――メッセージアプリの領域では、2017年はLINEを使っていじめや自殺の相談窓口を整備する事業を開始したり、ネットリテラシーの啓発や、行政との連携などで踏み込んだ取り組みを進めました。
いじめ対策や犯罪の防止はLINEがずっと課題として挙げてきたことで、LINE設立直後から積極的に取り組んできました。そうした取り組みの積み上げの中から、2017年はさらに踏み込んだことができるようになってきました。
特にいじめ問題はLINEとしてしっかりと取り組むべき問題であり、その当事者が主に若年層であることを考えると、若年層の多くが利用しているLINEが彼らの助けになれば(誰かに相談する)ハードルが下がるのではないかと。そこで滋賀県大津市や長野県と取り組みを開始させていただきましたが、特に長野県では2週間の実証実験で前年1年分の電話相談件数を上回りました。有用性が実証されたことで、世の中に若年層が使うツールを活用して課題解決をしていこうという機運が高まっていますので、私たちも自ら積極的に取り組んでいきたいと思います。
また、いじめ問題以外にも、2017年は福岡県福岡市や東京都渋谷区、熊本県熊本市などとも協定を結びました。行政サービスの拡充や防災対策などにLINEを活用していただくという取り組みを拡大させていく予定です。
――メッセージアプリの大きな変化として、メッセージの送信取り消し機能が実装されましたが、ユーザーからの反響はいかがですか。
最近では、一番反響が大きいかもしれません。友人からも「やっと作ってくれてありがとう」という連絡がたくさんきました。ユーザーからの反応もポジティブで、受け入れていただけているのではないかと思います。なぜ今のタイミングなのかと問われると答えに困るのですが、ユーザーの声を聞きつつ検討した結果、実装することになりました。
――ちなみに、既読機能は今後も残すのでしょうか。
既読機能はLINEに最初からある機能で、災害時には既読機能が安否確認の役割を果たしたり、ポジティブな価値もたくさんありますので、特に変更する予定はありません。
――LINEの周辺サービスについては、2017年はどのようなトピックスがありましたか。
大きなところでは、この1年で「LINE NEWS」が大きく成長しました。LINEアプリに「ニュースタブ」というものを設置してアクセスしやすくしたほか、LINE NEWS側も使い勝手を高速で改善していきましたので、その相乗効果で利用者数が大幅に伸びました。年初に比べると3倍程度の増加になっており、スマートフォンニュースサービスとしては、確固たるポジションを確立できたのではないでしょうか。
また、「LINEマンガ」もユーザー数、売上ともに増えており順調に成長していますし、決済サービスの「LINE Pay」も決済高が増加しており、日本だけでなく海外でも成長しています。台湾では市場でナンバーワンのペイメントサービスになっていますね。各サービスともに順調に進捗しています。
――「LINEモバイル」も大きく成長した事業の1つだと思いますが、一方で2017年は楽天が“第4のキャリア”として周波数免許を取得して市場参入することが発表され話題となりました。この動きについてどう見ていますか。LINEが“第5のキャリア”になる可能性はあるのでしょうか。
2017年はMVNOの業界自体が大きな変化を見せました。「Y!mobile」と「UQ mobile」という大手キャリアのサブブランドが予想を超える攻勢をかけていて、MVNO各社が当初の見込みよりも苦しい状況になっていると思います。業界内の再編も進んでいくと言われていますが、その中でより上位のレイヤーでビジネスをしたいというのが、楽天の考えなのではないかと分析をしています。
一方で私どもLINEは、スマホユーザーとの圧倒的な接点を生かすことができますし、申込方法やサービスのフローもスマホユーザーを想定してシンプルに作ってあります。ですので、顧客満足度は常に高い状態をキープしていますし、回線契約数も順調に伸びています。今後もMVNOのスタンスを継続して事業を展開していく予定です。
――直近では、中国のシェアリングサイクル「Mobike」と資本提携してシェアリングエコノミー事業への参入を発表しました。
シェアリングエコノミーのポテンシャルはもはや言うまでもないですが、もともとLINEのつながりとの相性は非常にいいとずっと感じていて、LINEがシェアリングエコノミーに参入することは必然性が非常に高いのではないかと思います。市場規模も大きくなることが期待されていますし、世の中の仕組みそのものを変えていくことも意味のあることではないでしょうか。
シェアリングサイクルについては、いくつかの領域でシェアリングエコノミーの事業化について検討している中で、交通機関が発達している日本において交通機関から自転車への利用促進がしやすいという点もありますし、最近は自動車を持つ人が減少している中で新しい移動の在り方を提案できるのではないかと考えていました。一方で、Mobikeも札幌で実証実験を開始するなど日本展開を加速しようとしていたところでしたので、両社の提携話が加速したということです。
LINEのユーザー向けには、LINE上で最適な形でサービスを勧めて、簡単に利用できるようにする環境や、LINE Payを使って利用料金が簡単に支払える仕組みを整えたいと考えています。また、LINEは行政とのつながりが強くなっていたり、提携している企業も非常に多いので、駐輪場の確保などサービス拡大のための課題解決をサポートできればと思います。
――業界の動向についての考えも聞かせてください。2017年はLINE Payに関する発表も多い1年でしたが、一方でFinTech領域では仮想通貨が大きな盛り上がりを見せました。こうした動きにLINEはどう対応していくのでしょうか。
2017年はFinTech市場の中でさまざまなことが整理され法制度も整ってきて、仮想通貨取扱事業者も増えて盛り上がっている状況ではあると思います。私たちとしても事業の可能性はあると思いますが、ビットコインそのものよりもブロックチェーン技術などを活用して何ができるのかを模索することは、今後のビジネスを考える上で重要なテーマになると思います。
具体的には、LINE Payを軸にしてもう少し幅広い金融サービスに挑戦すべきではないかということは以前から検討してきましたので、2018年はユーザーにより利便性の高いサービスを提供したいと考えています。FinTech領域では大きな動きがあると思いますので期待していただきたいですね。
――2017年は、“インスタ映え”が流行語になるなど「Instagram」が勢いを加速させた1年になりました。中にはLINE疲れからInstagramにメインSNSを移している若年層もいるそうです。
私たちのデータでは、若年層の利用者数減少やアクティブユーザーの減少といった動向は見られません。むしろ、LINEのユーザーはどんどん増えていますし、メッセージの流通量も増加しています。相対的に言えばアクティブユーザーは減っていませんが、分母である総ユーザー数が増えているので、捉え方によっては変化があるといえるのかもしれません。ただ、さまざまなアプリが出てくる中で、ユーザーの利用アプリの動向に動きがあることは当たり前だと思います。そうした状況を踏まえて、LINEがさらに使いやすいサービスを目指していくことが重要だと考えています。
――スマホ向けサービスの中では、Instagramに続き、メルカリも最も勢いがあった企業です。さまざまな事業に進出するメルカリの動向を見ていると、かつてさまざまな領域に事業を拡大していった頃のLINEを彷彿とさせます。
メルカリはすごく良いサービスですし、いい会社ですし、優秀な方が集まって世界に向けて挑戦されているので、これは日本のネット業界全体にとってもいいことだと思います。事業を拡大しているとおっしゃいましたが、それぞれの事業が必然性の高い領域を的確に捉えていらっしゃいますし、これからも動向は注目したいですね。
――LINEが再びフリマアプリを開始したり、買取サービスの領域に進出する可能性はありますか。
「LINEショッピング」は非常に成長していますので、EC事業のビジネスモデルには関心がありますが、CtoCの領域は一度挑戦してその後撤退したという経緯もありますので、現時点では考えていませんね。買取サービスについても同様に、現時点では考えていません。
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