不動産経験者ゼロで「IESHIL」を立ち上げ--リブセンスが作り変える“業界の慣例” - (page 2)

Amazonのビジネス設計を不動産業界に当てはめる

――実際どうやって価格査定のシステムを作っていったのですか。

 村上と私、そしてエンジニアの3人で始めたのですが、全員不動産業界の実務経験はなく、どこから手をつけていっていいのかすらわからない。なかなか前に進められず、これはもう専門家の力を借りようと、当時シンガポール国立大学で教授をしていた清水千弘氏を訪ねました。清水氏は不動産市場分析を手がける専門家で、突然お電話をさせていただいたのにもかかわらず、快く話を受けてくださり、月2回のコンサルティングという形で協力いただけることになりました。

 その中で、環境条件の違いが地価や住宅価格の違いにどれだけ反映するかを観察し、それをもとにして環境の価値を推定する「ヘドニック・アプローチ」などについて学んだり、AIにどんなビッグデータを機械学習させるかを検証したりしながら、査定エンジンを作りました。

――不動産業界に身をおいている私から考えても、かなり難しい開発だと思います。

 本当に大変でした。まず専門用語がわかりませんから、何を言われても「うん?」といった感じで……。特にエンジニアはもう叫びだしてしまうくらい難しい仕事だったと思います。日本の不動産の状況を踏まえて、独自の価格設定の考え方を、いろんな角度から調整していくのですが、何度試しても結果がブレたり、変わったりというのを繰り返しました。その状況はまさに陶芸家みたいな感じで、できあがっては「違う!」と投げつけたくなるような(笑)。

 査定価格は、マンションブランドによる影響がありますし、エリア特性も細かく調整が必要になるため、一律に導き出せるものではありません。使用している変数は約9万数です。

――完成まではかなり険しい道のりだったと思いますが、ここまでやっても立ち上げたいという強い思いはどこから。

 Amazonに在職していた時の経験からなのですが、Amazonはお客様視点でのビジネス設計を徹底していて、お客様=ユーザーがいかに快適に、便利に使えるかが基本です。その考え方を不動産に適用すると、ユーザーは、売買を検討した段階で価格がすぐに分かることを望んでいるのではないでしょうか。

 特に住宅の多くは数千万円以上と高額ですし、住宅ローンに関してもどれを選ぶかによって支払い総額が違ってくる。そうした家族にとって大切な買い物を少ない情報の中で決断することは簡単にできないと思います。

 ただ、不動産は取引頻度が少ないので、お客様は「変だな」と感じたり、「わからないな」と漠然とした不安があっても、疑問点を明らかにできないまま購入や売却まで至ってしまうケースが多いのです。その不透明な部分にテクノロジを活用することで明らかにし、お客様がきちんと納得して売買ができる世界にしていきたいと思っています。

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