2016年より混乱が続いた韓国の政局は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の罷免と言う衝撃的な結末を迎えた。しかし、5月に大統領選挙が行われると、革新派の文在虎(ムン・ジェイン)氏が当選。当選後に即、大統領に就任し、本格的に政権運営を始動させた文氏であるが、朴氏が大統領に就任した4年前にはフィーバーや高い期待感が漂っていたのと比較すると、今回は非常に静かな幕開けという印象を受ける。
やはり、国民の間には期待と比して政権運営の能力の低さやスキャンダルを露呈させた、前政権への失望とトラウマが根強く残っていることがうかがえる。よって、新政権には過度な期待はせず、文氏の手腕を冷静に見守ろうという国民の様子が感じられる。そんな中で、文氏が打ち出している政策の1つに「北朝鮮への融和政策」がある。特に大統領選挙の前後には、度重なる北朝鮮の挑発行為に、米国が「武力行使も辞さない」と強硬姿勢を示し、日本を初めとする周辺諸国にも結束を求めるなど「朝鮮半島有事」の危機が高まった。
日本での緊迫した報道とは対照的に、韓国内では北朝鮮や米国の動向を淡々と伝えるにとどまり、国民の間からも危機感は感じられなかった。これは、北朝鮮問題よりも経済の立て直しを優先すべきと国民が考えていることの現れでもある。文氏は行動力をアピールすべく先日も北朝鮮との「軍部会議」を提案したものの、北朝鮮から好感触は得られず、出鼻をくじかれた形となった。前政権との違いを明確にし、成果を挙げたいという思惑が感じられるが、しばらくは文氏の政権運営手腕に注視が必要であると言えよう。
前政権では、新たな韓国の産業として「ドローン」に注目し、釜山でアジア最大規模となるドローンショーを開催したり、企業と軍が協力をしてドローンの開発を進めたりしていた。また、学校など教育現場でもドローンの製作や操縦を学ぶ課外講座が開設され、人気を集めていた。
また、企業がスポンサーを積極的に引き受け、若手のドローンレーサーの育成に力を入れていた。最新の産業に目をつけ、投資に惜しまないという点は韓国らしいと言えよう。その背景には、低迷している韓国の産業や経済を活性化させたいという強い意思が感じられる。
しかし、前述のように前政権の終幕と新政権の誕生により、「せっかく軌道に乗ろうとしているドローン産業が頓挫するのではないか?」という危惧が関係者の間では広がっている。そんな中、7月26日の「中小企業ニュース」では国土交通部(日本の国土交通省と同等)は、今後10年間に産業用のドローンの研究開発を目的に約1兆ウォン(日本円で約1000億円)規模の投資をし、世界5位以内を目指すと伝えた。
また、ドローン産業への投資とバックアップによって韓国国内のドローン市場拡大に伴い、2025年までに約16万人がドローン産業に関連した職に就くことを見込んでいる。韓国の主要産業であった造船業が斜陽する中、ドローン産業が新たな地位を確立できるかは未知数であるが、注目すべきところだ。
ドローン産業を韓国の主要産業として確立させる政策については、前政権を踏襲することを明らかにしている文政権。軍でのドローンの活用を積極的に導入しようという動きも見せている。
5月下旬から6月中旬にかけて、海軍はドローン関連の民間企業から講師を招き、「ドローン研修」を開いた。研修で、兵士たちはドローンの飛行技術や撮影技術、情報収集や資料作成についての訓練を受けた。陸上と異なり、海上でのドローンの操縦は気候の影響を受けやすく高度な技術が必要とされる。
今回の研修について海軍は今後も研修を開き、ドローンの活用をさらに取り入れていくとしているが、北朝鮮や東アジア諸国の情勢が目まぐるしく変化する昨今を見据えている側面もあると言えよう。
新政権になってもドローン産業に力を入れていく方針は変わらず、軍や企業が一体となって、開発などの取り組みを続けることが表明されている。さらなるドローン産業の飛躍が期待される。
(編集協力:岡徳之)
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