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老舗食堂が実現したデジタル変革による飲食店経営の未来--ゑびや小田島氏が語る - (page 2)

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AIの活用によって、ゑびやはどのように理想を実現したのか

 こうしたデザイン経営というアプローチによって進むべき方向性を定義したゑびやは、データとAIを活用して、店舗が抱えるさまざまな課題を解決をしていく。小田島氏によると、ゑびやではマイクロソフトのAzure Cognitive Servicesを活用した画像解析AIと、Azure Machine Learningを活用した来店予測AIというふたつのAIを導入し、店舗が抱える課題の解決と理想の実現に挑んだという。

 「私たちは、生産者の不満、従業員の不便、お客様の不満足といったさまざまな『不』を解消したいという考えでAIの導入に至った。これらを解消することで、生産性と企業収益を高め、(企業体力が) 筋肉質な企業へと進化できると考えた」(小田島氏)

 では、それぞれの『不』をAIによってどのように解決したのだろうか。まず小田島氏が説明したのは、顧客満足度の向上のための施策だ。飲食店に来店する顧客にとって、時間は最も重要な価値のひとつだ。たとえば、顧客を待たせずに食事を提供することは顧客満足にとって重要な意味を持つ。しかし、従来は混雑時に食事提供まで最大45分ほど待たせることもあり、長い待ち時間にクレームもあったのだという。スタッフは常にクレームを気にするようになり、ネガティブ思考になっていたのだそうだ。

 これを解決したのが、来店予測AIによる“明日来店する顧客”の把握だ。過去の時間帯別来店データ、地域の宿泊施設の宿泊者数データ、天候や気温などの環境データなど約150項目のデータを分析することによって、例えば“明日のランチタイムにはどれくらいの人が来店するのか”を予測することが可能に。その上で、食材や食器などを事前に準備したり、人員のシフトを最適化したりすることで、混雑にも的確に対応することができるようになる。この仕組みを導入することで、混雑時でも10分から15分で食事を提供できるようになり、クレームも皆無になったのだそうだ。

来店予測AIによって、混雑時の来店者数を予測して事前準備ができるようになった
来店予測AIによって、混雑時の来店者数を予測して事前準備ができるようになった
来客予測(赤)と来客者数(青)の比較。相関係数0.902は日本一の精度と言われているという
来客予測(赤)と来客者数(青)の比較。相関係数0.902は日本一の精度と言われているという

 そして次に、生産者との関係づくりだ。小田島氏によると、ゑびやでは野菜などの仕入れで過度な価格交渉は行わず、基本的には生産者が設定した価格で仕入れるようにしているのだという。これまでの方法では、生産者や問屋と強く交渉して安く材料を仕入れようとすると“安かろう、悪かろう”で良い材料が入手できず、結果的に利益は生まれても顧客満足が高まらないという状況が生まれていたのだという。「かつては、よくある観光地の飲食店で、美味しくないというイメージを持たれていた」(小田島氏)。

 こうした課題に対して、ゑびやでは機械学習を用いて来店者数だけでなくメニューごとの販売数をも直近の販売実績データをもとに予測。一般的に食材の仕入れでは見込みに対して余裕をもった量を仕入れ、その結果食材のロス(廃棄)が生まれるが、このロスを販売予測によって極力減らすことで、生産者や問屋が設定した希望価格で仕入れることができる状態を作り出したのだという。「ロスを減らせれば、その分高く食材を仕入れることができるようになる。その結果、良い食材を提供してもらえるようになり、美味しい料理を提供できることで顧客満足も高まった」(小田島氏)。

仕入れ価格を上げられる仕組みを作ることで、料理の質が高まり顧客満足を生み出した
仕入れ価格を上げられる仕組みを作ることで、料理の質が高まり顧客満足を生み出した

 小田島氏によると、ゑびやで開発した来店予測AIは、ここに紹介しただけでなくさまざまな副産物を生み出しているのだという。例えば、週単位で予測を作るとスタッフのシフト調整や消耗品などの発注が効率化する。また1時間ごとの予測を作ると、店舗の混雑予測に応じて人員配置を最適化して接客以外の業務を任せたり、特定の時間帯だけスタッフに出勤してもらうことにより、スタッフ自身で時間を有効活用して仕事とプライベートの両立が可能になるのだという。また鮮魚を使う料理などは、鮮度が美味しさに影響するため、1時間ごとの予測をもとに仕込むペースを調整することもできるようになったと語る。

「私たちの行っているのは、ほとんどのサービス業で行われている属人的な勘に基づく意思決定をAIの力を借りて機械が行うということ。それによって、人の感覚を数値化してデータに基づいたオペレーションを構築することができる。そうすると、たとえば突然社長がいなくなっても、職人が辞めてしまっても、滞りなく店舗を運営することができるようになる」(小田島氏)。

 とはいえ、従業員の中にはITリテラシーの高くない人も含まれているため、高度な仕組みでは従業員が現場で予測データを活用することができない。そこでゑびやでは、誰が見ても理解できるグラフィカルなインターフェースとして、マイクロソフト『Power BI』を利用している。一目で判断ができる UI により「現場に導入してから、スタッフがデータを活用してオペレーションできるようになるまで1週間は掛からなかったという。また「最初は翌日の予測のみだったが、当日に時間帯別でどれくらいのお客様が来るか、どのメニューがどれくらい販売される可能性があるかなどの情報は、現場スタッフから準備や心構えをするために必要だという声が挙がり開発した。現場の声をもとに、要望が挙がったら翌日には実装するようなスピード感で試行錯誤を繰り返していった」(小田島氏)。

ゑびやが開発したBIツールのダッシュボード
ゑびやが開発したBIツールのダッシュボード

 こうして未来予測を現場に浸透させることで、食材ロスの削減、スタッフの配置最適化、事前準備の徹底などを実現し、取引業者、顧客、従業員それぞれの立場で満足度の高い店舗経営を実現することができるようになったという。

未来予測の導入によるさまざまな効果
未来予測の導入によるさまざまな効果

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