「ペイフォワードの考え方がすべて」--PR TIMES傘下になった新生THE BRIDGEの覚悟 - (page 2)

別井貴志 (編集部)2018年04月20日 11時00分

――新生THE BRIDGEでもこれまでお伺いしてきた信念は変わらないと思いますが、新たな抱負は?

平野氏:情報の伝達方法っていうのが相当変わったこの5、6年だったと思うんですよ。スマートフォンが出てきて1人1人インターネットに繋がれるという時代が来ちゃったと。従来、情報の伝達というのは、新聞社のように編集部や輪転機、配達網といった装置を持っている人たちがすべて担って来ました。しかし、いまは全部一足飛びに個人にすべて届くと言う状態になったのです。そして、気がついたらインターネットも以前はヤフーをはじめとするポータルが情報のゲートウェイになってましたが、今だとスマートニュースやNewsPicksなどアグリゲーションのアプリになって。今までのように、情報を出す側の人間が一次情報に接点を持って、話を聞いてその人の中身をきちんと考えて書くというサイクルだと間に合わないんですよね。情報が大量にある中で。じゃあ、同じように切り取った必要かどうかも分からない情報を山ほど集めて、大量に流すことが正しいのか、自分のやりたいことを実現できるのかというと、それはやっぱり違うと。

 僕自身は書くスタイルとか、伝えなきゃいけない情報というのはやっぱり人間だと思っているのでそこは多分変わらない。ただ伝え方は、THE BRIDGEというサイトを使って発信するだけでは、もしかしたら足りないかもしれない。僕たちの読者が週刊誌やゴシップ誌など別の媒体の読者と同じかと言われると、やっぱり違うと思う。1PVの意味、価値が違うってことをまだ証明できていない。できてないことはほとんどが、読む側の人たちにどう伝えるかとかという手段の部分であり、ここはまだまだ改善の余地があるだろうと。もっとテクノロジを使って情報が欲しい人にきちんと伝えたいです。配信の方法の部分では、PR TIMESは大量のプレスリリースを人工知能を使ってフィルタをかけて配信するチャレンジもしてますし、そういう面ではジャンプアップさせてくれるだろうなと思ってます。

 もう1つは書く側の理屈ですね。僕が単体ではできなかった書く側の人にモチベートできるようにシステムを作りたい。たぶんライターというビジネスはなくなると思うので、書くだけで原稿料くださいって言うビジネスモデルはもう本当になくなってしまうだろうと。価値あるものを、伝えるべき人に伝えた人にきちんと対価が払えるような仕組みというのは引き続き探してみたいですね。

――新生THE BRIDGE及び平野さんに期待していることは何ですか。これまで相当マネタイズに苦労してきた事業を吸収したわけです。PR TIMESの経営という面で考えれば、すぐに収益貢献することは考えにくいです。この辺もどう考えてらっしゃいますか。

山口氏:これまでTHE BRIDGEおよび平野さんは、課金や補完サービス、広告、寄付モデルなどをそれぞれ模索して、イベントやコミュニティづくりにもすごく大きな投資をしてチャレンジしてきました。そこでのリターンが苦労したっていうのは1つあると思います。一方で、今後マネタイズというのがメディア事業として本当に必要なのかといえば、私たちのビジネスドメインからすると必ずしもそうではないと言う解釈があります。それはどういうことかというと、PR TIMESの顧客企業層というのは今後も拡大させていきたいと思っています。上場企業はもちろんのことスタートアップの人もこれからまたさらに利用してもらいたいと思ってますし、その利用の範囲をもっともっと拡大してもらいたい。

 そして、情報の発信ニーズをあおるだけではなく、必要な人たちに届けて楽しんでもらうというマッチングもしていかなければなりません。マネタイズが難しかったのは、やはり元もとニッチ、つまり必要だと思う人はある程度限られていると思っていて。しかし、その限られる人をさらに見つけだして、そこに届けることを強化していかなければならないでしょう。そうすると、メディア事業というのは私たちにとっては重要なんです。

 私たちはスタートアップのカテゴリの中で競い合ってるだけで、いろんな人の可処分時間をスタートアップの情報にいただかないといけない。そうすると、先ほど平野さんが言ったスキャンダルとかキュレーションメディアとか、そういったものはやはりPVとしては奪いやすいと思うし可処分時間も大きく張っていると。そこから取り戻すためには、THE BRIDGEとしてコンテンツの質を保ちながら量を増やしていって、またこの分野のプロダクトやアクションに対して興味を持ってもらう人を1人でも2人でももっともっと増やしていく。これが私たちのビジネスドメインとしても非常に価値があると思っているので、必ずしも単体としてのビジネスでマネタイズしなければならないかというと、そうではないと思います。ただし、中期で考えた場合には、もう一度平野さんと(マネタイズに)チャレンジしたいと思っていますね。

――新たな船出に際して、それぞれの人にメッセージをいただきたいのですが。まずは、THE BRIDGEの読者に向けて。

平野氏:「読んでくれてありがとう」って言ったらもう終わりみたいになっちゃうからね(笑)。まあ読者あってのメディアなので、読者の人たちが起業家であり、投資家であったことで、読む人たち自身がエコシステムの一員だったっていうのがたぶんこのメディアだったと思うんですよ。だからイベントにも参加してくれたし、読んでシェアすることでこのメディアをすごく大きくしてくれたんだと思います。僕たちは引き続きおもしろい起業家を支援してくれる人達、企業の動きを伝えます。ネガティブな話は自分達は得意ではないので、書かないかもしれないけれどとにかく、読んでる人たちが次の日「ああ起業しようかな」って本当に思えるような情報を引き続き届けていきたいですね。

――では、起業家やスタートアップ企業に対して。

平野氏:……もう、これだけは……自分も起業してみて、ほとんどの人たちは割に合わないことをやっているなと思うんですよ。やっぱり。僕たちは華やかで成功バイアスかかった人たちの情報をわざと流してる。だから彼らには実は悪いと思ってる。「いい話ばっかり流しやがって」って。九割九分たぶん失敗してると思うから。でも、そのしかばねの山の上に本当にみんなの幸せを作ってくれる人たちが出てくるから、まあ諦めずへこたれず自分が信じる道を進んでもらって。もし僕らができることがあるんだったら、まあそれは情報を出すことだと思うので、それは言ってきてもらいたいですね。

――最後にベンチャーキャピタルやエンジェルをはじめとして、THE BRIDGEにはさまざまな形で支援してくれる協力者の方々が大勢いると思いますが、そうしたこれまで支えてきてくれた方がたに対しては?

平野氏:ペイフォワードの考え方(ある人から受けた親切を別の人への新しい親切でつないでいくこと)がすべてだと思うんですよ。我田引水になって自分だけ儲かればいい、自分だけ何かよい思いができればいい、そういう風になった瞬間、仕組みを作るし、その中に閉じこもるし、人との関わり合いを不要にすると思うんですよね。その方が儲かるし。実際にそういう人たちもいますし。でももうちょっと懐を開いて、社会のためとか日本だったり、自分が育ってきた場所のことを考えると、人を助けるっていうことは、結果的に回りまわって自分のためになる。それを実現しているっていうのがエコシステムだと思うんですよね。

 多くの投資家の人たちはそこに気がついて、メディアに協賛したり、起業家の人たちに場所を与えたり、ご飯を食べさせたり、出資にいたらなくても。ペイフォワードという、自分が受けたことを次の人に伝えるというバトンを渡すことでこのシステムが成り立っていると思う。僕らもその一部になれたかもしれないし、その精神とか活動はぜひやり続けて欲しいしやっていきます。我田引水の人が出てきたら、たしなめてほしい。

――THE BRIDGEの読者と、PR TIMESの利用者にメッセージをいただけますか。

山口氏:THE BRIDGEを一言でいうと平野さんそのものだと思っています。平野さんなくしてTHE BRIDGEもない。今回私たちが事業を譲り受けるとしても、メディアの精神はこれからも変わらないし、平野さんはTHE BRIDGEの平野さんであり続けてもらいます。さらにそのパワーはもっともっと平野さん、読者、スタートアップ、そしてそのコミュニティを支えるいろいろな人たち、投資家の人たちに向けてもっともっと力を発揮してもらいたいです。そこは今回お約束したいところですね。

 一方で私たちの顧客企業、スタートアップに限らず私たちは、平野さんがよく使う言葉ですが「個をエンパワーメント」をしていきます。2007年にサービスを開始した時は、プレスリリースというのをコンテンツにした情報伝達ツールでした。それがいまは企業とメディアと生活者をつなぐ、パブリックリレーションズのプラットフォーマーになりつつあるという実感を持っています。企業は良質なコンテンツをプレスリリースを通して発信してくれています。私たち自身も平野さんとともに利用企業、その先にいる多くの働く人たちをエンパワーメントするような事業展開をしたいと思います。そして、その行動はさらに次の行動者を促すような広がりを、PR事業とメディア事業を併せて個をエンパワーメントする火をもっともっと遠くに灯していきたいです。

PR事業とメディア事業の両輪で個のエンパワーメントを推し進める PR事業とメディア事業の両輪で個のエンパワーメントを推し進める

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