今村氏は、5Gの特許が、同社の中期計画で打ち出している、IoTの概念にAIを取り入れた「AIoT」やディスプレイ技術で強みを持つ「8K」のエコシステムを構築する上でも重要になってくると話す。だが携帯電話向けの通信方式と、AIoTや8Kに直接の関連性のない通信技術に関する特許が、これらに対してどのような影響をもたらすのかはイメージしづらい。
この点について今村氏は、「スマートフォンと4Gの時の関係と同じだ」と答えている。すでにコネクテッドカーなどの分野で自動車業界に通信技術が入り込んでいるが、5Gではそうした動きが一層加速し、スマートフォン以外のデバイスで5Gの利用が大きく広がる可能性が高い。もしそうしたデバイスに対して通信技術を組み込もうとした時、特許を持っていなければ、3Gの時代の端末開発で苦しんだのと同じ特許紛争に再び悩まされてしまう。それゆえ新しいデバイスを開発する上でも、先んじて通信に関する基礎技術の特許を獲得することが、ビジネス戦略として重要になってくる。
実際シャープはNTTドコモと、5Gのネットワークを活用して8Kの映像を12チャンネル転送し、シャープの8Kディスプレイに表示する実証実験を実施。「8Kはデータ量が大きく、現時点において衛星放送では1チャネルしか放送できないことから、実は8Kと5Gは親和性が高い」と今村氏が話すように、シャープは5Gを、スマートフォンにとどまらない、広いデバイスへと活用することを検討しているようだ。
日本ではシャープなどの端末メーカーが3GPPでの標準化作業と特許の取得に力を入れるようになったが、一方で携帯電話基地局などを手掛けてきた企業の特許取得数は減少傾向にあるようだ。4Gの時代になって外資系の基地局ベンダーが日本市場に積極的に進出し、市場を奪われてしまったことも一因であるという。通信事業の割合が小さくなった企業が増えたことから、標準化作業に積極的に参加する日本企業も減少傾向にある。
その一方で、標準化で急速に存在感を示すようになってきたのが中国企業だ。中国では国策として通信事業に力を入れており、3Gではあまり特許を取得していなかったが、4Gの特許シェアでは2割にまで達している。今村氏は「5Gで再び大きく変わるのではないか」と話し、一層中国企業の存在感が高まっていく可能性を示唆した。
「特許は国力みたいなものだと思う。日本(の特許取得数)が落ちると事業的にかなり厳しい状態に置かれてしまい、あまりよいことではない」と、今村氏は話す。それだけにシャープは日本企業として、今後も積極的に技術研究を進め、標準化作業に参加し特許獲得を進めていきたいと、今村氏は話している。
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