人工知能が苦手なこと、人と共存する未来の姿--研究者から見たAIとは - (page 3)

ブームを超えて実現する人工知能社会とは

 さて、ここからは、ここまでの話を踏まえて、人工知能社会と言われるこれからの社会がどう変わっていくのかについて、松田氏が展望を語った。

 これからの社会を予測するにあたり、松田氏からビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という名言が紹介された。実は人工知能ブームが起こったのは、これが初めてではない。過去に何度もあった人工知能ブーム。その時、どんなことが起こっていたのか。

過去の「人工知能ブーム」の後に起こったこと
過去の「人工知能ブーム」の後に起こったこと

 現代の情報化社会を牽引してきた根幹は、実は「人とコンピュータとの共生」という、生物学にも根ざした思想にあると松田氏は言う。この思想はインターネットの前身となるARPANETを作った、Licklider(リックライダー)氏が1960年に提唱したものだ。

 初期人工知能ブームのさなかであった1960年代。Licklider氏は「人間とコンピュータの共生により、人間はこれまで誰も考えたことのなかった方法で考えることが、マシンはこれまで到達できなかったデータ処理が可能になるだろう」と述べ、論文を発表。「コンピュータは計算・データ処理などが得意で、人間はゴール設定や動機付け、問いを立てることなどが得意である。それぞれが融合し合うことで、人間の能力も機械の能力も、お互いがより発揮し合える関係が作れるだろう」というのがその主旨だ。この考え方によってARPANETやGUIを通し対話型の仕組みが生まれた。

 また、パーソナルコンピューターの父として知られるAlan Kay(アラン・ケイ)氏がその思想を引き継ぎ、「ダイナブック構想」(持ち運びができる小型の“パーソナル”なコンピュータの原型)が提唱される。さらに時代を下ると、その構想を引き継いだSteve Jobs氏がLisa、Macintoshを生み出し、そしてそれはiPhoneにまでつながっているともいえる。つまり、まさにLickliderの思想は、今使われているようなコンピュータを実現したともいえる、大きな概念だった。

 翻って、現在の人工知能ブームを見つめてみると、終焉を迎えつつあるとも取れるようなニュースや発言が出てきている、と松田氏は言う。こうした中で「ブームを超えて未来を創造することも歴史に学べば十分可能ではないか。もしそういうものがあるとすれば、それは『人間の知』に根ざしたものなのではないか」と松田氏は考えている。


現在の「人工知能ブーム」に対する批評の数々

 ではどんなことができるのか。松田氏は一例として「人とコンピュータの共生」という思想に基づいた「人間のホスピタリティを人工知能がサポートする」というアイキュベータの考え方と研究開発を行っているシステムを紹介した。

 「例えば、病院やホテルの受付スタッフは、常連の方や重要なお客さんの顔やいろいろな情報を覚えた上で、いいサービスを提供するのが重要だが、実は『覚える』ということ自体は人間は苦手としている。そこで、統計データ処理の一つ、顔認識技術を使って情報を記憶していくことで、接客サービスの向上ができるのではないか。アイキュベータではそう考えて、顔認識技術を使ったホスピタリティサポートシステムを開発している」(松田氏)

 サービスを行う主体は、あくまで人間であるスタッフ、としながら、松田氏は「スタッフが技術の力で支援されることによって、よりホスピタリティが上がっていく。人間の能力をより高めていくような仕組みが重要と考えて、アイキュベータでは研究開発を進めている」と話す。そして「大切なのは単に技術を輸入するのではなく、人間の『知』を理解した上で、能動的に活用していくこと。それによってブームの先にある、豊かな未来を私たちはこれからいくらでもサービスとして作れるのではないかと思う」とまとめた。

アイキュベータが考える「人間とコンピュータとの共生」の例
アイキュベータが考える「人間とコンピュータとの共生」の例

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