「特許は国力のようなもの」--シャープが取り組む「5G」の特許戦略

 日本では2020年のサービス開始が予定されている、次世代のモバイル通信規格「5G」の一部標準化が間もなく完了を迎える。そして、現在進められている3GPPでの標準化作業に積極的参加し、なおかつ4Gでも多くの特許を保有している日本企業の1社に挙げられるのが、実はシャープなのである。

 なぜシャープは標準化に参加して特許取得に力を入れているのか。同社の研究開発事業本部 通信・映像技術研究所 副所長 兼 第一研究室長の今村公彦氏に話を聞いた。

シャープ 研究開発事業本部 通信・映像技術研究所 副所長 兼 第一研究室長の今村公彦氏
シャープ 研究開発事業本部 通信・映像技術研究所 副所長 兼 第一研究室長の今村公彦氏

標準化への参加は3Gの苦い経験から

 いまモバイル通信の標準化団体「3GPP」で進められているのが、現在主流の通信方式「4G」の次の世代となる、新しい通信方式「5G」の標準化だ。5Gは下り最大20Gbpsの高速通信を実現するなど、4Gよりはるかに高い性能を備えるのが特徴で、日本ではNTTドコモが、東京2020オリンピック・パラリンピックを迎える2020年に合わせてサービス開始を予定している。

 その5Gの中で、5Gと4Gのネットワークを併用する仕組み「Non-Standalone」の標準化作業が、12月21日に完了する予定だ。この標準化作業が完了すれば、2020年の5Gサービス実現も現実味を増すだけに、通信業界では非常に重要な意味を持つ。

 そしてこの5Gの標準化作業に、積極的に参加している日本企業の1つがシャープである。今村氏によると、シャープは4Gの時からすでに3GPPでの標準化作業に参加しており、世界各国の企業が持つ4Gの特許のうち4%、日本企業の中ではシャープとNTTドコモが特許保有数を牽引している。

4Gの特許は日本企業が14%のシェアを獲得しており、シャープとNTTドコモが特許保有数をけん引している
4Gの特許は日本企業が14%のシェアを獲得しており、シャープとNTTドコモが特許保有数をけん引している

 シャープはもともとPCを開発していたこともあり、2000年頃から研究開発本部で無線LANなどのワイヤレス通信技術の研究・開発を進めていた。だがその後、携帯電話事業の重要性が高まってきたことを受け、2004年頃から3GPPでLTEの標準化活動に参加するようになったという。同社は主に基地局と端末間の無線プロトコルに関連する研究に力を入れていることから、5Gでもそうした部分での標準化作業に力を入れている。

 だがシャープは国内でこそスマートフォンメーカーの大手であるものの、その事業範囲はほぼ国内に限られており、決して世界的に存在感が高い訳ではない。にもかかわらず、なぜ3GPPの標準化に積極的に参加し、特許の獲得に力を入れる必要があるのだろうか。

 その理由について、「相手とつながるためには、決められた通りの仕様で作らないといけないという特殊性がある」ためと話す。つまり4G、5Gに対応したスマートフォンを作るには、3GPPで定められた仕様の通りに作る必要があることから、標準化に参加して特許を持つ企業の影響を大きく受ける可能性が、必然的に高まるわけだ。

 実際に「3Gの時代、仕様に従って端末を開発したにもかかわらず、特許を持つ企業から高額な使用料を請求され、困ったことがある」と話している。そうした通信業界の特殊性から、単に安くて質がいいものを作るだけでは今後も特許紛争に巻き込まれるリスクがあると判断。自ら特許を取得することで紛争時に交渉できるようカードを持つことが重要と考え、3GPPでの標準化に参加するに至ったのだそうだ。

 だが3GPPでの標準化作業では、複数の企業が持ち込んだが技術を、ワーキンググループで議論しながら1つの仕様へと落とし込んでいくため、必ずしも自社の技術がすべて採用されるとは限らない。しかも3GPPでは、ワーキンググループの参加者全員が合意しなければ最終的な仕様が出せないので、技術仕様は「必然的に混ぜ合わせたものとなり、誰が提案したものか分かりにくくなる」という。

 そうなると、どの部分がどの企業の特許になるのかはっきりしないように思える。この点について今村氏は、「どの部分の特許を持つかという宣言は各社が実施するものの、実際に個別に交渉する際は、仕様書と各社の特許請求要綱を合わせ、『こういった理由で、このわれわれの提案が仕様に反映されている』というエビデンスを作ることになる」と話す。

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