日本におけるロボティクス産業は、製造や流通の業務効率化を実現した産業用機械の分野や、ソフトバンクロボティクスの「Pepper」に代表されるコミュニケーション分野においてめざましい発展を遂げている。その中で、医療・ヘルスケアの分野でロボティクスはどのように活用されており、またどのような可能性を秘めているのだろうか。
メドピアがこのほど開催したヘルステックのグローバルカンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」において、「日本のモノづくり~ロボットの進化~」と題したパネルディスカッションが行われ、藤田保健衛生大学 総合消化器外科の教授である宇山一朗氏とメディカロイドの代表取締役社長である橋本康彦氏が登壇。また、MICOTOテクノロジーの代表取締役社長である檜山康明氏、トヨタ自動車のパートナーロボット部長である玉置章文氏、オリィ研究所の代表取締役である吉藤健太朗氏がデモンストレーションに登場した。
まず、宇山氏と橋本氏はそれぞれの立場でどのようにロボットを活用しているのかについて紹介した。
消化器外科の医師である宇山氏は、実際の医療現場における手術支援ロボットの活用を8年前から推進。これまでロボットを活用した外科手術を数百例手掛けているのだという。
宇山氏が語ったのは、外科手術における低侵襲技術の進歩の歴史だ。一般的な回復手術に比べて小さな切開創で手術を行う低侵襲手術は、皮膚や筋肉など身体へのダメージを最小限に抑えるため患者の負担を小さくすることができると言われている。
宇山氏は、「以前は、胃がんなどの手術は開腹手術しか存在しなかったが、1990年代からお腹に小さな穴を空けて機器を入れてモニタで術野を観ながら行う腹腔鏡手術が登場した。当時は腹腔鏡手術に対し、直接目視で手術を行う開腹手術よりも劣ると批判があったが、腹腔鏡手術をいち早く取り入れた医師たちは、開腹手術と同等の手術効果を小さい傷で達成することを目標に技術を磨いてきた」とコメント。
その上で、「(低侵襲手術が)次のステップに進むためには、従来の手術に劣らないという考えに甘んじるのではなく、根治性、安全性で従来の手術を凌駕するものでなければならない。腹腔鏡手術は視野の制限や医療器具の動作制限などがある中で手術をしなければならないが、これを克服するための手段として巡り合ったのが、ロボット手術システム『ダヴィンチ』だった」と語る。
従来の腹腔鏡手術をダヴィンチで行うことで、術野(手術部位の視野)における動作自由度が高まったり、人間の手の震えを補正したりしながら、人間の手より精密な手術ができるようになった。
「ダヴィンチを導入したことで、小さい傷でがんの根治、安全性、患者の予後といった手術結果で従来の開腹手術を大きく上回ることを目指して取り組んでいる。ロボットは人の手を助けてくれる存在であり、ダヴィンチが自動で手術をしてくれるわけではない。しかし、人間の手ではできない精緻な手術ができるという点が大きな価値となっている」(宇山氏)。
ちなみに、現在ロボット手術システムで実用化されているのは、この米国で開発されたダヴィンチのみなのだという。宇山氏は「日本人と米国人では身体の特徴やガンの種類が異なり、また手術に対するアプローチも大きく異なる。今後は日本の身体や手術のコンセプトに合わせたロボット手術システムの開発に医師として貢献できれば」と語り、国産ロボット手術システムの実現に期待を寄せた。
一方、兵庫県で医療用ロボット開発を展開するメディカロイドは、産業用機械大手の川崎重工と医療検査機器大手のシスメックスが合弁で2013年に設立した会社で、川崎重工の培ってきたロボット開発のノウハウとシスメックスが蓄積してきた医療用機器開発のノウハウを融合して医療用ロボット開発を推進するという。
橋本氏は、同社のロボット開発に対する考えについて「産業用ロボットは、従来は私たちの生活に馴染みのないものというイメージがあったが、最近では産業用ロボットは人と共存してサポートする存在になりつつあり、そこから医療用ロボットに活用できる技術が確立してきた。川崎重工時代から産業用ロボットの開発で培った技術や信頼性を活用して、これからさまざまな医療分野でロボット開発に貢献していきたい」と紹介した。
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