飲食店舗とデジタル変革。縁遠いように感じるこの組み合わせで、劇的な経営改革を実現した老舗飲食店がある。舞台は、三重県・伊勢神宮のほど近くで100年近くの歴史を持つ「伊勢ゑびや大食堂」。長きにわたる歴史と伝統を誇るこの食堂の改革は、AIとビッグデータがカギというが、具体的にどのように取り組んでいったのだろうか。
2月に開催された「CNET Japan Live 2018 AI時代の新ビジネスコミュニケーション」において、ゑびやの代表取締役社長である小田島春樹氏と、日本マイクロソフト データ & AI マーケティング本部のシニアプロダクトマネージャである横井羽衣子氏が、「データドリブン×デザイン経営でビジネスを変革し続ける老舗企業の挑戦」と題した講演を行った。
ゑびやが創業したのは、大正元年。以来、伊勢神宮を訪れる観光客を対象に食堂を経営しており、今回のデジタル変革を機にビジネスを物産店や商品開発などへ拡大。また、同社におけるデジタル変革から生まれた「経営を可視化する」システムは昨年(2017年)12 月から地方で経営している飲食店やサービス業をターゲットとした一つのパッケージとしてソリューション化を開始。4 月以降、随時提供される予定とのことだ。(2018年 4 月現在ベータ版)
講演の冒頭で、小田島氏はコロンブスの「誰にできることでも、最初にやろうとするには閃きと勇気が必要だ」という言葉を引用し、「AIは誰にも使える技術だが、それをどう使っていくかという点に意味があり、最初に何をするかという点が大きなポイントなのではないか」と語り、具体的にゑびやがどのようにAIを活用してビジネスの変革を実現したのかを説明した。
まず、ゑびやにおけるデジタル変革とAIの意義は、「課題解決の手段として導入する」「現場で活用できるよう従業員を強化する」「オペレーションを最適化する」「製品を変革し、横展開できる仕様にして提供する」という4つのポイントに分けられる。そして、そのデジタル変革を推進する前提として据えたのが、デザイン経営、つまりに未来になりたい店舗の姿を構想して実現するという考え方だ。
「社員、仕事、お客様という3つの視点でデザイン経営を考えた。社員に関しては低い賃金で働くことが当たり前だった飲食業で高い賃金を実現する。仕事に関しては生産性の高い働き方を実現して社員の賃金をあげていく。そして社員がしっかりと利益を生み出してそれをお客様に還元し、最高の顧客体験を提供する。そういう未来を実現したいと考えた。価格競争ではなく、サービス業の本来あるべき姿を追求し、それを実現するためにAIやデータを活用している」(小田島氏)。
このデザイン経営は、小田島氏によると“三輪車経営”という表現ができるのだという。つまり、モチベーションの高い人材が集まる組織、グラフィックや空間デザインといったアートの要素、そしてAIを活用したデータドリブンによるオペレーションの効率化。この3つの車輪を同時に回すことによって、未来になりたい自分たちの理想的な姿を目指して進んでいくという考え方だ。
「デザイン経営は“経営”という言葉がついているが、経営者だけでなく現場の従業員も同じイメージをもって働くということが大切だ。現場でより良いサービスを提供するための手段として、従業員がこのような考え方をもって働くことに意味があるのではないか」(小田島氏)。
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