後半は、デモを行った3名も加えてそれぞれの立場で医療ロボットへの取り組みに関する考えを語り合った。
医療ロボットの活用で重視している点について、手術用ロボット「ダヴィンチ」を医療で活用している宇山氏は、ダヴィンチの長所に“操作の直感性”を挙げ、「どんなに精緻で多機能な手技ができるロボットでも直感的に使用できなければ使い手のトレーニングをしなければならない。また、手術中に起きるさまざまな事態に迅速に対応するためにも、直感的に操作できることは重要だ」とコメント。
これに対してロボット開発に携わる橋本氏は、「これからのロボット開発においては、どのようなアウトプットを実現するかという点で進化を遂げていくことも重要だが、一方で入力のわかりやすさ、人間が従来持つ機能を拡張するという方向性で進化させていくことも重要だ。このふたつの方向性で進化すると社会に受け入れられて医療に貢献できるのではないか」と宇山氏の考えに賛同した。
一方、生活支援のロボットを手がけるトヨタ自動車の玉置氏は「重要なのは“主役は人間である”ということ。人間がロボットをコントロールして、ロボットを道具のひとつとして今までできなかったことを実現することを意識して開発していかなければならない」と語り、MICOTOテクノロジーの檜山氏は「人間の身体を忠実に再現したロボットを実現するためには、解剖学的な知見を持つ医師の協力体制が欠かせない」と語った。
そして、オリィ研究所の吉藤氏は「ロボットはツールでしかなく、ロボットに何をさせるかではなく、ロボットによって使う人の生活がどう変わるかにしか興味はない」と他の登壇者とは異なる立場で意見を語った。
「ALSの患者の中には、呼吸器を取り付けて生活をしている人は3割しかいない。つまり7割の人は(いずれ自発呼吸が困難になっても)死ぬことを選択している。これだけ医療が発達して社会の支援によって生きていくことができるのに。そこで生きることを選んだ3割の人に話を聞くと、ほとんどの方は“自分は人のために何かできることがある”という自覚を持っていらっしゃる。つまり、死を選択する7割の方は“自分は周囲に迷惑を掛けることしかできない”と考えているということではないか。そういう人たちが“誰かに必要とされる”状態にして生きていく意思を持ってもらうことが重要であり、テクノロジはそれを実現するための選択肢に過ぎない」(吉藤氏)。
また、医療用ロボットを加速させるための環境整備、特に法整備について吉藤氏は「補助金によってOriHimeの導入が容易になったことで、(普及の)後押しになった」とコメント。檜山氏は「座学中心の医療教育の現場に、ロボットの発展によってもっと実践的な技術習得の機会を増やしてほしい」と語り、玉置氏は「制度整備は進んできているが、まだシーズとニーズのマッチングが進んでいない。作る側だけでなく、使う側が本気でテクノロジを活用しなければ、社会を支えきれないのではないか」と課題を提起した。
橋本氏は、「ロボットは本来さまざまな場面で供給できるテクノロジだが、どうしても想定されるリスクばかりを優先して考えてしまう。世の中にとっての価値を重視しながらもっとアクティブに実装できる体制ができれば活用が拡大するのでは」と語った。宇山氏は、「ロボット手術が本当に良い手段なのかはしっかりとエビデンスで評価すべきだ。そしてその有用性が評価された場合には、社会保障費を投入して誰でも経済的な心配なく保険診療としてロボット手術を活用できる環境を作るべきだ」とし、医療の経済格差をなくすべきだという認識を示した。
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