチベートも含めて、答えはやっぱり見つけないといけないので、事業にはこれからも積極的に関わってはいくと思います。でも、資金調達はもうしない(笑)。お金が足りないんですーという話はもうしないです。

――ここ2年ぐらい話してきたということですが、山口さんは平野さん、THE BRIDGEをどう見てきて、今回の決め手は何だったのでしょう。

PR TIMESの代表取締役社長である山口拓己氏 PR TIMESの代表取締役社長である山口拓己氏

山口氏:PRっていうのはもともと大企業中心なのです。それはメディアの尺とかスペースが限られていて、インターネットであっても記事を生み出す労働っていうのは限りがありますので、メディアは取捨選択する際に、すでに社会的役割のある大企業が中心に取り上げられるという状況がずっと続いてきました。私たちがプレスリリースの事業を始めた時は、逆風が吹いている状態でした。「プレスリリースなんてもう送ってこなくていい」と言われていた時に始めて、メディアの方に届けるだけではプレスリリースの価値を引き出せない。だからその先にいる一般の生活者に本当に必要な情報として、場合によっては楽しんでもらえるようなプレスリリースを目指そうと。

 これまでプレスリリースを多用していた大企業にも使っていただきながら、これまでプレスリリースなんて出したことない、広報なんてやっても無駄だと思っているスタートアップ企業の方にも私たちのサービスを使っていただこうと動き始めたのが3年ぐらい前です。会社設立2年以内の会社であればPR TIMESを無償で使えるサービスを開始したり、THE BRIDGEに出資させていただいて業務資本提携を結んだのが2016年1月。この資本提携が私たちにとっても大きくて、スタートアップの人がプレスリリースを出したとしても記事になるって言うのはごくわずかで、それがTHE BRIDGEの編集にも届くし、場合によっては取材していただける。またそこから溢れてもプレスリリースを掲載していただけるというのは非常に大きな価値です。

 スタートアップがサービスをローンチする時にプレスリリースを出しますが、資金調達をする時にもプレスリリースを出すなんて5年前にはまったくなかったわけです。さらに直近では「タレント人材を採用しました、参画しました」というプレスリリースも見かけるようになって、すごく大きな変化だと思います。これは、この数年THE BRIDGEが果たしてきた社会性、社会的役割っていうのが大きかったでしょうし、日本でのスタートアップ支援での貢献が大きかったです。

 さらに、これからTHE BRIDGEが日本のスタートアップシーンで大きな貢献をするためには、先ほどのマネタイズという課題を抱えながら、その一方で媒体としての価値を高めてブランドとしてさらに輝いて、この両方はすごく難しいことだと思います。だからこそ私たちが、平野さんをもっとバックアップできることとして今回事業を譲り受けて、経営とかマネタイズはお任せていただきたいと思います。そして、編集というところはこれまで通り、もしくはこれまで以上に平野さんに注力いただくことが、THE BRIDGEの元もとの目指すべきところにもっとアクセル踏んでるんじゃないかなと。

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