朝日インタラクティブは2018年2月27~28日、都内で「CNET Japan Live 2018 AI時代の新ビジネスコミュニケーション」と題したイベントを開催し、ビジネスを成長させるコミュニケーションのあり方を議論した。本稿では講演「国産AIの真の実力と富士通が描く企業の未来戦略」ともとに、富士通の取り組みを紹介する。
多くの企業はAI(人工知能)に対する強い関心と一抹の不安を抱いている。大手調査会社によると、AIに対する認識は「知っている(77%)」「ある程度知っている(15%)」という回答が集まり、知らないと回答したのはわずか8%。AIの業務普及タイミングは1年/2年/3年以上がそれぞれ31%、34%、30%と大多数が数年内に広まると見ている。他方で家庭に対するAI普及は61%が3年以上と回答し、家庭への普及に時間を要することは明々白々だ。興味深いのが、AIに対するビジネス活用の姿勢である。AI導入で自身の業務負担が軽減すると回答した方は88%。一方で自身の仕事がAIに置き換わると答えたのは31%にとどまり、AIにポジティブな印象を持っていることを確認できる。
だが、AIの進化が人々の仕事を奪取するという懸念は多くの人々が抱えてきた。富士通 常務理事 グローバルマーケティング部門 首席エバンジェリスト 中山五輪男氏が一例として取り上げたのは、大手証券会社のゴールドマン・サックスである。同社は2000年時点で600人を数えるトレーダーを抱えていたが、AI導入に伴って、2017年にはわずか2人に削減。598人のトレーダーはフィンテックエンジニアなどに転籍したという。「日本ならメガバンクが当てはまる。30~40代の社員が行内にとどまらず、フィンテック系企業へ転職している」(中山氏)と話したように、金融業界はAIによって大きな変革を求められていると紹介した。
この変革は多くの企業へ派生すると中山氏は明言する。先の調査結果を引用し、「AIの業務適用範囲として51%がマーケティング、29%が営業、21%が製造・販売という結果が出ている。彼らはAIで生産性向上(88%)やコスト削減(62%)、ビジネス創出(39%)の実現を目指す」(中山氏)という。背景には、各IT企業のAIに対する取り組みが大きい。IBM WatsonやNEC the WISE、Microsoft Azure、国内なら日立製作所のHitachi AI Technologyもあるが、富士通はMicrosoftとAI分野における戦略的協業を2017年12月に結んだ。「AI案件では衝突することもあるが、両者はパートナー企業として『日本の働き方改革に新風を巻き起こす』ために手を結んだ」(中山氏)。多くのメディアがこの協業に注目したのは、働き方改革に対する具体的ソリューションの不明確さが大きいだろう。
富士通はこの働き方改革を実践するため、社内従業員数百人を対象に業務時間のアンケートを実施した。その結果は会議準備や会議実施(26%)、メールの作成や返信、整理(18%)、情報収集や社内ヒアリングなどの調査・資料作成(22%)と1日の66%にもおよぶ。「ここにメスを入れたら変わる」(中山氏)という視点の元、「メール処理の時間短縮」「会議の設定・運用効率化」「資料・人材探しの迅速化」「トップパフォーマーとの比較による行動改革」でオフィス業務の改革を目指す。
例えばメールは富士通のAIである「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」(以下、Zinrai)と、Microsoft GraphやMyAnalytics、Workplace Analyticsと連携し、メールの内容に含んだ業務の重要性や緊急性を読み取って、「専属秘書のように対応をうながす」(中山氏)。会議については、富士通の対話型AIや自然文解析APIとCognitive Services、Azure Bot Serviceを使った対話形式で、参加者に共通する空き時間の検索が可能。都合を考慮した日時や会議形式、場所などの候補がリストアップできる。資料や人材探索はグラフ構造データを解析する「Deep Tensor」と、学術文献など専門的な知識を蓄積した「ナレッジグラフ」を組み合わせた検索システムを提示。最後のトップパフォーマーは「8対2の法則」で言われる“仕事ができる2割の人材”を指す。彼らの働き方をDeep Tensor、ナレッジグラフ、MyAnalytics、そしてWorkplace Analyticsで可視化し、高成績の理由を解明する仕組み。「顧客から1番欲しいと言われる機能。数カ月先には中堅中小企業でも導入できる価格設定で提供できる」(中山氏)。
このように富士通のZinraiを活用できる分野は広く、同社は顧客の課題を解決するために、17のメニューをソリューション化した「Zinrai課題解決メニュー」を提供中だ。その中でも日本語処理機能は、他のAIに比べて強いアドバンテージを持つと同社は説明する。「とある検証では(Zinraiが)住所など日本語独自の音声情報を正確に判断し、深層学習との組み合わせや話者識別が可能」(中山氏)とし、多様な人物が連絡するコールセンターや、特定多数の人が参加する会議など応用シーンは多い。30年以上、研究を重ねてきた自然文解析について同社は、「高い評価を頂いているが、グローバル時代に日本語だけという訳にはいかない。AI技術を多言語に対応させたい」(中山氏)と述べ、医療現場での診察などに適したウェアラブル型ハンズフリー音声翻訳デバイスを筆頭に、多言語化への拡大を目指す。
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