屋台でもスマホで決済--首相の“鶴の一声”で加速するシンガポールのキャッシュレス化

 東南アジアのハブ都市、シンガポールでもモバイル決済の動きは加速している。スーパーはもちろん、タクシー、学校や会社の食堂、ホーカーセンターと呼ばれる屋台街に至るまで利用できるエリアは拡大中。同国におけるキャッシュレス化の最新動向を伝える。

主流はスマホをかざすだけのQRコード決済

 地元紙ストレーツ・タイムズによると、このほど地場の大手スーパーチェーン各社が、続々とQRコード決済システムを導入。シンガポールの電子決済サービス大手NETSが提供するサービスで、QRコードをアプリで読み取るだけで決済できる。

 NETSのQRコード決済は、スーパー以外の小売店や飲食店などにも利用範囲を拡大。その使用感やスムーズさはどれほどのものか、さっそく筆者も試してみた。


最近、QRコード決済に対応したというテーブルウェア専門店で買い物

 使い方はシンプル。支払い時に、店員に「NETSのQRコードで」と伝えると、レジの端末機からQRコードが表示されたレシートが発行された。あらかじめスマホにダウンロードしておいたアプリ「NETSPay」を起動し、QRコードにスマホをかざす。スマホ画面に表示された支払い金額を確認し、暗証番号を入力すると決済完了。アプリから購入履歴を確認できるため、出費の管理もしやすそうだ。

 NETSのQR決済サービスにおいて特筆すべきは、シンガポール最大手のDBS銀行やOCBCバンクなどの地場系金融機関、また米シティバンクなど外資系の機関を含む主要銀行の電子決済との互換性があること。NETSと提携する銀行の顧客であれば誰でも利用できる。

首相の「鶴の一声」で、決済システムは統合へ

 以前よりシンガポールにはモバイル決済の仕組みはすでにあったものの、ここ半年間の動きはめまぐるしい。

 事の発端は、2017年8月9日の独立記念大会でのリー・シェンロン首相のスピーチだった。首相は、キャッシュレス化が浸透している中国を引き合いに出し、シンガポールが遅れていることを指摘。国内におけるデジタル決済システムの統合の必要性を訴えた。

 その3カ月後に、NETSがQRコード決済サービスを発表。主要銀行各社がこれを採用したことで、同国で提供されているほとんどの電子財布での利用が可能となった。

 NETSのQRコード決済は現在、国内20カ所以上にあるホーカーセンター(屋台街)の600店舗を含む、3万カ所以上で導入が完了し、市民の日常に溶け込んでいる。2018年半ばまでに、国内の10万カ所以上に現存するNETS端末機のすべてをQRコード決済対応にする計画だ。


タクシーのQRコード決済広告。タクシーやホーカーセンターなど現金使用率が高い場所に訴求する。

キャッシュレス社会へ向けて、子ども・高齢者にも対応

 シンガポールではこのほかにも、キャッシュレス社会に向けたさまざまなサービスが発表されている。

 同国の銀行協会「ABS」が提供するのは、携帯電話番号か身分証明番号だけで銀行口座間の送金ができるアプリ「PAYNOW」。地場系と外資系の7つの銀行が提携しており、シンガポール国内の口座であれば、他行間でも無料で送金できる。筆者もこのサービスを使い、食事の際などに割り勘する機会が増えた。

 また、2017年8月には郵便貯金銀行「POSB」が電子マネー機能とヘルスケア機能を搭載したスマートウォッチ「POSB Smart Buddy」を発表し、6000個を小学生に配布。子どもは学食や売店などでの買い物に利用でき、親は子どもの電子財布にチャージしたり、使用金額を管理したりできる。


 高齢者にもアプローチしている。電車やバスの乗車時に使う交通系ICカード「EZリンク」はNETSと提携し、4月からNETS端末のある店舗でEZリンクカードや高齢者・学生割引カードで決済できるようにする。銀行口座を持たない高齢者や学生がキャッシュレス化から取り残されないようにすることが目的だ。

 このように、シンガポールではリー首相の発言を皮切りに、現金利用率の高いホーカーセンターやタクシーなどを中心にQRコード決済のインフラ整備が急ピッチで進められている。

 シンガポールは近年、東南アジアの配車アプリ「Grab」が提供する「GrabPay」、中国アリババの「Alipay」、米アップルの「Apple Pay」などのモバイル決済サービスが参入しており、主導権争いが熱を帯びている。標準化を巡って各社がアグレッシブなキャンペーンを展開していることも、同国のキャッシュレス化を後押ししそうだ。

(編集協力:Livit岡徳之)

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